ユコス事件のためにベルギーとフランスで差し押さえられるロシアの資産

ウラジミル・ヴャトキン/ロシア通信撮影

ウラジミル・ヴャトキン/ロシア通信撮影

ベルギーとフランスで、ロシアの会社や組織の口座が差し押さえられた。報じられるところでは、これは、ユコスの元株主らへの約500億ドルの支払いをロシアに対して義務づけたハーグの仲裁裁判所の決定に基づいて、行われた。ロシア外務省の発表によれば、ベルギーでは、大使館の口座も差し押さえの対象となり、ロシアでは、ベルギー大使が外務省に呼ばれて抗議を受けた。

 ロシア外務省の発表によれば、ベルギーでは、ロシアの大使館ならびにEUおよびNATOにおける常設代表部その他一連の組織の口座が差し押さえられ、これに対して、ロシアでは、ベルギー大使が、外務省に呼ばれ、ロシアは、ベルギーの行動を「明らかに非友好的な行為」そして「一般に認められた国際法の甚大なる違反」とみなしており、ベルギーが「侵害されたロシアの主権」を回復しない場合には、ロシア国内のベルギーの資産に対して「しかるべき対抗措置」を講じる、との警告を受けた。

 先に、6月17日の晩、ベルギーで登録されている47のロシアおよび国際的な組織が、自ら所有するロシア国家の資産や資金に関する情報を15日以内に提示するようにとの通知を執達吏らから受けたことが、明らかとなった。その翌日、VTB銀行の代表らは、同行のフランスの子会社で開設されたロシアの会社や外交代表部の口座の差し押さえについて発表し、その後、外交代表部の口座が凍結された。一方、6月18日には、フランスとベルギーで、タス通信、ロシア・トゥデイ、VGTRKといった一連のロシアの国営メディアの資産の差し押さえに関する指令が発せられたことが、明らかとなった。」

 

ハーグにおける決定 

 ベルギーにおけるロシアの資産の差し押さえは、GML(ユコスの元幹部の一人レオニード・ネーヴズリン氏が経営するメナテプ・グループの会社)の子会社ユコス・ユニヴァーサルの訴訟に関するベルギーの裁判所の決定に基づいて、行われている。一方、ベルギーの裁判所は、2014年7月18日付のハーグの仲裁裁判所の判決を拠り所とした。

 裁判所は、その際、GMLのもう一つの子会社であるキプロスで登録されているハリー・エンタープライズにロシアは399億ドルを支払わなくてはならない、とした。ロシア通信の情報によれば、フランスにおけるロシアの会社の口座は、まさにその会社の訴訟の要求を履行すべく執達吏らによって凍結された。VTBのトップ、アンドレイ・コースチン氏は、ロシアのメディアグループ「RBCへのインタビューで、凍結されたのは「大した額ではなく数万ユーロである」と述べた。すでに挙げられた会社のほか、ハーグの裁判所は、2014年7月、もう一つの会社、ユコスの年金ファンドであるヴェテラン・ペトロレウムへの支払いを命じ、ロシアは、同社に82億ドルを支払わなくてはならない。ロシア当局は、ハーグの裁判所の決定は政治的色合いを帯びたものであるとして控訴した。

 インターファクス通信が水曜日の晩に報じたところでは、ベルギーでは、事実上すべての大手銀行、すべてのロシアの代表部、非政府組織およびメディアが、執達吏らから通知を受けた。対象となる組織のリストのなかには、ロシア正教会のブリュッセルおよびベルギー主教管区も含まれている。

 アレクセイ・ウリュカーエフ経済発展相は、ロシアの資産の差し押さえは非合法的なものであるとし、ロシアは裁判でそれに異を唱えると語り、さらに、ロシアはユコス事件に関する何らかの支払いを除外すると述べた。同氏によれば、差し押さえられた資産の額は大したものではないものの、「この事実そのものは、もちろん、ひじょうに不快なものである。」。

 

展望はなし? 

 国外の口座や資産の差し押さえによるロシアからの資金徴収の可能性に関する法律家らの見解は、分かれている。法律会社Art De Luxで国際的な係争や仲裁の問題を担当するアルトゥール・ズラビャーン氏は、「展望はない。」とロシアNOWに語った。同氏によれば、代表部や大使館といった公的・法的機能の履行に関連したロシアの国家資産は、外交上の特権が適用されているため、差し押さえられない。それゆえ、ベルギーとフランス(もしくは、差し押さえの対象が拡大すれば、その他の国々)の当局は、そうした機能の履行に関連しないような国家資産を見いだすという課題に直面するが、それは、容易な課題ではない。

 モスクワの弁護士会「アルチューノフとパートナーたち」を主宰するアレクサンドル・アルチューノフ氏は、異なる見方をしており、「それは、悲しい状況であり、もしかすると、結局、ロシアは、徴収される額を支払うことになるかもしれない。」とロシアNOWに述べている。

 

EUからのシグナル? 

 一方、資産の差し押さえは、それ自体ではなくEUからロシアへの一定の政治的なシグナルとして重要である、という意見もある。ザルビャーン氏は、執達吏らの要求が、メディア、非政府組織、さらには「法的にロシア連邦とはまったく無関係である」ロシア正教会にさえ向けられていることは、「今のところそれが法的ではなく政治的な措置である」ことを物語っているとし、次のように述べる。「EUは、そのような形で、その決定(ハーグの裁判所の)および恐らくまず第一にECHR(欧州人権裁判所)の決定の履行について考える必要があることをロシアに示唆している。」。

 昨年、ハーグの裁判所の決定とほぼ同時に、ユコスの株主らに対する19億ユーロの補償を命ずるECHRの決定が行われた。ハーグの裁判所の判決の場合と同様、ロシアは、ECHRの決定を不服とした。水曜日の晩にベルギーにおけるロシアの資産の差し押さえに関する情報が現れた際、メディアは、ベルギーの執達吏らの決定を引用しつつ、その中で言及されているストラスブールの裁判所(ECHR)の決定を履行したくないロシアの意向についても報じた。しかし、6月18日、ECHRは、ベルギーでの出来事とストラスブールの裁判所の決定に対するロシアの姿勢のあいだに関連はない、と説明した。

 ユコス事件に関する裁判を担当したECHRの7人の判事の一人、アンドレイ・ブシューエフ氏は、ロシアNOWの質問に応えて、この状況におけるECHRへの言及が何に起因していたかについては返答に窮したものの、「現在、明白なのは、ユコス事件に関する国際裁判所の決定が、極めて矛盾するものであり、多くの問題に関して互いに排除し合うものである、ということだ。」と述べた。

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