シューホフが初めて設計した双曲面構造のタワ。リペツク州ポリビノ
Legion Mediaウラジーミル・シューホフの最も革新的で有名なデザインは、彼の手掛けた建造物の多くがそうであったように、その驚くべきシンプルさにある。シューホフの友人であるピョートル・フジャコフは1880年代の回想録に、「シューホフの発明は多くの役人には気に入らないものだった。『うんざりするほど安上がり』で、公金を使い込む余地がなかったからだ」と記している。
シューホフが1894年から1896年にかけて特許を取得した双曲面構造のタワーとグリッドシェル構造は実に安価なもので、短期間で建設することができた。さらに、耐久性にも非常に優れていたため、19世紀後半から20世紀初頭にかけて建てられたシューホフ・タワーたちは現在もその建造当時の姿を保っている。
モスクワの「シューホフ・タワー」
Legion Mediaシューホフ・タワーの主たる原理は軽量の鉄梁を格子状に組んだその双曲面構造にある。鉄梁の一本一本が一定の傾角と曲率で組まれながら、鉄梁自体は直線であるため、建設資材の輸送効率という点でも優れている。また、その格子状の構造と自重からタワーは非常に強度があり、強風にもびくともしない。このデザインの閃きはいかにもロシアらしいもので、軽量でありながら相当な重量を耐え支えることができるロシアの編み籠から着想を得た。
モスクワの「シューホフ・タワー」
Legion Mediaシューホフが考案した原理が採用されたタワーの中では、モスクワのいわゆる「シューホフ・タワー」(1919~1922年建造)が最も有名だが、それ以外にも彼が設計した200基以上のタワーに同様の原理が用いられている。彼が初めて設計した双曲面構造のタワーは、1896年に開催された全ロシア博覧会のために建造されたもので、リペツク州ポリビノに現在も保存されている。
神戸ポートタワー
Legion Mediaキエフスキー駅
Legion Media双曲面構造タワーのアイデアと並行して、シューホフはグリッドシェル構造も考案した。部分的にはタワーの設計にも用いられ、また建築物や展示パビリオンに光透過率の優れた、短期間で組み上げることのできる屋根を作るのにも活用された。
グム百貨店
Legion Mediaシューホフの格子状の屋根は、プーシキン美術館やグム百貨店など多数の建築物に採用されている。最も印象的な屋根のひとつは、モスクワのキエフスキー駅の駅舎に設置されたもので、その全長は230mにも及ぶ(今でも当時のままの姿で、現役である)。
シューホフの分解法を採用したソ連の石油精製プラント。バクー(現在のアゼルバイジャンの首都)
Legion Mediaウラジーミル・シューホフが初めて特許を取得した発明は、1876年、彼がわずか23歳のときに考案した重油成分を分散させるための蒸気動力ノズルだった。シューホフはその後も石油機関(オイルエンジン)と石油精製の研究を続けた。そして1891年、連続運転が可能な管状の石油熱分解装置を開発し、「シューホフ・クラッキング」として知られる世界初の熱分解法の特許を取得した。
1931年には、バクー(現在のアゼルバイジャンの首都)に彼の分解法を採用したソ連の石油精製プラントが建設された。この分解法の利点は、復水器とボイラーの両方の加圧状態が途切れることなく保たれることにあった。
1908年、アメリカの技師ウィリアム・バートンとロバート・E・ハンフレーズが独自に同様の熱分解法を考案し、特許を取得した。1924年にアメリカのシンクレア・オイルコーポレーションの代表団がモスクワのシューホフのもとを訪れたとき、ウラジーミル・シューホフは、アメリカで考案された方法は実のところ彼の方法の軽微な修正に過ぎないことに気づき、「ロシア石油産業にとって、アメリカ側から熱分解法を『タダで拝借した』と非難されることなく、ここで説明されている方法の何れかに従って熱分解装置を作ることは難しくないでしょう」と誇らしげに語った。
シューホフは石油パイプラインの設計も手掛け、1878年、バクーに建設されたロシア初のパイプラインを設計した。また、彼の設計と監督のもと、バクーからバトゥミまでの全長883kmのパイプライン(1907年)や、グロズヌイからトゥアプセまでの全長618kmのパイプライン(1928年)も建設された。
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