ロシア側はこうした言動を評価したものの、それはその後の発展を見なかった。わずか数日後にウクライナの政治危機が危機的段階に陥り、それは、同国の政権交代とクリミアの法的地位の変更をもたらしたからだ。一連の事件はさらに、ロシアのG8からの排除、ウクライナ情勢の緊迫、NATOとの軍事的緊張等々と続いた。
これらの事件は日本にとってはことにタイミングが悪かった。同国の政治的優先事項で今日第一位を占めるのは、東アジアおよびアジア太平洋地域全体の情勢だ。中国の台頭と、北朝鮮の核開発(ミサイルを含む)をめぐる状況が不透明さを増しているなか、日本としては、勢力バランスを変えることが不可欠だ。
こうした条件の下では、アメリカが同盟国を促して構築しようとしている対露包囲網に全面的に参加することは、どうにも具合が悪い。
しかし安倍首相は難しい立場にある。日本は米国と軍事同盟を結んでおり、しかもそれは対中国をはじめ、安全保障を含んでいるのだから。そこで日本はできるだけうまく立ち回った。対露制裁はなるべく控えめな、実質あるものではなくシンボリックなものにとどめた。反露の列車の先頭を走らないかわりに、ウクライナ政府に配慮して見せ、同国の運命に無関心ではないと強調してきた。
2014年から2015年にかけての緊張のピークにおいてさえ、日本政府は、マイダンが盛り上がる前に論議されていたプーチン訪日について、取りやめを宣言することは避けた。もちろん、こんな条件下でロシアの大統領を訪問させれば、ワシントンから本物の「津波」が押し寄せずにはいないことは分かりきっていたが。
2か月ほど前には、“至る所に偏在する”ジャーナリストたちはこんな報道をした。オバマ大統領が安倍首相に訪露しないよう執拗に勧告したのを、首相が拒んだというのだ。また、つい数日前ににも、興味深いリークが現れた。昨年、ドイツのメルケル首相が安倍首相にNATO加盟を勧めたが、後者はロシアの反応を考えて拒否したという。
もっとも、仮にこれが事実だとしても、実に奇妙なアイデアではある。なぜ“北大西洋”条約機構に太平洋に位置する日本が必要なのか、そして、太平洋地域で起きる紛争に介入する義務を負う必要があるのか、不可解だからだ(しかも、そうした紛争が起きた場合、ロシア相手ではなく、中国相手となる公算が大きい)。一方、日本にとっても、実質的な軍事力を持つのが米国のみである軍事ブロックに入ることに何の意味があるのか分からない。米国とは既に日米安全保障条約を結んでいるのだから。その代わり、日本がNATO加盟に加盟すれば、ロシアの“素晴らしい”反応については言を俟たず、しかもより重要なのは、「非友好的軍事同盟」の拡大に対する中国の反応だ。
が、いずれにしても、安倍首相のソチ訪問は、国益を追求する原則的立場の現れだろう。なぜなら、首相がやってくるのは別にクレムリン表敬のためではなく、もっぱら長期的な露日関係の重要性を確信してのことに違いないから。
それというのも、同盟のシステムが変わりつつあるからだ。同盟は消えはしないが、厳しい義務的関係をともなう従来型は、相互に依存し合い緊密に結びついている世界にそぐわない。関係をできるだけ多様化し、できるだけ多くの不可欠なパートナーたちとそうした関係を築く能力は、事実上すべての国にとって主要な資質の一つとなってきている。この意味で、バランス維持に向けた日本の努力は(もう一つのそうした例が韓国だ)、生まれつつある新モデルとみなすことができる。
しかし、これは優先順位の不在を意味するものではない。逆にその必要性を強めるものだ。例えば、日本にとって対米関係が最優先事項の一つでなくなる事態は想像しにくいだろう。だが、優先順位ということは、他のパートナーとの建設的関係を排除するものではない。ロシアについても同じことが言える。対中関係の「優先」は決して「唯一」ということにはならない。
無論、「島」の問題は残る。露日両国の間にある主要な問題だが、この方面では、突破口は見出されないだろう。ここでは、両国の優先事項は一致しない――たとえ、両国が衷心から関係を根本的に前進させるために何かすることを望んだとしても。
*フョードル・ルキヤノフ―「世界政治におけるロシア」誌・編集長、国際ディスカッションクラブ「ヴァルダイ」・学術作業責任者
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