ロシア宇宙産業に構造的危機

AP通信撮影

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ロシアの宇宙産業における最近の相次ぐ失敗を受けて、専門家らは、同国のこの分野が“構造的危機”に陥っていると警鐘を鳴らしている。彼らの意見では、危機は、民間投資と海外との技術協力、それにこの分野の機構改革で解決できるというのだが…。

 最近、ロシア宇宙産業には失敗がつきまとっている。5月16日には、メキシコの人工衛星「MexSat-1」を積んだ運搬ロケット「プロトンM」が、打ち上げに失敗し、大気圏中で燃え尽きてしまった。5月初めにも、ISS(国際宇宙ステーション)用の貴重な補給物資を運ぶ運搬ロケット「プログレス26М」が打ち上げ失敗。専門家の調査委員会は、いずれの事故もエンジンの故障によるものとの暫定的結論を出している。

 ロケット・宇宙産業を統括するドミトリー・ロゴージン副首相はツイッターに、問題解決は機構改革によってのみ可能となると書き込んでいる。「事故はこの分野の構造的危機がもたらしたもので、ロスコスモス(ロシア連邦宇宙局)はまだそこから脱却できていない」

 しかしロゴージン副首相は、ロスコスモスの改革が機構改革で成し遂げられると期待している。

 一方、この分野の専門家らは、機構改革だけでは、この構造的危機を克服できないとみている。「どこもかしこも駄目だ――部品の製造過程から、その管理、さらには稼動にいたるまで」。こうため息をつくのは、宇宙関連政策研究所のイワン・モイセーエフ所長だ。「危機に克つには、人間もモノもいる。構造的危機の始まりはソ連時代に遡るのに、対策は何も講じられてこなかった」

 

BRICSと協力へ 

 ロシア宇宙産業の今後10年(2016~2025年)の発展に関する法案「連邦宇宙プログラム(FKP)」は、現在、政府で検討されているが、これによると、ロシアは向こう10年間、宇宙開発・研究への予算を削る意向だ。 

 予算の削減額は凡そ5%で、2兆1173億ルーブル(約5兆860億円)から2兆45億ルーブル(約4兆8100億円)に減額される。削られるもののなかには、基礎科学研究と運搬ロケットの分野も含まれる。

 複数の専門家の意見では、ロシアがこの分野の問題を克服するには、宇宙分野の民間事業育成と国際協力に注意を払うべきであるという。なぜなら、外国との技術協力は、ロシアに利益をもたらすからだ、と。

 「FKPの枠内で、BRICS諸国との技術協力をもっと格段に強化することができる」と指摘するのは、宇宙飛行士・試験飛行士で、モスクワ宇宙クラブ会長のセルゲイ・ジューコフ氏だ。これより前にロスコスモスは、新宇宙ステーション建造プロジェクトで、BRICS諸国と協力する用意があると伝えていた。ロスコスモスのイーゴリ・コマロフ長官によると、その可能性は現在検討中だという。

 

運搬ロケットへの民間投資 

 FKPにおいて、ロスコスモスは初めて、宇宙分野の民間ビジネスの支援が必要だと言い出した。「我々は、小型部品のメーカーを支援する計画だ。地球のリモートセンシング(遠隔からの測定)は大きなニッチ」とコマロフ長官。

 また同長官によれば、民間投資で、ロシアの運搬ロケットをめぐる問題を解決することもできるだろうという。「宇宙分野は、改革すれば、投資家の興味を引くようになる。大きなポテンシャルがある」

 だが、ジューコフ氏の意見では、宇宙分野の中小ビジネスの支援なるものは、ロスコスモスが、何か既に存在しているプロジェクト、企業に投資すればこと足りるというわけにはいかないという。ゼロから育成しなければならない。「私の考えでは、宇宙民間ビジネスは、国が発展させなければならない。民間企業支援のため、関連プログラムに助成金を出すことが必要。そうすれば、将来的には、ロシア宇宙産業が国家予算を圧迫しなくなる希望が持てるが…」

 とはいえ、専門家らは、露宇宙産業の構造的問題は複雑ではあるものの、解決可能だと考えている。「構造的危機はさらにここしばらくは深刻化していくだろうが、その後状況は落ち着くだろう」とみるのはモイセーエフ氏だ。「ロスコスモスは当面、関連企業での技術面での管理を、好むと好まざるとにかかわらず強化せねばならないが、その後、事態は好転し始めるのではないか」

ロスコスモスのプロジェクト(2016~2025)  

 「連邦宇宙プログラム(FKP)」では、基礎科学研究への予算配分は削られるものの、それでも、面白いプロジェクトは少なからずある。例えば、向こう10年間、ロシアは地球外生命体の探査に積極的に取り組む。また、FKPには、地球の天候の進化、および地球以外の天体による脅威に関する研究も含まれている。

 地球外生命体探査について言えば、ロシアの研究者達は2016年に人工衛星「ロモノーソフ」を打ち上げるほか、欧州主導の国際ステーション「エクソマーズ」のプロジェクト(火星の生命の痕跡を探査するのが目的)に参加。2017年には天文衛星「スペクトルRG」を打ち上げ、2018年には「エクソマーズ」の第2回目の打ち上げを予定。

 また同じく2018年からロスコスモスは、中型の新型運搬ロケット「フェニックス」の開発・製造に着手する計画だ。これは一連のソユーズに取って代わることになる。

 ちなみに、「プログレス」の事故調査では、現時点では、ロケット「ソユーズ2.1а」のエンジンの不具合が原因だったとの結果が出ている。

 2018~2025年にロスコスモスは、その開発・製造に300億ルーブル(約720億円)以上を支出する予定。

 一方、遠距離飛行用のメガワットクラスの原子力推進エンジンについては、その開発・製造は延期される公算が大。ロシアは、このエンジンを使って月と火星の探査を進める計画で、今年には、その最初の試作品の建造に入るはずだった。

*編集部注――原子力推進エンジンは、発電用の原子力装置(出力はメガワットクラス)から発生した厖大な電気エネルギーによりイオンエンジンを作動させるもの。太陽による発電が難しい、火星以遠の飛行も容易になる。