バイカル・アムール鉄道沿いの村は、SF映画に出てくる火星の植民地か、米国開拓時代の西部に似ている。生活が似ているのではなく、気の持ちようが似ている。ここには、今の時代のスーパー・ヒーローがいる。彼らは鉄道建設の為にタイガ(シベリヤなどの針葉樹林)へ派遣され、30年間忘れられていた。普通の人間が生きて行けない様な環境でも、彼らは生き延びる術を身につけた。
Maria Ionova-Gribinaアムール州のヴェルフネゼイスクには空っぽの大規模な病院がある。この村が出来た当時、4万人の住人が想定されていた。今となってはこの病院は小綺麗だけれど時代遅れな老女の様である。4人の勤務医と3人の患者がいる。
Maria Ionova-Gribina認可が下りないため、歯科医はいない。国の法律によると、人口の少ないこの様な村は急患と産科しか持てない。従って、ここにいる医療従事者は資格が揃った医師ではない。しかし、彼らは銃で撃たれた人々、首吊り自殺した人々、事故からお産まで何もかも診なければならず、予防接種もする。
Maria Ionova-Gribinaマトヴェイ・ムドロフさんは人間であり、電車でもある。19世紀初頭、人間だった頃、医学療法士だった彼は病気の記録をつける習慣を始めた。後世の医師は、「病気の記録」より「健康記録」をつけた方が良かったと文句をつけた。彼はサンクトペテルブルグで起きたコレラの流行と戦い、英雄の死を遂げた。
Maria Ionova-Gribinaこのため、一世紀後に彼の名前が電車につけられた。電車のフルネームは非常に長い:「医学療法士マトヴェイ・ムドロフ診療診断センター」。ロシア鉄道はこのような電車を4台所有し、いずれにも著名な医師の名前がついている。
Maria Ionova-Gribinaこの移動式診療所には最新の機器が揃っている。レントゲンやエコー、そして産婦人科用機器、循環器科用機器、眼科用機器と耳鼻科用機器がある。歯科医がいる事もあるが、それは選挙前など、特別な時だけである。
Maria Ionova-Gribinaマトヴェイ号が停まる集落でも、医師は誰でも診る訳ではない。車両側面の説明に書かれている通り、診察と診断のみ行なわれる。
Maria Ionova-Gribina電車は鉄道関係者と保険加入者を主に診る。他の人々は、有料でサービスを受けることができる。料金はモスクワのプライベートのクリニックの三分の一程度であり、良心的である。
Maria Ionova-Gribina電車は人類の誇りとまでは言えないが、そうひどい物でもない。時折受付で行列やサービスに不満を持ち、カッとなる人もいるが、医者にお礼を言いに来る者もいる。
Maria Ionova-Gribinaマトヴェイ号は極東地方でいくつかのルートを巡回する。我々は、前世紀の建設ブームの中心地であったティンダより西側のいくつかの集落を結ぶバイカル・アムール鉄道ルートに同乗した。1980年代には、アメリカの有名俳優と歌手で、社会活動家でもあるディーン・リードが訪れた。彼はここでもロックンロールな毎日を過ごしていたらしい。
Maria Ionova-Gribina鉄道全体が、昔戦われた人類と大自然の戦いへの記念碑である。彼らは工業が盛んな将来を夢見て鉄道を作ったが、瞬く間にそれは過去の物となってしまった。バイカル・アムール鉄道は今の時代との関連性が全くない、異質な物である。
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