ホビーホース:人々は馬の頭のついた棒にまたがってどこに向かうのか?

Russian Hobby Horsing Federation
 馬の頭の飾りがついた棒である「ホース」にまたがり、楽しく駆ける人もいれば、これでお金儲けをする人もいる。

 公園の小道を10歳と12歳の女の子2人が歩いている。芝生のところまで来ると、二人は荷物を置いて、駆け出す。最初はまるでロシアの民族舞踊を踊っているかのように、足をまっすぐに前に伸ばして。その後は軽くジャンプし、片足で地面を蹴り、もう片足で着地し、ギャロップで歩く。続いて、100メートルほどを走り抜け、最後に高い障害物を「ゴップ!」という声を上げながら飛び越す。

 二人の様子は、一見、ごく普通の陸上か体操のトレーニング風景に見える。ただし一つだけ、違うものがある。女の子たちの両足の間には馬の頭のついた棒がしっかりと挟まれているのである。棒には馬具が装着され、ジャンプをした後には、誇り高く、手綱を引いて、棒つきの馬を誘う。女の子たちは、自分自身を「ホビーホーサー」と呼ぶ。

 多くの人が、幼いとき、棒を馬やユニコーン、竜、ありとあらゆるものに見立てて、遊んだことだろう。しかし、数年前、これはただの子どもの遊びではなくなった。ティーンエイジャー、そして大人もこの馬の頭の飾りがついた棒である「ホース」にまたがり、楽しく駆ける。しかもこの「ホース」には美しい模様が描かれ、馬具や装備がなされている。中には、ただ「楽しみのためだけに」やっている人もいれば、2019年に設立されたホビーホース連盟が組織する大会に参加している人もいる。

 13歳のキーラの母親であるワレンチナ・ルコシキナさんは言う。「わたしも小さいとき、棒に靴下とスポンジで作った頭をつけて、馬を作ったものです。それで子どもたちにも同じような遊びを勧めたのですが、後に、これが今人気で、大会まであるということを知ったんです。今、わたしが働いている馬術スクールには、ホビーホース部があり、トレーニングをして、試合にも参加しています」。

 自分でこのスポーツを知ったという子どももいる。6歳のヴィーカの母親、クリスティーナ・マルチェンコさんは、「娘はYouTubeで動画を見つけて、やってみたいと言い出したんです。それならやらせてみようと思い、今はクラブに入ってやっています」と話す。

 参加者にとって、ホビーホースは、自己表現の方法になっている。皆、馬に名前をつけ、馬具を買い、蹄鉄をつけ、たてがみ用の専用ブラシを注文する。

 しかし、同級生の中にはこれを理解できず、普通の趣味と受け入れない者もいる。ドミトロフグラードに住むソーニャ・サフィウロワさんは、ホビーホースのために転校を余儀なくされたと話す。「昨年、わたしは別の学校に移りました。同級生たちにいじめられたからです。わたしは自分の趣味について一生懸命、理解してもらおうとしました。でも、ホビーホースはわたしに大きな喜びをもたらしてくれるもので、やめようとは思いませんでした。トレーニングも大会もとっても楽しいのです」。

馬術競技とほぼ同じ

 ホビーホースにはルールがある。審判がおり、基準があり、大会があり、勝者と敗者がある。競技者は自分の「馬」で障害物のあるコースを走り切らなければならない。その高さは20センチから1メートル50センチまでと様々だ。これらの障害物を、馬の動きを真似ながら、ルールに沿ってジャンプするのである。つまり、足は馬で、そして体は乗馬者のいわば「ケンタウロス」になるということである。棒の落下は、減点対象となる。

 ホビーホース連盟は子どもと大人を対象にした大会を開催し、セミナーやトレーニング、マスタークラスを実施している。連盟を率いるガヴリイル・モルコフキン会長は、ホビーホースは馬術競技に似ているものの、変更が加えられていると述べている。「ホビーホースは規模が小さいですが、障害飛越競技と馬場馬術の両部門をそのまま残しています。審判団もおり、愛好者はたくさんいます」。

 ガヴリイル・モルコフキン会長はまた、ホビーホースは、これから乗馬をしたいと思う人にとっての準備としても素晴らしいものだともの述べている。「肉体的、精神的なよい訓練になります。乗馬者は、馬が馬場でやる回転、斜め歩き、葛折り、横歩きなどのやり方を自分の足で感じます。このレッスンを終えた後、馬術競技をやると、何が必要なのかがよく分かるのです」。

 さらに、この趣味には明確な利点がある。それはとにかく「安くつく」こと。大人が乗馬をすると、かなりのお金がかかる。また「安全である」こと。棒から落ちることがあっても、落馬に比べれば痛みもなく、ショックも小さい。そしてホースがあれば、レッスンを受けられるのだから、きわめて「シンプル」である。

ホースでお金を稼ぐ

 ホビーホースの愛好家の中には、飛んだり跳ねたりというスポーツとしての興味ではないものを持っている人もいる。それはものづくりとしての興味である。たとえばプスコフ出身の19歳の学生ヴィクトリヤ・パウクさんは、2019年からホビーホースに関心を持ちはじめたと話している。「最初はホビーホースの製作に興味を持ったんです。わたしはクラフトが好きで、創造的なことをするのが好きだからです。それから、障害物を作って、ジャンプするようになり、その技術を学んだり、外国のホーサー、そしてロシアのホーサーのSNSをチェックするようになりました」。

 この趣味をビジネスにした人もいる。専門のグループの中には、ホース販売の投稿をたくさん目にすることができる。ホースの値段は高いものだと1万ルーブル(約2万3千円)くらいする。作りがより複雑で、馬らしいものであればあるほど高価になる。たてがみを細い糸で作ったり、目にガラスを入れたりして、本物の馬のようにも作ることができるのである。

 アンナ・ホーシ(ニックネーム)さんは、2年前からホビーホースの馬を作るようになった。そしてあるとき、ホースに興味を持つ人々の注目を集めるため、宣伝を出し、TikTokでチャンネルを開設した。現在、彼女は大規模な馬の展覧会を訪れている。「展覧会にはサロンがあり、馬具や餌が売られています。そこに自分の製品を持っていっていくと、興味を持って、質問してくれる人もいます。ホビーホースの大会にも行き、知り合いの仲間たちを応援しつつ、新しい馬を見せるんです。子供たちはわたしのことを覚えてくれていて、喜んで、ハグしてくれます。大人も関心を持ってくれています。あるとき、かなり高齢の女性がホースを買ってくれました。ホースが、昔自分が可愛がっていた馬に似ていたからと言っていました。今は1ヶ月に20件ほど注文があります。絵をつけるのにアシスタントを雇っているくらいです」。

 ロシアでは、ホビーホースはますます多くのファンを魅きつけている。棒を持って障害物を飛び越えている人は、外から見れば奇妙に見えるかもしれないが、これは素晴らしい運動である。もしかすると、このホビーがいつの日か、本物の競技になる日が来るかもしれない。そこでホビーホース連盟はすでにスポーツ委員会に提出するためのプログラムを用意しているのだという。とはいえ、ホーサーたちにとっては、競技として認められるかどうかは重要ではない。彼らにとっては、高くジャンプし、元気に駆けているだけで、楽しく、愉快なのだから。

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