X線の蜃気楼

蜃気楼が発生する主な原因は、空気の層の熱せられ方の違いによる著しい空気のむらであり、そうした状態における光線はおよそ直線的ではないため、遠方の対象のかわりに、実物とは違った架空の対象が見えることになる。=Getty Images/Fotobank撮影

蜃気楼が発生する主な原因は、空気の層の熱せられ方の違いによる著しい空気のむらであり、そうした状態における光線はおよそ直線的ではないため、遠方の対象のかわりに、実物とは違った架空の対象が見えることになる。=Getty Images/Fotobank撮影

蜃気楼は、砂漠において肉眼でばかりでなく、目に見えないX線領域においても、観察できる。モスクワ大学物理学部の学者たちは、外国の研究者らとともに、X線その他のあらゆる蜃気楼を数学的に説明することのできる等式を導き出した。

 光学領域における蜃気楼は、地球の大気圏で生じる美しく謎めいた現象としてよく知られている。疲れ果てた旅人が地上に水のようなものを見るという砂漠の蜃気楼は誰もが知っており、熱を帯びたアスファルトのうえに水溜りらしきものが見えることもある。

 蜃気楼が発生する主な原因は、空気の層の熱せられ方の違いによる著しい空気のむらであり、そうした状態における光線はおよそ直線的ではないため(空気のさまざまな層の屈折の指標は著しく異なる)、遠方の対象のかわりに(あるいはそれと同時に)、実物とは違った架空の対象が見えることになる。

 

X線領域の蜃気楼を発見 

 蜃気楼は、光学上ばかりでなく、X線領域においても、観察できるという。

 初めてこれに成功したのは、モスクワ大学の学者を含む国際的な研究グループで、それについては、6月に雑誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で紹介された。

 学者たちは、X線レーザーの特性の研究に際し、初めてX線領域で蜃気楼を観察することができた。

 光学レーザー(たとえばレーザーポインターあるいはレーザーショー)はよく知られているが、輻射線の増幅は光学領域においてのみ生じるわけではない(レーザーは量子ジェネレーターに他ならず、レーザーとはlight amplification bystimulated emission of radiation〔輻射の誘導放出による光増幅〕のアクロニムから名づけられている)。X線レーザーという考え方はかねてから存在しており、それは1973年に当時のモスクワ大学総長のレム・ホフロフ氏によって物理学部一般物理波動プロセス講座において初めて根拠づけられ、1981年にはアメリカ人たちがX線核励起レーザー創出の可能性について公表し、それに基づいて有名な「スターウォーズ」宇宙計画を立案した。

 

発生の理論を初めて構築 

 現在、X線レーザーはもはや戦争ではなく科学のためのものであり、40年前にモスクワ大学物理学部で生まれた伝統は今も受け継がれている。

 ロシアの物理学者たちは、X線領域で蜃気楼を発見すると、この現象の物理学的原理を探求し、その結果、X線レーザーにおける蜃気楼形成のために必要な条件を究めるばかりでなく、それらの発生の理論を初めて組み立てることもできた。

 これにたずさわったモスクワ大学物理学部一般物理波動プロセス講座助教授のセルゲイ・マグニツキー氏は、こう語る。「私たちは蜃気楼の一般理論を構築しましたが、私たちの知る限り、光学においてこれまでそうした理論はなく、ただ優れた説明があったにすぎませんでした」。

 X線レーザーの研究者たちは明暗の輪の交替を観察したが、レーザーにおける輻射線のジェネレーターは一つであるだけに、そうした現象は特異なものであった。マグニツキー氏はこう語る。「それらの輪の発生は極めて奇異なものであり、一見しただけでは全く説明がつきませんでした」。けれども、ほどなくこの現象は解明され、数学的にもそれを裏づけることができた。

 学者らは、そうした現象を説明するために万能的なアレゴリズムを編み出し、X線その他のあらゆる蜃気楼を数学的に説明することのできる等式を導き出した。 

 

応用の可能性 

 モスクワ大学の研究者らは、プラズマにおけるX線の輻射の算定のために、流体力学的パラメータを考慮する特別のアプローチを発明した。かれらは、ジェネレーターと強く結びついた、言い換えれば、コヒーレントな状態にある、第二の架空の輻射源が、プラズマにおいて創出されることを、示したのである。それらの輻射源の相互作用によって、インターフェレンス的な光景、すなわち、コヒーレンスという新たな光学的特性をそなえた蜃気楼が、形成される。

 セルゲイ・マグニツキー氏によれば、研究の成果は、二つ興味深い実践的方面でさらに発展させられるという。第一に、それはX線ホログラフィーであり、しかも、その分解能の値はおよそ10nmとひじょうに高く、同氏は「この方面で私たちはすでにさかんに活動しています」と述べている。

 

光学領域でもX線領域でもクローキング 

 第二は、対象を見えなくする特別の遮蔽いわゆるクローキングであり、同氏はこう語る。「光学においてこの面では一定の成功が収められており、光学領域においては何らかの物体の不可視性はすっかり達成されたと言えるでしょう。けれども、X線輻射源を利用するとそれらはすべて見えるようになります。私たちの成果は、X線においても対象が不可視となるような遮蔽について考えはじめるといった可能性を切り開くものです」。

 「とはいえ、X線におけるクローキングはまだまだ遠い先のことになりそうです」とマグニツキー氏は言い添えている。

 

 *元記事(露語)