ロシアの新インプラントが視覚障がい者の視力を取り戻す

Artem Geodakyan/TASS
 「エルヴィス」はカメラを脳に接続し、目を通さずに映像を直接伝達できる。この技術によって、2027年までに世界中の3700万人の視覚障がい者が視力を回復できるだろう。

 研究室「センソル・テフ」(Сенсор Тех)と「盲唖者支援基金ソ・エディネーニエ(Со-единение)」の専門家らが国内初の神経インプラントを開発した。脳に移植すれば、視力を失った人も目が見えるようになる。装置は6月末にイノベーションセンター「スコルコヴォ」(Сколково)で公開された。

神経インプラントとは何か 

 装置は「エルヴィス」(ELVIS:electronic vision「電子視力」の略)と名付けられた。外観はゲーム『サイバーパンク2077』や『スターウォーズ:オールド・リパブリック』に登場する、頭に取り付けて能力を高めるリング状のアクセサリーに似ている。

 現実の世界でもほとんど同じことが行われる。外科医が大脳皮質に専用の神経インプラントを移植し、視力を司る視覚野と電子で接続する。手術から回復して数ヶ月後、目を通さず周囲の映像を直接脳に伝達できるカメラの付いたリングを被施術者の頭に装着する。インプラントによって、生まれつき目が不自由な人も、事故で目が見えなくなった人も視力を取り戻すことができる。

 インプラントは十年に一度交換しなければならない。施術に適した年齢は24歳から65歳だ。児童に施術することはない。開発者らによれば、インプラントを移植するには、脳の形成が完了していなければならないという。

視覚障がい者にはどんな世界が見えるか

 近未来的なプロジェクトだが、視覚と言っても、細部まで色が分かったり、映像が見えたりするわけではない。カメラは物体の周囲を通る光線の閃光を脳に送り、その輪郭を伝える。着用者は、目の前の物体の陰影と輪郭は見えるが、細かい色彩までは分からない。

 「エルヴィス」は、盲人が身の回りの物体を見て、街中や交通機関の中で介助者なしに自由に移動することを可能にする。

プロジェクトはどの段階にあるか

 現在、「エルヴィス」はラットで試験されている。その後、この技術はサルで実験される。インプラントはまず2023年に施術を志願する十人の視覚障がい者に装着される予定だ。

治療費はいくらか 

 装置は2027年から量産される。施術とカメラ装着の当初の費用は1000万ルーブル(約1511千万円)だ。「エルヴィス」が国の支援と国民医療保健のプログラムに組み込まれれば、視力回復の治療費は500万ルーブル(約755万円)以下になる。

 手術はロシア人だけでなく外国人も受けられる。

国外の類似製品

 「米国はすでに最初の6人の志願者にインプラントが移植され、視力を回復させている。現在、米国での治療費は14万5000ドルだ」と「エルヴィス」プロジェクトを主導するデニス・クレショフ氏はロシア・ビヨンドに話す。

 世界中で約十の研究機関やスタートアップのチームが、インプラントによって目が不自由な人の視力を回復するシステムの開発に取り組んでいる。彼によれば、スペインのチーム(CORTIVIS)、オランダのチーム(NESTOR)、オーストラリアのチーム(モナシュ大学)がかなり先を行っているという。主に動物実験の段階だが、スペインでは視覚障がいのない志願者に短期間電極をつなぎ、普通の視野にかぶさって閃光が見えるか否かを調べている。

ロシアのインプラントは何が違うか

 「『エルヴィス』プロジェクトでは、同様の多くのインプラントの抱える主な弱点の解決策が見つかった。我々は、視覚障がい者が自身の電子視力を最大限利用できるよう、生体工学と人工知能を組み合わせた方法を用いている」とクレショフ氏は話す。

 彼によれば、外国のプロジェクトの多くは視覚野に閃光や陰影を投影するだけだが、ロシアのシステムでは人工知能が、この物体が一体何なのか、何に似ているのかを教えてくれるという。

 「このことは、我々の患者にとってリハビリの段階から役立つ。新しい視力に順応する術後数ヶ月間のプロセスをより良いものにできるからだ」と彼は締め括る。

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