ロシアのここ10年の主なHIV感染原因は、殺菌されていない注射器での麻薬の接種 =ナタリア・ミハイレンコ
感染者は100~200万?
ロシア連邦後天性免疫不全症候群(AIDS)予防・防止科学・方法論センターのデータによると、昨年11月時点でのHIV感染登録件数は、ロシア国内で70万4000件。だが実際のHIV感染者の数は、少なくともこの2倍になると考えられている。
ロシアのここ10年の主なHIV感染原因は、殺菌されていない注射器での麻薬の接種。ただ2002年から、麻薬を接種し、感染する可能性のある人々だけ でなく、セックスによる感染が増加している。昨年末時点で新たに感染したケースのうち、57.6%がそのような注射器による感染だった。
ターゲットを絞るべき
ロシア連邦消費者権利擁護・福祉分野監督庁のゲンナジー・オニシチェンコ長官は、こう話す。「これまで効果を示してきた、よりHIVに感染 しやすい人々のグループのHIV感染予防プログラムの大半が打ち切りとなっている。一般的な人々、または健康的な生活を送っている人々の間 で行われている予防対策は、それほど効果がない」。
つまり、ロシアでは現在、麻薬常用者のHIV感染予防プログラムに、予算がまったく配分されていないということだ。これらのプログラムは以前、海外の寄付金でまかなわれていたが、ここ数年の政治的状況により、寄付者のほとんどがロシアから撤退している。
2011年には麻薬中毒者を含むハイリスク・グループ、すなわちHIVに感染しやすい人々に8500万ルーブル(2億5500万円)の予算が配分され、予防キャ ンペーンが行われたが、わずか39日しか続かなかった。キャンペーンの効果はあやしい。
現在のHIV蔓延防止対策
• ロシアで違法麻薬を使用している人の数は推定500万人
• ロシアで違法アヘン剤を使用している人の数は推定160万人
• 2009年末時点の正式報告書では55万人強が麻薬使用者で、うち70%が注射器を使用して麻薬を摂取
• ロシアでは平均して、注射器で麻薬を摂取する人の37.2%がHIV感染者、一部地域ではこのグループのHIV蔓延度が75%
ロシアにおける今日のHIV蔓延防止とは、端的に言って、麻薬常用者を“抑圧”し、麻薬常習者に対する嫌悪感を社会に植えつけ、非効率的な予防対策の適用と、健康的な生活 の構築を目指したプログラムの発展に重きを置いているものだ。
ところで海外では、麻薬常習者の間でHIVが蔓延しないように、いくつもの対策を講じて成功 しているケースがある。注射器と針の交換プログラムやオピオイド置換療法などの科学的予防プログラムの適用、そして麻薬常習者抑圧を止める方向への政策変更だ。
オピオイド置換療法は60ヶ国以上で導入されている。メタドン治療プログラムは、ロシア、ウズベキスタン、トルクメニスタンを除くCIS諸国で機能している。ロシアはというと、医療目的でメタドンを使うことが法律で禁止されてしまっている。
ハイリスク・グループは検査を受けず
ロシアにはHIV検査という問題もある。主な問題となっているのは、ロシアでは毎年HIV検査に大金が投じられ、多くの人が検査を受けているのに、ハイリスク・グループに属する人々は受けていないことだ。
例えば2011年にロシアで行われた2400件以上のHIV検査のうち、麻薬常用者や同性愛者が占めている割合は1%以下。さらに、2011年に検査を受けた市民の数は、同性愛者の受検者が35%、麻薬常用者の受検者が10.2%減少したことによ り、前年より減少している。
ハイリスクグループの全国調査を提唱
福祉分野監督庁は、「男性とセックスをしている男性、売春をしている女性」の間のHIV蔓延度に関する初の全国調査を行うことを提唱しているが、上の状況からみて、非常に興味深い。海外では同性愛者のHIV蔓延度の大調査プログラムが、すでに10年ほどうまく機能しているので、こうした調査はとても重 要だ。それによって蔓延状況が把握でき、ハイリスク・グループのHIV予防プログラムへの予算配分も可能になる。
だがロシアの同性愛者に対する保守的な政策、麻薬常用者に対する抑圧的な政策、さらに検察庁に個人情報の入手権を与える法律の成立を考えると、人々が自 分の性的指向やHIV感染を明かさねばならなくなるという警戒感が生まれてくる。そして当然のことながら、HIV感染者が予想外に多かったという結果にもなりかねない。すると検査前後の質の高い相談態勢、さらに治療が必要な場合には、抗レトロウイルス治療を受けられるような態 勢を整えなければいけなくなる。
*イワン・ヴァレンツォフ氏は公衆保健分野の専門家で、アンドレイ・ルィリコフ基金のメンバー。
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