ロシアのヴェーニクとは何だろうか。おそらく皆さんは、それはいったい何で、一体その何が特別なのか、と思っていることだろう。
ヴェーニクとは枝ぼうきのことで、柄の短い箒を指す。「ヴェーニク」という語は、多くのスラヴ語に存在し、「束」とか「房」を意味する。ヴェーニクはまさに小枝の束を結びくくったものだ。
歴史的にみて、ヴェーニクはかつてはソルガム(モロコシ)の穂の部分を使って作られていた(今では人工的な材料も使われている)。
ヴェーニクは昔からどのロシアの家庭や住宅で使われ続けてきた。今でも、現代的な箒よりもヴェーニクを選ぶ人が多い。たしかに、掃除機の代わりにはならないのだが、これ以上に床を掃くのに優れたものもないのも事実である。
ヴェーニクはまた、多機能な道具で、いろいろな目的のために使うことができる。雪さえかくことができるのだ!
ヴェーニクのもっとも優れているところは、その耐久性である。加えてとても安い。だから、使い古して役に立たなくなっても、簡単に買い替えることができる。
古代ロシアでは、ヴェーニクは多くの迷信の対象であった。まず、ロシアのドモヴォイ(家にいる精霊)はヴェーニクの陰に隠れているとされていた。それに人々はヴェーニクには邪悪の力を家から掃き出す力があると信じていた。
その昔、ヴェーニクは何やら不思議なものや神秘的なものと関連付けられていたので、使い古された後もゴミ箱に捨てられずに、マースレニッツァで清めの儀式の一部として燃やされることが多かった。少なくとも家の周りに捨てることはされなかった。というのも、悪霊や病気を引き付けると信じられていたからだ。
今では、ヴェーニクからお土産品がつくられるようになった。お守りのようなもので、邪悪な力から人を護ってくれる(それにお金を家に引き付けてくれる)という。
ところで、猫はヴェーニクが大嫌いである。ロシアの農民は特に猫のことを好んではおらず(ネズミを捕ってくれるという実用的な存在だけであった)、家庭の主婦が猫を煩わしいと思ったら、ヴェーニクを持って簡単に追い払うことができた。
ヴェーニクという言葉は別の意味もある。俗語で、花束のことを悪く言う時に使う。「このヴェーニクを君に贈ったのはどこのどいつだ?」 嫉妬した夫が妻にこのような言葉を投げかける。
ロシアではもう一つのヴェーニクもとても人気がある。バーニャ(ロシア式サウナ)で使われるものだ。それは、葉がついたナラか白樺の枝を乾燥させて作られる。そして、使う直前に温水に浸し、それで体を打つと健康に良いのである。
蒸し風呂で、ヴェーニクで体を打つのはある種のバーニャ・マッサージで、とても健康に良いと信じられている。しかし、それだけが目的ではなく、天然の素材で作られたヴェーニクはとても良い香りをもたらしてくれる。そのため、時には針葉樹でつくられたヴェーニクさえ使う。そのアロマを深く息をして吸い込めば癒しの効果があるからだ。濡らしたヴェーニクを揺らし、その雫を振り落とすことによって、バーニャの蒸気量を増やすことにもなる。
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