最初の宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンは、伝説的な宇宙飛行を終えて国家委員会の委員らに会った際、ある非常に重要なことを忘れずに伝えた。「私はその喜びの場で何度か写真撮影に応じた。それまでに私は宇宙服を脱いでいた。私は青い暖かい服だけを着ており、オレンジ色と灰色の宇宙服と気密ヘルメットを着て写真に写ることはなかった。宇宙服は車にしまった」。
実際、着陸後に撮られた写真では、宇宙飛行士はソビエト時代の「ヴァトニク」(19世紀半ばに制服としてロシア帝国軍に採用され、後には囚人も着るようになった綿入り上着)に似たジャンパーを着ている。実はこれは保温服「B-3」で、ガガーリンはこれを宇宙服の下に着ていた。だが宇宙服はどこにも見当たらない。
なぜ宇宙服を隠す必要があったのだろうか。
宇宙服なしで飛べ
人類初の宇宙飛行士のための宇宙服を巡って展開した戦いは緊迫していた。最初に宇宙へ行く人間――このような危険な旅に出る者に何を着せるべきだろうか。
今では馬鹿らしく思えるが、当時専門家の一部はユーリー・ガガーリンが保温服だけで宇宙へ行けると真剣に考えていた。保温服は着陸後や着水後に宇宙飛行士を低温から救うことを目的としたもので、宇宙で船の気密性が破られれば全く役に立たなかった。つまり、宇宙飛行士に宇宙服なしで旅に行かせようとしたのだ。
このような案が検討されたのは、ボストーク号の開発者らが1960年2月に重量超過という深刻な問題に気付き、装備を大きく削減する必要性に迫られたからだ。この際彼らは非常に楽観的な予測をしていた。船の気密性が破られる可能性は低く、宇宙服は不必要なばかりか、余計な重量を増やしてしまうというのだ。
宇宙飛行士に宇宙服が必要か否かという論争は夏まで続いた。問題に終止符を打ったのはソビエト宇宙工学の父と呼ばれる設計者セルゲイ・コロリョフだった。彼は[船の機械設備を]「500キログラム犠牲にする準備があるが、それは生命維持システムを持つ宇宙服を年末までに完成させるためだ」と述べた。
こうして世界初の宇宙服「SK-1」が発明されることになったが、宇宙飛行予定日まですでに8ヶ月を切っていた。
最初の宇宙服
近道をしてSu-9戦闘機の操縦士用のスーツ「ヴォルクタ」が試作品として採用されることになった。戦闘機でも気圧の調節と酸素の供給が極めて重要だ。
「SK-1」は2層の布から成る「柔らかい」宇宙服だった。一層はポリエステルないしポリエチレンテレフタレートの布で、これは熱可塑性樹脂だった。これは当時最新の素材で、科学アカデミー高分子化合物研究所で1949年に作られたばかりだった。ポリエステルの布で宇宙服の「力層」が作られた(現在では例えばペットボトルを作るのに用いられている)。
内側のいわゆる「気密層」はゴムで作られた。皆が目にした外層はオレンジ色の防水カバーだった。オレンジ色だったのは、宇宙飛行士が船を脱出してパラシュートで着陸した際に見つけやすくするためだ。
ヘルメットは取り外すことができず、圧力のセンサーが取り付けられていた。気圧が下がれば、ヘルメットは自動で閉まり、宇宙服の内層を宇宙船の空気で膨らませていたホースが切断される。この場合の空気の供給は酸素ボンベで行われる。このような宇宙服で宇宙空間に出ることはもちろん不可能だが、宇宙飛行士は宇宙船内で自律的に5時間過ごすことができた。ちなみに最初の宇宙服にも屎尿処理装置が付いており、用を足すために服を脱ぐ必要はなかった。
「SK-1」は初期の宇宙飛行士らの体格に合わせて作られており、万人が着られるものではなかった。宇宙服の重量はヘルメットを入れて20キログラムだった。このような服を他人の助けなしに自分で着ることはできなかった。服を着せるための明確な手順があり、どの順番で脚や腕などをはめるか決まっていた。脱ぐのは自力でできた。
ガガーリンは数層の服を着ていた。下着、保温服、ポリエステルの層、ゴムの層、そしてオレンジ色の外層だ。しかしなぜ彼はこの姿で写真に写ってはいけなかったのだろうか。
秘密任務を帯びた人物
その理由は宇宙服の極秘性にあった。これは真のソビエトの発明品だと見なされていた。素材も製造方法も、宇宙開発競争の中では国家機密とされたのだ。明るいオレンジ色の外層には、その下にある宇宙服を部外者の目から隠す役割もあった。
ユーリー・ガガーリンは、他の指示に加えて、着陸後に次のことを実行するよう命じられていた。すなわち、どこに着陸しようと宇宙服を保護する策を取り、無理ならば破壊しなければならなかった。これを監督するため、ガガーリンに宇宙服開発技師の一人、オタ・ミトフラバノヴィチ・バフラモフが付けられた。1961年4月12日、彼は数人しか知らない秘密任務を遂行していた。
着陸地点でバフラモフはガガーリンないし捜索救助隊の隊長から宇宙服を受け取ることになっていた。当日、秘密任務を帯びた技師は何枚かのアマチュア写真に写り込んだ。帽子をかぶり、半コートを着た屈強な男を見て、エンゲリスの住民は彼が宇宙飛行士のボディーガードで国家保安職員だと勘違いした。真実は無味乾燥だ。バフラモフは宇宙服を取りにきただけだった。