ロシアの結婚と離婚

ライフ
ヴィクトリア・リャビコワ
 聖職者と対話し、聖体の秘儀、精進、寄付を行う。これはロシアの教会で結婚式を挙げるために必要とされるもののほんの一部である。また教会で認められた婚姻関係を解消するのはほぼ不可能とも言える。

 白いドレスと長い透き通ったヴェールをつけた金髪の若い女性と黒いスーツに身を包んだ茶色い髪の男性が、ろうそくを手に、教会の真ん中に立っている。白い聖衣を着た聖職者が祈りを捧げ、証人であるグレーのスーツを着た栗毛の男性と鮮やかな柄の入ったプラトークで頭部を覆った女性が新郎新婦の前で、金箔を施した赤い王冠を持っている。

 「結婚は2回目で、わたしは息子(最初の夫の)を連れて、若い時の友人と結婚しました。わたしたちは子どもが欲しかったのですが、不妊症だと言われてしまったのです。神様に子どもが授かるよう祈る前に、まずある教会で結婚式を挙げてはどうかと助言されたんです。それで教会で式を挙げようと決めたときから、わたしたちの家族に奇跡が起きるようになりました。それは今も続いています」。現在、36歳のライサ・ポズニャコワさんは、結婚式についてこのように回想している。ライサさんによれば、結婚式を挙げ、祈祷をあげるようになってから、彼女は2人の息子を出産した。

 ライサさんとは異なり、教会で結婚式を挙げる必要性があると感じている人は多くはない。ロシアでは、教会で式を挙げた人の数に関して公式的なデータはないが、ロシア人の48%が、ロシアで教会での結婚式を義務化するという発案に反対している。 さらにロシアでは婚姻数自体が減少している。ロシア統計局の2020年のデータを見ると、国内の結婚件数は77万件、離婚件数は56万4,000件となっており、教会で式を挙げたカップルの半数以上が婚姻関係を解消していると、ロシア通信はロシア正教会の聖職者の情報として伝えている

 人気を失いつつある教会の結婚の儀式とはどのようなものなのだろうか。また結婚式に参列できない人はいるのか、そして離婚した場合、どのような手続きが必要なのだろうか? 

 

結婚式の許可と準備

 2017年、ロシア正教会モスクワ府主教管区のサイトに「教会の結婚式の規則について」の文書が掲載された。これは、結婚式の許可とその解消時の決まりをまとめたものである。この文書によれば、ロシアでは、結婚登録所で正式に婚姻関係が証明された異性愛者のカップルのみが教会で結婚式を挙げられることになっている。ロシア正教会は同棲を認めていない。例外として認めているのは、パートナーのどちらかが近く、軍事行動に参加することになっているか、または重い病気に罹っている場合のみである。

 またロシア正教会は以下のようなロシア人が教会で結婚式を挙げることを禁止している。              

 上記以外の場合、教会での結婚式を希望する人は誰でも、地元の府主教管区に出向き、結婚の儀式を執り行ってもらうことができる。結婚式を挙げる前に、聖職者が結婚式を挙げるカップルと何度か面談し、結婚式の重要さについて、また儀式がどのように執り行われるのかについて説明する。

 ポズニャコワさんは回想する。「聖職者が式の前に精進期を送り、罪の告白をし、聖体拝領を受けるよう助言してくれました。それから、結婚式で言う言葉を、聖職者と一緒に覚えました。挑発的な服装はせず、派手なメイクを避け、頭を何かで覆ってくるよう言われました。そして必ずしなければならないこととして、儀式のためのロウソク、刺繍入りの長い布、イコン(聖像画)を買うよう言われたのですが、2人にはお金がそれほどなかったので、親戚に買ってもらいました」。

 また教会で結婚の儀式を行ってもらうためには、教会への寄付が条件づけられている。ただし、金額は決まっていないため、2人は2,000ルーブル(およそ2,800円)を用意した。モスクワの地域や多くの教会では、寄付金の額は 1万ルーブル(およそ15,000円)を超えることはない。しかし、たとえばモスクワの聖なる殉教者ローマ教皇クレメンス教会など、いくつかの教会では儀式には5万ルーブル(およそ7万2,000円)かかるという。この金額には、長い布や合唱団による聖歌、お祝いの鐘の演奏などの費用も含まれていると雑誌「ウェディング」には書かれている

 

結婚の儀式の日 

 教会で結婚式を挙げたサンクトペテルブルクのアンナ・ブロヒナさんは、結婚式の日の朝は、一般的な新婦の朝と同じようなものだったと述べている。

 「7年前、結婚登録をした後、教会で結婚式を挙げました。 7歳の娘がいたのですが、5月の暖かい日で、ヘアセットをして、メイクをして、青いドレスを着ました。夫と親戚と一緒にリムジンに乗り、教会に行きました」とアンナさんは語る。

