なぜ「北方領土」は返還されないのか

国後島=

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イワン・デメンチエフスキイ撮影
 ロシアに関する人気の検索ワードを集めてそれぞれの問題に答える「なぜロシアは」シリーズ。今回は、「なぜロシアは『北方領土』を返還しないのか」。

 これこそが露日両国にとって鍵となる問題なのに、ロシアNOW編集部が気が付いたところでは、グーグルでは、ロシアの公式的立場を日本に伝えるような情報は出てこない。そこでロシアNOWはこの空白を埋め、ロシアの立場を簡潔に分かりやすく伝えることにした。ただし、異なる見解、立場の人を説得することは、ここでの課題には入っていない。

 ソ連、ロシアの見解では、日本が「北方領土」と呼ぶ択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島、すなわち南クリル列島を含むクリル諸島とサハリン南部は、第二次世界大戦の結果として、ソ連の一部になった。その経緯は次の通りだ。

・1945年2月、米英ソの首脳が戦後処理の方針などを決めたヤルタ会談で、ソ連の対日参戦、ソ連への南サハリンの返還、千島列島の引き渡し等が決定された。

・これに基づき、ソ連は日ソ中立条約を破棄した上、8月9日、対日参戦し、追って上記の諸島がソ連の領土になった 。日本は9月2日に、アメリカ戦艦ミズーリ号上で降伏文書に調印した。

 ソ連対日参戦について日本側は、1945年当時、日ソ中立条約は有効だったとして非難。ただし、戦後の極東軍事裁判における確定判決では、ソ連対日参戦は正当なものと認定されている。

・1951年9月、日本は米国をはじめとする連合国とサンフランシスコ講和条約を結んだ。その2条c項で、日本は南樺太と千島列島を放棄しており、択捉・国後も含まれている。同年10月の衆議院平和条約・日米安保条約・特別委員会でも、外務省の西村熊雄条約局長がこれを確認した。

・ただし、サンフランシスコ講和条約にソ連は調印しておらず、露日間の平和条約は結ばれないまま今日にいたっている。

・その後、日本とソ連は交渉を行い、1956年10月、日ソ共同宣言へ署名し、国交を回復した。その第9項には、「日本およびソ連は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。ソ連は、日本の要望にこたえかつ日本の利益を考慮して、歯舞群島および色丹島を日本に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本とソ連との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」と記されている。

 

「返還」にあらず

 以上の経緯を踏まえ、ロシア科学アカデミー「極東研究所」日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は諸島の主権について、「これらの島に対するロシアの主権は国際文書に記されており、疑問視されていない」という。国際文書とは、ヤルタ協定、ポツダム宣言、日ソ共同宣言を指す。

 また、「日本は、1904~1905年の日露戦争の終わりに、サハリン南部を戦利品として手に入れた。南クリル諸島もロシアの戦利品とみなすことができる」とキスタノフ所長はつけ加えた。

 イギリスのケンブリッジ大学の博士号取得候補者であるニコライ・ムラシキン氏も、同様の見解を示した。「ロシアの公式な立場とは、日本が敗戦した第二次世界大戦の結果として島がロシアの領土になったため、いかなる返還義務も内包されないというもの」

 「『返還』とは日本側で使われている言葉。法的には、日本とロシアの両当局によって第二次世界大戦後に合意され、批准された書類は、1956年日ソ共同宣言のみであり、ここには平和条約が結ばれた後、2島を『返還』ではなく、『譲渡』、『引き渡す』ことにロシア当局が合意するとだけ書いてある」とムラシキン氏。

 

日ソ共同宣言の読み方

 さて、その「返還」であるが、キスタノフ所長によると、平和条約交渉は続くが、今や「島を譲渡する理由はない」という。

 外交・防衛政策会議議長のフョードル・ルキヤノフ氏は、「どの領土問題も、非常に困難な交渉、取り引きおよび取り引きの利益を通じてのみ解決され、両当事者が何らかの勝利を得るが、妥協もともなう」と話す。

 また、「国際関係において、理由なしに領土を譲渡する人はいない。堅実な交渉や深い研究なしに取り引きが成立したならば、不公正感がまた出てくる可能性もある」とルキヤノフ氏は話した。

 これに関連し、交渉当事者のプーチン大統領は、2016年12月の露日首脳会談に先立って行われた、読売新聞と日本テレビへのインタビューで、日ソ共同宣言には「2島が日本に引き渡されると書いてあるが、どのような条件の下で引き渡されるのか、どちらの主権下に置かれるのかは書かれていない」と述べている。

 さらに言えば、1956年当時は、安保改定以前であり、日米が事実上の軍事同盟を結んでいなかったので状況が全く異なる。現在の日本はと言えば、「日本は我々に対して経済制裁を課した。…日本には(米国との)同盟関係上の何らかの義務があり、我々はそのことを尊重するのはやぶさかではないが、しかし、我々は日本がどのくらい自由で、日本がどこまで踏み出す用意があるのか理解しなければならない」。プーチン大統領はこう指摘する。

 

プーチン大統領の柔道用語

 では解決の道は?

 キスタノフ所長は、ウラジーミル・プーチン大統領が使った柔道用語を例としてあげた。

 「プーチン大統領は、勝者も敗者もいない解決策が模索されるべきと言った。これに、『ひきわけ』という柔道用語を使った」。ひきわけとは柔道のドローを意味する。

 ただそのドローのイメージは、まだまだ両国間にズレがあるのが現状だろう。

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