「英雄たちは死なず」

AP通信撮影

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3月1日(日曜日)、各種集計によると16500人~7万人が野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の追悼行進に参加した。多くの人が同氏の殺害を「自分達自身の悲劇」と感じ、野党はノーリターンの分水嶺と捉えているが、政治評論家らは、ネムツォフ氏を失った野党は結束するのがより困難になるとみている。


 31日、モスクワ都心で、22728日の深夜に殺害された野党指導者で元第一副首相のボリス・ネムツォフ氏の死を悼み、追悼行進が行われた。この惨劇は野党の計画を変えた。

 この日に郊外のマリイノ地区で予定されていたデモ・集会「危機に抗して行進:春」を取り止め、ルートを殺害現場のある都心に変更すべく、市当局と再調整することを余儀なくされたのだ。参加者数は、内務省の集計で16500人、主催者発表で7万人以上。



「ネムツォフ氏の悲劇は私の悲劇」

ネムツォフの射殺について読む:

野党指導者ボリス・ネムツォフ氏が射殺

  行進が始まる前から、スモレンスク広場に隣接する花屋では、花を買おうとする人の長蛇の列ができていた。一方、広場では金属探知機が多数設置され、入念な検査が行われていた。そのかわり、行進のルートに入ってしまうと、警官の姿はほとんど目立たなくなった。

 これは政治行動ではなかったので、人々は深い沈黙の中をゆっくりと歩んでいった。彼らの頭上には、喪章のリボンを付けたロシア国旗が翻り、次のようなプラカードが掲げられていた――「彼はロシアの将来のために死んだ」、「彼らはボリスを恐れていた」、「プロパガンダは殺す」、「私は恐れない」

 「私は彼の死に深く心を痛めています」というのは年金生活者のエフゲニア・イパトワさんだ。「ロシアは最良の息子たちを失っています。彼は偉大な学者になれたでしょうに(ネムツツォフ氏は物理学博士で、60本以上の学術論文を書いている)。でも、彼は国民に自分を捧げる決意をしたのに、国民は彼のことが理解できなかった」

 「私は自由な国で生活したい。我々が撃たれたり爆殺されたりするのは御免だ。自分の好悪を公然と口にしたい。だから、ネムツォフの悲劇は私の悲劇」。こう語るのは、ネムツツォフ氏と1992年以来行動をともにしてきたヴィクトル・アルタモノフさんだ。

 

殺したのは誰か?

 ネムツォフ氏を殺したのは誰か? 行進の参加者たちの説は主に二通りに大別される――政権のうちの誰か、さもなくば、ロシア国内の分裂を望む「第三の勢力」か。前者の説を唱える人が優勢だが、この殺害が何者かの指示による暗殺だという点では皆一致している。

 「ネムツォフ氏は政権には不都合な存在だった。何と言っても彼は、市民をより積極的にし、船を揺らしていたのだから。汚職の構図を暴露し、ロシア指導部のウクライナ紛争への関与についての報告を準備していました。しかもそれをやったのが、どこかの小物じゃないんだから」。企業家のリュドミラ・コッホさんはこう考える。

 「ロシアの軍・治安機関の誰かにとって、プーチン大統領がウクライナ問題で少しブレーキを踏もうと決めたことが、非常に気に入らなかったんでしょう。正常化をさらに進ませないために、この殺害は行われたのです」。56歳のヴィタリー・ゴルスキーさんはこう言う。

 「この殺害事件がプーチン大統領にとって大問題になると確信しています。クレムリンの城壁の脇で、こんな大胆不敵な殺し方をするとは! これはつまり、誰かが強力な策略を仕掛けているということですよ」。アルタモノフさんもゴルスキーさんに同意する。

 

死は結束させるか?

 突然、群集の中から散発的な叫びが上がった――「プーチン無きロシアを!」。「叫ぶな!あれは挑発だ!」と応答する声が聞こえた。スローガンを叫んだのは、行列の前のほうで、ミハイル・カシヤノフ元首相を筆頭に野党活動家が歩んでいた。

 

 しかしその後、一分間の黙祷が宣せられると、前のほうの列は、橋の向こうの、行進の終点近くに押し出された。それで、野党活動家らは自由に移動できるようになった。

 

 野党がこの殺害をどう受け止めているかについては、イリヤ・ヤーシン氏が記者団に語った。同氏はネムツォフ氏の親友で、同志でもあった。「ロシア社会と野党にとって、これは(ネムツォフ氏の死)は、ノーリターンの分水嶺となる事件です。<> 私は信じたい――民主主義者が団結し、これまで互いに対話をすることもなかった野党指導者たちが、この死により結束することを」

 

野党の内部対立は止むか?

 だが、ロシアNOWが話を聞いた政治評論家らは、野党結束の可能性については懐疑的だ。親クレムリンの社会経済政治研究所のアレクサンドル・ポジャロフ副所長の考えでは、他ならぬネムツォフ氏こそが、「様々な抗議行動における内部対立を鎮め、野党の統一戦略を整えていた」

 ポジャロフ副所長はまた、ネムツォフ氏が昨年末に、全野党が「ロシアのヨーロッパへの道の選択」で結束する必要性を訴えたことを想起させる。「ところが今や野党では、アレクセイ・ナヴァリヌイ氏とその支持者の役割が強まることは明らかで、彼らは自分の流儀の方に引っ張ろうとするでしょう。これは野党にとって、新たな内部対立の火種になりかねません」。ポジャロフ氏はこう付け加えた。

 「ロシアの野党が結束できるのは、こういう悲劇が起きたときだけです」。こういうのは、独立系の「政治専門家集団」所長、コンスタンチン・カラチョフ氏だ。「誰の周囲に、何のまわりに団結するかが、深刻な問題になっています」

 カラチョフ氏の意見では、組織力の面で、また精神的支柱となる人物の有無という点で、野党は極めて脆いという。「子供が受胎して1ヵ月後には生まれるだろう、などと当てにしても無駄です。なるほど、ロシアに新たな野党が生まれる可能性はありますが、それは国が深刻な経済危機に襲われた時の話です。その時の野党は、綱領を何よりも社会経済問題で構築しだすでしょうね」