 儀式の前に、神の前で夫婦になることを誓う清らかな心を象徴する白い衣装を身につけた聖職者が新郎新婦の前に姿を見せる。

 儀式の間、教会の司教が、新郎新婦の祝福し、また神の祝福を請いつつ、いくつもの祈りを捧げる。2人は両手でロウソクを持っている。これはお互いへの愛を意味している。祈祷の後、新郎新婦の指に指輪をはめ、その後2人は愛と誠心の印としてこの指輪を3回交換する。それから2人は教会の真ん中に敷かれた長い布の上に立つ。ちなみに、この際、この布の上に先に立った方が家庭で主導権を握るという迷信がある。

 新郎新婦はもう一度、神の前で、結婚を望んでいると告げ、2人は王冠に描かれた救世主ハリストスに口づける。証人たちの助けを借りて、王冠を頭に載せる、あるいは聖職者が儀式を執り行っている間、頭の前に掲げている。

 祈祷を終えた聖職者は、新郎新婦に神の前に頭を下げさせると、赤ワインの入った器を運んでくる。この赤ワインは夫婦の交流を象徴している。それぞれが器から3度、ワインを少量ずつ飲む。その後、聖職者がワインを片付け、新郎新婦の手を重ね、その上に祭服を乗せ、自分の手を置くと、短い聖歌を歌いながら、3回、イコンや祈祷書を置く台の周りを歩く。この儀式は、2人が神の前を永遠に歩いていくことを意味している。

 そして、新郎新婦は天国への入り口を象徴する聖なる扉に導かれ、新郎は救世主のイコンに、そして新婦は聖母のイコンにキスをする。その後、2人は場所を入れ替わり、聖職者が十字架にキスするよう促した後、2つのイコンを手渡す。新郎には救世主のイコン、そして新婦には聖母マリアのイコンである。

 儀式は半時間から1時間半に及ぶ。また式には、希望すれば子どもたちも参加することができる。 

 ブロヒナさんは言う。「娘もわたしたちと一緒にロウソクを手に歩きました。それは忘れられない、涙が出るほど感動的なものでした。結婚式を挙げるのには長い間、準備が必要でした。ただきれいな写真を撮影するのとは違うのです」。

 教会で結婚式を執り行っても、その日、普通の結婚式の日と同様にお祝いすることが認められているため、儀式の後、ブロヒナさん夫妻は親戚や友人たちとともにクルーズに出かけ、それからレストランに向かった。

 

長期にわたる教会での離婚手続

 教会で結婚式をした場合、婚姻関係を解消するのは難しい。ロシア正教会には「離婚」の儀式はなく、書類上、離婚していても、それは教会で承認された婚姻関係を破棄する理由にはならず、離婚の決定は府主教区によって下される。しかし、ロシア正教会は以下のような場合には、婚姻が成立していないものとみなしている。

 

 結婚から2年以上経過していれば、婚姻関係の解消を府主教区に願い出ることができる。高位聖職者がこれを検討し、婚姻関係の継続が不可能であると判断すれば、教会で認めた婚姻関係が無効であることを認め、罪のない方には2度目、3度目の結婚の許可が与えられる。罪のある方には、懺悔し、赦しの秘蹟―つまり教会が決めた期間の破門を終えた後、同様に次の結婚が許される。

 クラスノダールのリリヤさん(苗字と年齢は非公表)は自身の経験について、こう話している。「夫の浮気を知ってすぐに離婚し、再婚することに決めました。しかし、そのプロセスにはかなり時間がかかりました。聖職者と話をすると、浮気をされたのなら、(婚姻の)王冠はすぐに脱ぐことができる、許可は必要ないとのことでした。今は幸せに暮らしています」。 

 数人の司祭や聖職者から成る委員会が離婚の決定を下す場合もある。その場合はこの「教会での結婚の解消」はさらに時間がかかる可能性がある。

 女性専用、またはロシア正教徒専用のネットの掲示板にも、教会で認められた結婚の破棄に関しては色々な意見が寄せられている。その中の1人によれば、すでに書類上の離婚をした後、教会での離婚をするのに数年待っている人もいるのだそうだ。

 これについてバルナウルのエヴゲニヤさんは不満を綴っている。「2年前に、アルタイ地方の教会に離婚の申し立てをしましたが、今もまだ認められていません。いつ答えが出るのかもわからないと言われています。教会はこの手続きをするのが好きではないのです」。