ロシア軍は核兵器運搬手段、つまり戦略爆撃機、潜水艦、大陸間弾道ミサイル・サイロを計700保有している。
しかし、たとえ核攻撃でロシア全土が壊滅したとしても、この核兵器運搬手段のうちいくつかが自律的に作動して敵を攻撃できるということは、あまり知られていない。
このシステムは「死の手」と呼ばれている。どのような仕組みなのだろうか。
「死の手」とは何か
欧米諸国が「死の手」と呼ぶ「ペリメトル」は、報復核攻撃を行う自動制御システムだ。
簡単に言えば、もし核攻撃でロシア国家が壊滅すれば、「ペリメトル」が核ミサイルで自動的に敵国を攻撃する。
なぜ作られたのか
冷戦の最中、ソビエト軍司令部は核兵器施設を司る司令部が敵の核ミサイル一発で破壊され得ることを理解していた。
電子戦兵器によって戦略核戦力を制御する標準無線通信が妨害され得ることも明らかだった。
このため、軍は核ミサイルを装填したすべての大陸間弾道ミサイル・サイロから報復攻撃を行える、信頼性の高い後ろ盾を必要としていた。
どんな構想で作られたのか
軍の要求に応えるため、ソ連の技師は、発射後にソ連領内にあるすべての核ミサイル・サイロに対して敵国に向けてミサイルを発射する指示を出す司令塔となる大陸間弾道ミサイルを開発することを決めた。
飛行ルートの情報と、飛行中に他のミサイルに送る無線信号を予め入力された新ミサイルは、新たに作られたサイロ(核攻撃の直撃に耐えられる)に装填されることになった。
どのように作られたのか
UR-100N(NATO側が「スティレット」と呼ぶ大陸間弾道ミサイル)が新兵器のベースに選ばれた。強力な無線通信装置を備えた専用の新弾頭も開発された。
製造は1970年代半ばに始まり、70年代末までに試作品が軍事試験に回された。最初の試験ではミサイルが高度4000メートルで4500キロメートルの距離を飛び、飛行中に他の施設に無線信号を送れることが分かった。
5年後、軍司令部は「戦闘試験」を行い、新兵器が実際のサイロを開いて指定した地点に向けてロシア最強の核ミサイルを発射できるかどうか確かめた。
1984年11月、司令塔ミサイルが白ロシア・ソビエト社会主義共和国から発射され、カザフスタンのバイコヌール近くのサイロに発射指示を送ることに成功した。サイロから打ち上げられた大陸間弾道ミサイルR-36M(NATO側のコードネームはSS-18「サタン」)は、指定されたカムチャツカのクラー試験場の目標を仕留めることに成功した。
こうして新兵器は、ソ連全土を横断し、かつ途中で別の大陸間弾道ミサイルに作戦指示を送れるということが証明された。
1985年に軍に採用されたこのシステムは、今なおロシアを守り続けている。
「死の手」は今どうなっているのか
「死の手」のシステムは、ミサイルだけでなく、ロシア全土のレーダーと、宇宙から情報を集める人工衛星で成り立っている。これは複雑なコンピューター・システムで、地震活動から放射線レベル、全国に設置されたミサイル警戒システムによる監視情報まで、幅広いデータを常に分析している。
「システムは運用が始まって以来何度か改良を経ている。まずロシアはこのシステムに、最大7000キロメートル離れた地点で発射されたミサイルを検知できる『ヴォロネジ』級レーダーなど、新しい電波探知手段を統合した。また無線信号を遮断する新興の電子戦兵器に耐え得るよう弾頭を改良した」と21世紀技術推進財団開発部長のイワン・コノヴァロフ氏は言う。
彼によれば、「死の手」のミサイルには極超音速ブースターが取り付けられる計画だという。これにより、ミサイルは秒速5~7キロメートルで飛行できるようになる。
「新ミサイルは『サルマト』級大陸間弾道ミサイルとともに軍に導入されるだろう。『サルマト』は2020年代半ばに軍で実戦配備される予定だ。したがって改良された極超音速版の『死の手』もそれと一緒に登場するはずだ」と同氏は話す。