ロシア皇帝の後継者たちの子育ての伝統は、数世紀かけて形作られた。皇子たちは、甘やかされ、可愛がられ、毛皮に包まれ、1日に5回の食事をとらされ、甘いものは制限なく与えられた。ベビーシッターや家庭教師は絶対にやさしい物言いしかせず、けして罰を与えられることはなかった。おもちゃは大量にあり、皇子たちは大人になっても遊び続けた。ピョートル1世の兵隊のおもちゃを例に出すだけでも十分であろう。
ドイツ人の若きママだったエカテリーナ2世は、息子のパヴェル1世の育て方に口出しをすることはできなかった。しかし、パヴェル1世は体が弱く、精神的にも弱かったため、それらはすべて子育てのせいだとされたという事実が残っている。
エカテリーナ2世が皇位に就いたとき、彼女は愛する孫(後の皇帝アレクサンドル)と弟コンスタンチンの子育てに加わることにした。1784年、エカテリーナ女帝は「子育ての指針」“Наставление о воспитании”と題する勅令を出した。その中で、子どもが身につけるべきもっとも大切なことは、「物事に対する規律だった正確な概念と健康な体と理性」だとした。
1. 衣服
衣服はできるだけ簡素で軽いものでなければならない。皇子らの衣服は夏も冬も暖かすぎず、重すぎず、締め付けすぎず、特に胸部を圧迫しすぎないものでなければならない。
2. 食べ物
食べ物はシンプルなものでなければならず、スパイスは使用せず、塩は少量しか使用してはならない。昼食と夕食の間にお腹が空いた場合は、パンを少し与える。夏季は、1日の食事のうち1回分をベリーやフルーツに替える。
「お腹が空いていないときに食べさせず、喉が乾いていないときに水分を摂らせない。お腹がいっぱいのときに、つまり、食べ物や飲み物を与えないこと」。
またエカテリーナ2世は、医師の処方がない限り、子どもにワインを与えないよう助言した。
3. 新鮮な空気に当てる
女帝は子どもの寝室の空気を入れ替えるよう助言した。特に夜中には換気が重要だとした。また冬に部屋を暖めすぎないよう注意を促している。室温は16〜17℃以上にしないようアドバイスした。
そしてもちろん、できる限り外で過ごすように助言した。「皇子たちは、夏も冬もできるだけ頻繁に戸外に出すこと」。
4. 鍛錬と水泳
女帝はサウナに入った後に冷たい水の中で泳ぐと健康に良いことに気がついた。風邪の予防のため、エカテリーナは冷たい水で足を洗うことを奨励し、子どもが足を濡らすことを恐れないよう助言した。「夏は好きなだけ泳がせ、その前に汗をかかせないことだけが重要である」。
5. 睡眠
エカテリーナ2世は子どもは柔らかい羽のベッドに寝かさず、ブランケットは軽いものにするよう主張した。就寝時には頭には何も被せず、早寝早起きを心がけること。「8時から9時まで寝れば十分である」。起こすときには驚かせないよう、小さな声で名前を呼ぶこと。
6. 遊び
子どもの遊びに制限を設ける必要はない。「遊びの中であらゆる動きを奨励する必要がある。なぜなら、動きは身体にも頭脳にも力を与え、健康にしてくれるからである。しかも大人は、子どもの側から入ってくれるように言わないうちは、遊びに介入してはならない。「遊びの中で子どもたちに完全な自由を与えることにより、性格や好みを知ることができる」。
浮かれさせ続けてもいけないが、勉強させてばかりでもいけない。常にさまざまなことをさせ、好奇心を養うこと。
7. 薬
「どうしても必要なとき以外は薬は与えない」。女帝は非常に前衛的で、別の病気を引き起こすような薬ばかり与えるよりも、健康であるよう気遣った方がよいとしている。小さな子どもはしょっちゅう、寒がったり、暑がったりするが、これは成長の過程であり、医師などいなくても治すことができるものだと述べている。
傷、日焼けなどによる痛みは治した方がよいというのが女帝の考え方であった。しかしこれも急いでやる必要はない。子どもに忍耐を学ばせるためである。
8. 善良さを教える
単純なやり方は、良い行い、成功をしたときには子どもを褒め、悪い行いをしたときには、恥ずかしい思いをさせることである。「罰というものは子どもに利益をもたらすことはない。悪いことをしたら恥ずかしいという気持ちを持たせ、良い行いをすれば、周囲から愛と賞賛を受けることができるということを教えることである」。
罰を与えないからといって、個人的な模範例なしに子どもを育てることはできない。「子どもを監督する者は、子どもたちの前で、真似てほしくないことは絶対にしないこと。悪いこと、間違っていることは子どもに見られないよう、聞かせないよう心がけること」。
「嘘やごまかしは、子どもたちはもちろん、周囲の人々にも禁じること。冗談でも嘘を言わず、子どもを嘘から遠ざけること」。
9. 涙
子どもが泣くときには2つの理由がある。1つは強情さゆえ。そして2つめは繊細さと弱音を吐きたがる傾向のためである。しかし、どちらも奨励すべきことではない。子どもには、泣いて、自分を通させてはならない。「痛みは黙って忍耐で耐えるものである」。
「赤ん坊のときから、子どもの欲求は理性と正当性に従わせなければならない」。
10. 近しい者への気遣い
子どもに手を上げたり、叱ってはいけない。また子どものいるところで、誰かに手を上げたり、誰かを叱ってはいけない。しかも、動物や虫をいじめることを許してはならない。動物であれ、鉢植えであれ、自分のものを大切にすることを教えること。
「教育者の主要な特長は、近しい者への愛情の上に成り立っていなければならない」。
11. 恐れ
幼少期、子どもを怖がらせるものから、子どもを遠ざけなければならない。そしてわざと怖がらせることは避けなければならない。少し成長してから、十分に注意を払いながら、恐怖というものを体験させ、冗談にしてみること。
12. 丁重さ
本質的に丁重さにまったく反する4つのこと
- 他の人たちに好意を持たず、他の人の愛着や嗜好、状況などを見ない無礼な行為。
- 誰かを軽蔑し、敬意を払わず、それを視線、言葉、行動、動きなどで示すこと。
- 近しい人の行動を言葉で非難したり、嘲笑したりすること。故意に争いを起こすこと、絶えず反論すること。
- 心が狭く、何もなくても細かいことをしつこく指摘し、非難し、あげつらうこと。また社会において必要以上の丁重さは我慢ならないものである。
「子どもたちに丁重さを教えるには、自分自身にも、近しい人々にも悪い考えを持たないようにすることが丁重さの基礎であることを忘れないこと」。