ポーランドのモロンクに展開された、アメリカのパトリオットミサイルのバッテリー。モロンクは、ロシア西部のカリーニングラード州の国境から60キロ地点に位置する。=イゴリ・ザレンボ撮影/ロシア通信
アメリカはさらに、北朝鮮とイランに対抗するため、アラスカ州とカリフォルニア州に14基の迎撃ミサイルを配備して計44基まで増やし、日本に2基目のXバンド・レーダーを設置し、アメリカ国内に3ヶ所目となる迎撃ミサイル用のサイロを建設する可能性を探っている。
北朝鮮は今や現実的な脅威に
アメリカ国防総省の決定は、最近行われた北朝鮮の核実験への自然な反応だと、戦略・技術分析センターの専門家であるワシリー・カシン氏は話す。北朝鮮側の発表から、これはミサイルに搭載可能な弾頭の実験だと考えられ、人工衛星発射と合わせて現実的な脅威になってきている。
アメリカの評価によると、北朝鮮はすでに最大射程6500キロメートルのミサイルを保有しており、アラスカも圏内に入るという。カシン氏によると、アメリカが東ヨーロッパへのミサイル防衛第4段階を中止し、自国の西海岸への配備を重視することは、ミサイル防衛の予防的な役割を考えれば、あくまでも受動的な対策の一部としかならないことがわかる。そのため、北東アジアのアメリカ軍の攻撃能力が、今後一層強められることは明らかなのだという。また、ロシアはアメリカがアジアにミサイル防衛システムを配備することに対し、ヨーロッパへの配備ほどの警戒感は抱いていないが、中国にとってはかなり深刻なニュースになる。中国の大陸間弾道ミサイルは数少ない上に老朽化しているからだ。
しかし、第4段階こそがロシア軍の核抑止能力に負の影響を与え、もっとも危険な段階となると話すのは、外交・防衛政策会議議長のフョードル・ルキヤノフ氏。
だが、アメリカ国防総省のジョージ・リトル報道官は、今回の決定はロシアとまったく関係ないと話した。さらに、対露関係で何か肯定的な変化が起きたら歓迎すると、アメリカの官僚はニューヨーク・タイムズ紙に話している。
MDの真の目的は?
しかしながらロシア政府は、第4段階の中止によって、根幹的なものは何も変わらないと考えている。ロシア国防省に近い関係筋によると、第4段階がヨーロッパからアメリカに移ったのは、赤字予算の状況下で脅威に対処する必要性が生じたからであって、予算をねん出できれば、ヨーロッパ配備計画が再び浮上する可能性があるという。
そうなると、第4段階用の迎撃ミサイルSM-3ブロックIIBは、ロシア西部から打ち上げ可能な大陸間弾道ミサイルの脅威となる。アメリカは中距離弾道ミサイルだけでなく、大陸間弾道ミサイルも迎撃できるようになると発表していた。
ロシアはアメリカの決定に冷静に対応し、ロシアの核抑止能力にはシステムを利用しないという確実な法的保証をアメリカから得る必要があると、ロシア下院(国家会議)防衛委員会のヴィクトル・ザヴァルジン第一副委員長は強調する。
ロシア下院国際問題委員会のアレクセイ・プシコフ委員長は、ロシアを除外した東欧ミサイル防衛という主な問題が、今回の決定で変わることはないと話す。ロシアのこれまでの主な疑問は残ったままなのだ。
なぜイランや北朝鮮の脅威にポーランドから対処しなければならないのか、なぜロシアと共同でミサイル防衛システムをつくってはいけないのか。北朝鮮やイランからの攻撃に対する防衛のため、東ヨーロッパにシステムを配備しなければならない、とくり返し主張していたアメリカだが、アラスカに防衛システムを配備するという計画変更によって、ロシアが指摘していた通り、嘘をついていたことが明らかとなった。
ルキヤノフ氏によると、根本的な意見の相違は変わらないものの、今回のアメリカの決定は、両国の緊張を幾分緩和させたという。それでもアメリカはシステム配備を、そしてロシアは対抗措置を講じるというそれぞれの計画を、完全に取り消すことはないだろう。
*ヴェドモスチ紙の記事抄訳
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