ウクライナは冷戦の最新戦

画像提供:K.Maler

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欧州広場、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領の解任、クリミア半島およびウクライナ東部の不安などの一連のウクライナ問題は、西側諸国とロシアの関係における新たな段階を示した。これが軍事衝突に発展することはないだろうが、ソ連崩壊後の新しいロシアとヨーロッパの間の新たな境界線がどこにしかれるかが問題となる。

 ソ連ブロックとソ連自体の崩壊は、あの冷戦の結末となった。ワルシャワ条約機構に加盟していた中央・東ヨーロッパ諸国は、段階を経て欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、旧ソ連諸国もそれにならっている。つまり、これらの国際機構が新しいロシアにじわじわと迫っているのである。

 西側諸国には、ソ連が復活するのではないかという警戒感がまだ残っている。アメリカのヒラリー・クリントン国務長官(当時)は2012年、「関税同盟あるいはユーラシア同盟」という新たな名前で、新ソ連が誕生するのではないかと述べた。アメリカのズビグネフ・ブレジンスキー国家安全保障問題担当大統領補佐官は、より具体的にこれについて説明していた。「ロシアはウクライナをなくすと帝国ではなくなり、ウクライナはロシアをなくすと自動的に帝国に変わる・・・」

 ブレジンスキー補佐官は有名な人物だが、だからといって間違わないというわけではない。一度崩壊した帝国が再び復活した例は過去の歴史にはないし、新ロシアがソ連あるいはロシア帝国になることは二度とない。それが生じ得るイデオロギー的前提条件も、政治的前提条件もないのである。

 とはいえロシア政府は、旧ソ連諸国との経済的関係を復活させようと考えている。世界経済の中心であるEUならびに中国と、ロシアは国境を接している。この2つの中心の市場は、ロシア市場よりもはるかに大きい。プーチン大統領は同等の権利を持ったパートナーとして、このどちらかと結びつく用意があるようだ。ところがどちらからもお呼びがかからない。どちらかの資源的付属国になることをロシア政府は望んでいない。

 ここからロシア、カザフスタン、ベラルーシが商品、資本、サービス、労働力の共通の市場をつくるという、共同経済圏(EEP)構想が生まれているのである。ここにはアルメニアとキルギスも加わろうと考えている。5月にも書類ができる予定だ。しかしながら、4500万人の人口と発展した産業を抱えるウクライナがいないと、EEPは他の経済の中心と競争できるような市場を持てない。

 ウクライナを徐々に自分たちの影響の範囲内に引き込もうとしているアメリカもEUも、ここをよく理解している。そしてこの引き込みのフィナーレが、ウクライナとEUとの「連合協定」となるはずであった。

 リトアニアの首都ヴィリニュスで昨年11月に開催されたEUと旧ソ連6ヶ国による東方パートナーシップ首脳会合では、連合協定の調印が予定されていたが、ウクライナはこれを拒んだ。ヤヌコビッチ大統領(当時)はEUだけでなく、融資とガスの値引きという形でロシアから特典を受けることも望み、調印を行わなかった。

 だがEUへの加盟を望むウクライナの独立広場の圧力に負け、ヤヌコビッチ氏はほとんど抵抗することなく、政権を明け渡した。ヤヌコビッチ氏に代わって政権についた政治家は、すぐさまウクライナの方向性を西側に修正し、ロシアに運命的課題を突きつけた。

 ソ連復活に関するアメリカとヨーロッパの空想的恐怖感は、ロシアにとって経済的な圧力となるだけでなく、安全保障問題になってしまう。

 NATOブロックはソ連崩壊後、東ヨーロッパ諸国やバルト三国まで急激に拡大し、ロシアと国境を接するようになった。活動範囲は北大西洋を大きく超え、アフリカ(リビア)、中東(イラク)、中央アジア(アフガニスタン)にまで広がっている。ロシアの戦略では、NATOの脅威がゼロとはみなされていない。特にNATOに吸い寄せられているウクライナ国内に、アメリカのミサイル防衛システムが設置される可能性だ。これは主要なロシアの軍事的切り札、すなわち地上発射型ミサイルに、NOをつきつける。

 ロシアとともにスラヴ・正教文明の骨格をなしているウクライナが、西側の西洋文明の影響下に移ることは、ロシア政府にとって耐えがたいことでもある。350年間統一構成体となっていた両国の国民の極めて密接な個人的関係を考えると、ウクライナが”去る”ことはロシア最大の内政問題になる。

 そのためウクライナのクリミア半島のロシア語系住民(9割)がロシアへの編入を希望していることに対して、ロシア政府には他の手立てがないのである。3月16日に行われるクリミア半島の住民投票の結果は明らかだ。

 西側諸国もウクライナが”去る”ことがロシアにとって極めて不愉快であることを理解しているようだし、クリミア半島が「なぐさめのご褒美」としてロシアに移行する状況は予測されていた。そうでなければ西側の反応に説明がつかない。EUはビザ緩和について、また新たな協力枠組み合意について、ロシアと協議することを拒んだ。とはいえ、これらの協議は何年も停滞しているが。ソチ主要8ヶ国(G8)首脳会議への出席を見送るという脅しがかけられているが、これはちょっとした嫌がらせである。経済制裁は行われていない。アメリカはロシアの役人に対する一部ビザ規制について話をしているが、リストは作成されていない。軍事的協力が凍結されたため、モスクワ郊外でのバイアスロンでアメリカの戦車を見ることができなくなった。またロシアの農業の専門家4人のアメリカ行きがキャンセルになった。

 誰も経済的な遅れや、シリア、イラン、アフガニスタンの問題が残っている中でのロシア政府との協議取りやめを希望していないのである。クリミア半島はこの情勢の一部でしかなく、問題はそれほど大きくはない。

 例えば、ロシア系住民が多く、親欧米政権を望んでいないウクライナ東部がどうなるかなどはわからない。だが、ロシアと西側の関係がどうなるのかを見極めることははるかに重要である。どちらも「冷戦」気質から抜け切れていないようだから。新たな世界秩序の構築に関する問題とは、中東と北アフリカの情勢であり、今はウクライナも含んでいる。