選べる義手づくりを目指して

写真提供:<a href="http://motorica.org/" target="_blank">「モトリカ」</a>
 最近の義肢は障害をもつ人々に、失われた機能を復元するだけでなく、まったく新たな可能性を与えるものであり、そしてファッションの一部にもなろうとしている。

 オシャレな義手はアイマナ・モルダベコワさんの黒のタイトなミニのワンピースと羽根でできた髪飾りにぴったりだ。このステージに立つにあたり、アイマナさんは念入りな準備を行った。ヘア、メイク、そして白いオーガンジーのショールに、腕には二つの翼を連想させる黒い飾り。アイマナさんはモスクワで開かれたメルセデス・ベンツ・ファッション・ウィークイン・ロシアで、白い自動車をバックに様々なポーズをとり、来訪者たちとの自撮りの依頼に応じる。アイマナさんはこのあとプロのカメラマンによる撮影と動画への出演を予定しているという。実に自然に黒い腕を動かすアイマナさんを見た人々はそれを義手だとは思いもせず、装飾用のロンググローブだと信じて疑わなかった。

 

義手を楽器に

 アイマナさんの義手をデザインしたのはニキータ・レプリャンスキーさん(27)。ロシア初となる筋電義手を製作するベンチャー企業「モトリカ」に勤務している。筋電義手は装飾用義手とは異なり、腕を動かし、物をつかむこともできる。会社は約2年前に設立されたばかりで、ロシアではこうした義手はまだまだ目新しい。

写真提供: <a  data-cke-saved-href="http://motorica.org/" href="http://motorica.org/" target="_blank"「モトリカ」</a>写真提供:

 2015年、「モトリカ」社は児童用の義手を専門にスタートした。それは斬新でカラフルな、まるでブロック玩具を思わせるような義手だ。「モトリカ」のスタッフたちは義手をつける小さな子どもたちに自分をスーパーヒーローだと思ってもらいたいとありとあらゆる外装を用意した。たとえば、小さな新しい手にはドローンのリモコンやアクションカメラのストラップが付いていたりする。

 子どもたち自らアイデアを持ち込み、それを基に「モトリカ」が製作することもある。ある料理好きな男の子は義手の先に料理用のフライ返しをつけてほしいと頼んだ。このデザイン、今では子どもたちの間でとても人気があるそうだ。

 児童用の義手づくりで技術を磨いたニキータさんは、その後、何か大人用にも作ってみたいと思うようになったという。ニキータさん曰く、今もロシアの一般の人々は、障害を抱える人たちに対し、ある種の警戒心を持っていて、どのように接していいか分からないでいると話す。そこで義手を美しいものにし、自己表現を助けるというのがプロジェクトの課題となった。

 デザイナーたちはファッションと絡めた二つの方向性を定めた。一つは携帯できる電子機器(あるいは義手そのものが電子機器であるもの)としての義手、そしてもう一つはオシャレなアクセサリーとしての義手である。一つめの方向性として、ニキータさんはMIDIキーボードをはめ込んだ義手を考案した。この義手の持ち主であるコンスタンチン・デブリコフさんは義手に取り付けられたボタンを押して、楽器のように演奏することができる。ニキータさんは当初センサーパネルを取り付けようとしたのだが、センサーパネルは肌にしか反応しないため、両腕のないコンスタンチンさんには断念せざるを得なかった。そこで最初はボタン型を作ることにした。

写真提供:<a  data-cke-saved-href="http://motorica.org/" href="http://motorica.org/" target="_blank">「モトリカ」</a>写真提供:「モトリカ」

 

帽子やバッグの代わりに

 一方、ファッション性のあるアクセサリーとしての義手だが、まずニキータさんはファッション界においてクラシカルな色である黒を選び、二つの羽根の形をした外装で義手を飾った。モデルとなったのはカザフスタンのアイマナ・モルダベコワさん。現在、大学で熱エネルギー工学を学ぶ彼女にとって今は学業が最優先であるが、ファッション界でのキャリアにも興味がある。

 「もしそうなったら素敵だわ。いろんな国に行ってみたい」とアイマナさんは夢をふくらませる。現在、アイマナさんはカザフスタン・ファッション・ウィークのオーディションに向けた準備をしている。不安要因は体重と身長だけで、義手は自分の強みだと考えている。ロシアのメルセデス・ベンツ・ファッション・ウィークに参加したあと、アイマナさんは何人かのデザイナーから声をかけられた。

 ブースに立ち寄る人々の反応を振り返り、ニキータさんはプロジェクトの成功を確信した。「ほとんどの人が義手とは分からなかったようです。義手に付いているボタンを押したり、羽根がどうなっているのかを見たりするのを楽しんでくれました。それから実際に義手を触り、そこで初めてああこの人には手がないのだと理解するわけです。皆さん、唖然とします。ショック半分、感動半分といったところでしょうか。こうした体験をした人々は次また障害を抱えた人に出会ったとき、このショーのことを思い出してくれるとわたしは確信しています」

写真提供:<a  data-cke-saved-href="http://motorica.org/" href="http://motorica.org/" target="_blank">「モトリカ」</a>写真提供:「モトリカ」

大人用義手のデザイン

 現在「モトリカ」と協力するデザイナーたちは義手を使う人たちが、地味で控えめなものから自己表現のはっきりした派手なものまで、オシャレな洋服や靴と同じ感覚で義手を選ぶようになってもらいたいと願っている。「モトリカ」では小児用の義手はスポーツ用品かおもちゃ屋にあるようなものをイメージしているが、ニキータさんは大人用義手にはなにかまた違ったものが必要だと考えている。デザイナーは大人用の義手はよりシンプルで普段の服装に合うようにするべきだと話す。

 ロシア人たちがどのくらい義手により目を向けるようになるかは今のところまだ分からない。モスクワやペテルブルグといった大都市ではデザイン性の高い義手に関心が寄せられているが、地方に住む障害者たちはできるだけ目立たないように生きているのが現状だ。しかしニキータさんはそうした人々にも同じような可能性を与えるべきだと考えている。

 「モトリカ」社のイリヤ・チェフ社長は、たとえばドライバーを使うなど日常の作業がしやすくなるような大人用のソケットの製作を計画しているという。

 義手は使う人の腕の形や欠損の種類によって一つ一つオーダーメイドで作られる。製作はまず計測とデザインから始まる。それから試作品を3Dプリンターで印刷し、いわゆる半加工品が出来上がる。最終段階となるのが義手を固定するソケットの製作だ。義手の費用は10万ルーブル(およそ20万円)であるが、ロシアでは特別保険基金に問い合わせれば、誰でも無償で作ってもらえるシステムになっている。

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