1. 信じ難い実話に基づく
『V2 地獄からの逃走』(原題:Фау-2. Побег из ада)は、親衛隊飛行連隊のミハイル・デヴャタエフ上級中尉が経験した実話を基にしている。彼は1944年に捕虜になり、やがてバルト海に浮かぶウーゼドム島の収容所に送られるが、そこで隣接するペーネミュンデ実験場での重労働を課せられる。実はこの実験場はドイツ軍の極秘施設で、最新のジェット戦闘機やV1ロケット、V2ロケットが開発されていた。ドイツ軍の飛行機に接近した彼が、脱走のチャンスを逃す手はなかった。
ミハイルの息子アレクサンドル・デヴャタエフが映画の監修に参加し、時代考証を手伝って映画のリアリティーを高めた。とはいえ、脚色としてフィクションも若干混ぜられている。
2. 有名監督と敏腕プロデューサー
ロシアの主導的な監督の一人、ティムール・ベクマンベトフはロシア国外でも有名だ。ハリウッドでは『アンフレンデッド』(2014年)、『リンカーン/秘密の書』(2012年)、伝説的な映画のリメイク版『ベン・ハー』(2016年)を手掛けている。しかし、彼の作品で最も成功したのは、ジェームズ・マカヴォイとアンジェリーナ・ジョリーが主演を務めた『ウォンテッド』(2008年)だろう。
『V2 地獄からの逃走』のプロデューサー、イーゴリ・ウゴリニコフは、正確に時代考証された第二次世界大戦映画をプロデュースすることで知られている。彼が関わった作品には、侵攻してくるドイツ軍に初めて対峙した要塞の英雄的な戦いを描く『ブレスト要塞大攻防戦』(2010年)や、昨年公開されたばかりの映画で、1941年秋のモスクワ攻防戦の重大な局面を描いている『ポドリスクの軍学校生』(2020年、原題:Подольские курсанты)などがある。
3. ティル・リンデマンが手掛けたサウンドトラック
『V2 地獄からの逃走』のために、バンド「ラムシュタイン」のボーカルがソ連の懐かしの名曲『リュビームイ・ゴーロド』(「愛しの街」)を歌った。しかもロシア語でだ。
「ティルの方からこの曲を歌いたいと申し出てきた」とベクマンベトフは言う。「思うに、それは彼がドイツ民主共和国(東ドイツ)のロストックで育ったからだろう。彼の父親はたくさん旅行し、ソ連で作家としても働いた。ティルはピオネール[ソ連版ボーイスカウト]だった。この曲は彼が子供の頃に母親が歌っていた。彼は私がデヴャタエフの映画を制作しており、『愛しの街』がテーマ曲になることを知った。東ドイツでは、デヴャタエフは英雄と見なされており、ウーゼドム島には彼の像もある。ソビエト時代も、ドイツの統一後も彼は讃えられていた。そこでこのビデオクリップを作ったのだ」。
4. 『ウォーサンダー』の技術の応用
『V2 地獄からの逃走』には従来のCGIに代えてビデオゲームの技術が用いられた。この技術はすでにマーベル映画やテレビドラマシリーズ『マンダロリアン』で試されているが、ロシアでは新しい試みとなった。
マルチプレイヤー・ビデオゲーム『ウォーサンダー』のおかげで、作中の空中戦はいっそうリアルになった。バーチャルのパイロットが空中戦の映像に用いられ、パーヴェル・プリルーチヌイ演じるデヴャタエフと激闘を繰り広げる。
「バーチャルのパイロットによって記録された航跡を基に映画制作陣が作った空中戦の映像が気に入った。航路の形状や速度、戦闘状況は、現代の他の戦争映画と比べて格段にリアルだ。『ウォーサンダー』がゲームとしてだけでなく、より良い映画を撮るのに役立つ道具として使えたことは素晴らしい」と『ウォーサンダー』のプロデューサー、ヴャチェスラフ・ブランニコフは話す。
5. 初の縦型の戦争映画
『V2 地獄からの逃走』は従来の横型の形式に加えて、携帯端末に適した革新的な縦型の形式でも公開された。この形式で撮られた映画はこれが世界初だ。
「人々はスマートフォンでコンテンツを消費しており、映画制作者がこうした視聴者層を無視するのはおかしなことだ」とベクマンベトフは言う。「もちろん、これは我々が映画学校で学んだことではない。我々が映画を作ってきたやり方でもない。しかし、今は今だ。適応しないといけない。そしたらどうだろう、新たな発見がある」。