2030年までにロシアのファッションテックはどう変化するか?

テック
ヴィクトリヤ・リャビコワ
 ヴァーチャル・フィッティングをし、誰もが自分だけのオリジナルデザインの服を簡単に作り、「定期購入」でワードローブを入れ替える・・・。そんな未来の技術がロシアでは10年以内にすべて現実のものとなる可能性がある。そんな流れを支えるのが、ロシア教育・科学省のアカデミック・リーダーシップ・プログラム「プライオリティ2030」に参加するサンクトペテルブルク産業技術デザイン大学の新たなコースである。

 インスタグラムに投稿された画像では、トレンドの白のスーツにトレンドのスニーカーを履いた女性がしゃがんでいる。この女性の洋服がヴァーチャルであるはとても信じられない。洋服は、ロシアのファッションブランド「Ecoolska」がデザインした。

 しかも、10年後には、人々がソーシャルネットワークやメタバースでの交流のために、こうしたヴァーチャルファッションを大量に購入することになるとは想像し難い。お店の中にある普通のフィッティングルームはなくなり、おそらく実店舗も現在のような形では存在しなくなるだろう。実際の服のサイズやモデルも、スマホで選べるようになるのである。必要な洋服一式は「定期購入」で毎月、送られてくるようになり、もう着なくなった洋服は店舗に返却するかリフォームに出すことができるようになる。

 サンクトペテルブルク産業技術デザイン大学のファッションテック部門を率いるマクシム・エルマチコフ代表は、大学の新たなコースの活動は、ロシアや世界で、このような未来を作る一助となるものと確信している。ファッションテック学部は2021年4月に新たに開設された。

 サンクトペテルブルク産業技術デザイン大学は、ファッションテック分野での活動を含めた2030年までのコースの発展プログラムについてプレゼンテーションを行い、ロシア科学教育省の特別委員会はこの学部をアカデミック・リーダーシップ・プログラム「プライオリティ2030」の参加グループに選んだ。プログラムの枠内で、大学は2030年まで毎年1億ルーブル(およそ1億4,000万円)以上を受け取ることができる(「プリオリテート2030」プログラムについて詳しくはこちらから)。

 エルマチコフ氏は、「我々の課題は、ロシアにおけるファッションテックを発展させるだけでなく、この技術を世界経済に統合させていくことができる専門家を養成することです」と語っている。

 

生産に代わるデザイン

 この部門で教鞭をとることになるのは、3Dモデリング、ヴァーチャルフィッティング、デジタルファッションなどんプロジェクトの創始者やアリエクスプレスロシアから招いた専門家である。学生たちは、ヴァーチャルのアバターや洋服の作り方やコレクションのデジタル化を学ぶ。

 またメディア用のコンテンツの作り方やNFTでのデザインの考案、空間デザインや産業デザイン、またエコ素材、「スマート」素材の使い方、生分解性の洋服、化学熱傷や放射線から保護する製品などについて学ぶ。またこの部門の活動には、その他のデザイナーや将来の顧客や一般市民も参加する。 

 エルマチコフ氏は、「このプログラムを通じて偶然の出会いが起こることが重要なのです。様々な部門の専門家が同じ課題について話し合うことで、開かれた空間が創造のプロセスに効果的な影響を与えることになるのです」と語っている。

 学生たちは、IT企業を中心とする実際の注文主からの依頼を受け、実践を行う。現在、学生たちは仮想通貨を日常で使用するための金融商品を開発しているヨーロッパの企業「Embily」のため、NFTアートコレクションを作っている。 

 卒業後、学生たちは、ファッション業界におけるスタートアップを立ち上げ、電子機器やIT企業のアプリのデザインを考案したり、アパレル業界の大手企業のためにヴァーチャル・ショールームを作ったり、エコ素材のコレクションを作ったり、今後のファッショントレンドについてアドバイスしたりすることになる。

 ファッションテックの発展は総じて、ファッション業界全体を変えるものになるとエルマチコフ氏は確信している。ヴァーチャルフィッティングに加え、各ブランド企業は、注文に応じて洋服を製造することで、過剰生産の問題を解決し、それにより環境にも良い影響を及ぼすことを期待している。

 エルマチコフ氏は言う。「大々的なアパレル企業を作る必要はなくなります。多大な影響をもたらすデザイン事務所さえあれば十分になるのです。つまり、事務所は洋服そのものを作るのではなく、デザインを提示し、注文が入ればそれを製造します。現在、すでに多くのブランド企業が人気のない古いコレクションを処分しています」。

ロシアの大学における新たなデジタルの職業

 ファッションテックは、ロシアの大学で取り入れられている新たなコースの一つにすぎない。たとえば、アカデミック・リーダーシップ・プログラム「プライオリティ2030」の枠内では、モスクワ物理技術大学が「技術革新のための技術者」プロジェクトを展開している。モスクワ物理化学大学で学ぶ学生のうち、30%がプログラムのパートナーである企業や工場でのビジネスを発展させることを学ぶ「未来のエンジニア」として養成されることになっている。

 一方、モスクワ国際関係大学も新たな学部を開設している。