今日に至るまで、「ツングースカ大爆発」については多くの説があるが、広く受け入れられているものは一つもない。
あの運命の日に、エニセイ川支流のポドカメンナヤ・ツングースカ川上流域で、いったい何が起きたのか?まずは珍説をいくつかご紹介しよう。
先住民エヴェンキ人によれば、これは世界の終わりの始まりであり、強大な神アグディが無法な人間たちを罰するために地上に降り立ったのだという。ソ連時代には、想像力豊かな作家たちは、異星人の宇宙船が墜落したと憶測した。より科学的な観点からは、これは反物質の爆発、あるいは氷彗星、さらにはミニブラックホールだった可能性があると主張する研究者もいる。
痕跡を残さなかった物体
2008 年に、これまで知られていなかった説が示された。これは、アンドレイ・オリホバトフ博士が出版したもので、彼は、「ツングースカ大爆発」を研究している。ただし、実はこの説は、ソ連の民俗学者セヴィヤン・ヴァインシュテインが1948年にすでに記していたもので、オリホバトフはそれを再度提示したにすぎない。
当時19歳だった地元住民イリヤ・ティガノフは、事件をこう振り返る。その一、二日前の夜、空はまるで夜明けのように明るかったが、彼がそれ以前に何度も見たことのあるオーロラではなかったという。なぜなら、オーロラは夏の太陽の下ではほとんど見えないからだ、と。
そして、突然、空全体が明るくなった、とティガノフは回想する(彼は、明るい夜は眠れなかった)。彼だけではない。他の地元民も眠れず、犬が叫んだり遠吠えしたりした。朝、ティガノフは、向かって左側の空に「第二の太陽」とでもいったものがポドカメンナヤ・ツングースカ河岸に沿って飛んでいるのを見て驚愕した。これは、本物の太陽よりも明るかったという。
それと同時に、いかなる雷鳴をも凌ぐ轟音が鳴り響いた。間もなく眩い火柱が煙もなく空に立ち上がり、後にも先にも聞いたことのないような爆発音が耳をつんざいた。大地が震え、猛烈な風が吹き荒れた。 タイガ全域で、巨木が根ごと地面から引き抜かれた。
それからすべてが静まったが、次の一晩か二晩はまだ非常に明るく、犬たちはほとんど絶え間なく喚いたり、遠吠えしたりし続けた。
さて、「ツングースカ大爆発」を調査して明らかになった主な難題は、1908 年 6 月 30 日に地球に衝突した、あるいは地球上を飛行した物体の破片がまったく発見されていないことだ。
衝突せずに通過した?
ロシアの最近の科学論文が、2020 年 2 月に、イギリスの王立天文学会の権威ある学術雑誌『王立天文学会月報』に掲載された。この論文は次のように主張する。
「ツングースカの現象は、鉄でできた小惑星によって引き起こされた。それは地球の大気を通過し、太陽に近い軌道を回り続けた」。今のところ、これが唯一のもっともらしい説とみなされている。「ツングースカの天体」が地球表面に残骸を残さなかった事実を十分説明しているからだ。
ソ連時代に流布していた仮説は、ツングースカの天体は氷の彗星だというものだ。しかし、地球の大気と摩擦すれば熱が発生するので、氷の天体ならば、地球に近づけば、完全に溶けてしまっただろう。石の隕石も圧力が増して粉々に砕け散っただろう。地球の大気が微小な亀裂を通って飛行物体に侵入するからだ。物体の全体を維持できるだけ安定しているのは鉄の隕石だけである。研究者たちはこう主張する。
したがって、最も可能性の高い仮説は次の通りである。ツングースカの物体は、直径約100~200メートルの鉄の塊で、大気中を 3,000 キロメートル飛行した。こうした特性により、速度は秒速 7メートル、飛行高度は約 11 キロメートルになるはずである。
このモデルは、ツングースカ現象のいくつかの特徴を説明する。衝突によるクレーターがないのは、隕石が地球に落下しなかったからだ。鉄の破片がないのは、その高速によっても説明される。
なぜなら、物体の動きが速すぎ、熱すぎるからだ。研究者らによると、質量は、個々の鉄原子の昇華(つまり液体を経ずに一気に気化する)で減少する可能性があり、そうなると、地球上の通常の酸化物とまったく同じように見える。だから、それらを土壌から分離することは不可能である――。
この最新の理論はかなり説得力があるようだが、やはり科学的に批判され、広く認められねば通説にはなり得ないだろう。