「EU加盟を遠ざけた」ウクライナ

国内の多くの都市で、数千~数万人規模のデモを決行=タス通信撮影

国内の多くの都市で、数千~数万人規模のデモを決行=タス通信撮影

ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領は、潜在的な欧州連合(EU)加盟国がEUとの関係を緊密にする、いわゆる「連合協定」への署名を拒んだ。ロシア政府から指示があったからではない。

 EU加盟に期待を寄せているウクライナ社会の大半は、この大統領の姿勢にショックを受けた。ウクライナの野党勢力はこれに抗議するため、国内の多くの都市で、数千~数万人規模のデモを決行。野党指導者らは署名見送りについて、大統領が国の利益よりも自分の利益を優先したと説明している。

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 「悪の帝国」の復活を狙うロシアの野望が、ここに存在することを指摘する声もあった。ビクトル・ユシチェンコ元大統領はこう述べた。

 「ウクライナはソ連復活のすべてのプロジェクトに、主力として加わっている。これはロシアが推進する民族アイデンティティーの問題であり、その一番新しい構想は、過去のソ連の全体主義にもとづいている。ロシアがEUと違って危険なのはここだ」

 

ロシアがブレーキをかけた理由 

 実際の状況は、ウクライナの野党が考えるほど劇的でもなければ、単純でもない。ロシア政府は確かに、ウクライナのEU加盟のプロセスにブレーキをかけた主要な存在だ。

 しかしながら、これはソ連復活を目指すものではなく、自分たちの国の利益を守るための必要不可欠な防御である。経済的利益(ウクライナとロシアの製造会社はチェーンとしてつながっている)、そして政治的利益だ。

 ロシアはさまざまな襲来を受けてきた大陸の大国であり、常に自国と他の強国との間に緩衝国の帯を確立するよう務めてきた。さらに、ウクライナはロシア揺籃の地であるから、ロシアにとっては特別な国なのである。したがってロシアは、ウクライナが連合協定に署名を行い、EUの経済的、政治的な”付属国”になることを望んでいない。

 

ヤヌコビッチ大統領の計算 

 ヤヌコビッチ大統領の利益は3つ。1つ目が戦略的利益なのに対して、2つ目と3つ目は短期的利益である。1つ目とは、ウクライナが緩衝国のステータスを維持し、EUとロシアの間で巧みに立ちまわりながら、両方から利益を得続けようとするもの。2つ目と3つ目とは、次の任期をにらみ、今を穏便に済ませようとするもの。

 ウクライナの世界戦略研究所のワジム・カラショフ所長は、2つ目についてこう説明する。「ヤヌコビッチ大統領は2015年の大統領選前にリスクを冒して、プーチン大統領と対立するような事態を招きたくないと考えている。このような事態を招いた場合、攻撃的なロシア・メディアだけでなく、ウクライナの南東工業地域で経済状況が悪化していることを責め続けている人々や、資金力のある親ロシア派から袋叩きに合う」

 

華やかなオレンジの王妃を恐れる大統領 

 3つ目はユリヤ・ティモシェンコ前首相。EUは連合協定への署名の条件として、ティモシェンコ前首相の釈放を求めている。これに対して与党「地域党」の議員が、解放案中の6つの項目を否定した。「ヨーロッパはウクライナと1人の人間のどちらかを選ばなければならない。1人の人間の方が国家と国民より重 要であれば、近づく必要はないかもしれない」とアンナ・ゲルマン・ウクライナ大統領顧問は述べた。

 ヤヌコビッチ大統領がティモシェンコ元首相の釈放を拒んだのは、個人的な敵であるから、または弱さを見せたくないからというだけでなく、ティモシェンコ 元首相が2015年の大統領選の主な対抗馬だからだ。カリスマ性のある華やかな”オレンジの王妃”は、ウクライナの有権者だけでなく、海外の勢力に、より 支持される候補者である。

 

実は野党にも好都合 

 ティモシェンコ元首相が獄中にいることは、ヤヌコビッチ大統領だけでなく、ウクライナの野党指導者にとっても都合が良い。釈放されれば、野党勢力の代表の座を狙うことがわかっているからだ。野党指導者らは、ヤヌコビッチ大統領が譲歩しないのを知っているため、わざと釈放を訴えて、点数稼ぎをしている。

 とはいえ、ティモシェンコ元首相に関係なく、連合協定をめぐる状況は変わる可能性がある。

 「ウクライナがEUとの関係を緊密化するすべてのプロジェクトは、EUやロシアとのかけひきにおけるビッグ・ゲーム。来年初めにも署名が行われる可能性がある。これはウクライナだけでなく、来年春の欧州議会の選挙 を控え、一定の成果を出さなければいけないヨーロッパの政治家にも必要だから。グルジアやモルドバとの仮調印がより重要であることは間違いないが」と政治 専門家のエヴゲニー・マグダ氏は考える。