オピニオン:ロシアはヨーロッパか?19世紀からいまだに続く議論

Legion Media
 地理的にいえば、ロシア人の大半はヨーロッパに住んでいる。しかし、文化、歴史、政治の面でロシアがヨーロッパに属するか否かについて話し始めると…。21世紀の今でも、カンカンガクガク、終わりなき議論が始まる。

 ロシアは、ヨーロッパの価値観の共有という点に関して、ヨーロッパの一部と見なすことができるか?この疑問は、ピョートル大帝(1672年~1725年)の時代以来、ロシア社会を騒がせてきた。

 ピョートル大帝は、家父長制のロシアからヨーロッパ式の帝国を創るというドラスティックな決断をした。が、その前には、我々ロシア人の祖先はほとんど自身の仕事、事業にばかりかまけていた。ポーランド人やタタール人と戦う、シベリアを探検する、正教会の改革(ニコンの改革)を嘆く、等々。それはなんと輝かしい時代だったことか!…

 しかし、ピョートル時代以後、ロシアが西方に顔を向けると、終わりなき議論が続くようになる。ロシアはヨーロッパに属しているのか、それはヨーロッパなのか?それとも、別種の文明と考えるべきか。ロシアには自分自身の「道」があり、あまりに巨大すぎて欧州には収まらないということか(また、ヨーロッパ自身も、自分たちの文化、政治の一部としてロシアを受け入れることを躊躇しなかったわけではない。とにかく、これは今日まで続く議論だ)。

 

手っ取り早く言うと

 この議論は延々と続いており、止まる気配もない(少なくとも十分な暇と元気があるロシア人にとっては)。19世紀には、ロシアの知識人(インテリゲンチャ)の間に2つの潮流があった。西欧派とスラヴ派だ。前者は、ロシアはヨーロッパの国であるという考えを好み、後者はそれを嫌悪した。

 簡単に言うと、次の2つの見方があった。

  • 「西欧派」

 この潮流によれば、ヨーロッパ文明は、技術的および知的な面で、世界の発展と成功の原動力である。したがって、ロシアにとって好ましい路線は、ヨーロッパ・モデルに従い、経済発展し、市民に権利を与えることである。

 「ヨーロッパの国々には共通点がある。義務、正義、権利、秩序に関する思想。これは西欧を包む雰囲気であって、単なる歴史や心理以上のものであり、ヨーロッパ人の本質をなす」。西欧派の思想家、ピョートル・チャアダーエフはこう書いている。 

 

フョードル・ドストエフスキー

  • 「スラヴ派」

 スラヴ派によれば、ロシアは世界の歴史において独自の道を歩んでおり、ヨーロッパに盲目的に追従する必要などない。ヨーロッパから学ぶ必要があるのはロシアではない。その逆である。つまり、神と道徳を捨てた西洋文明こそ、ロシアのキリスト教精神から学ぶべきだという。

 「ロシアは、極めてユニークな独立独歩の国であり、ロシア人の使命は新たなものを創造することだ。それは、我々自身のものであり、我々固有のものであり、我々の土壌と精神から汲み取ったものだ」。熱烈なスラヴ派だった作家フョードル・ドストエフスキーはこう主張した。 

 こうした議論が19世紀に戦わされたのだが、驚くべきことに、それ以来、議論の中身はあまり変わっていない(もっとも、ソ連時代の70年間の休止を挟んでいる。この時代は、西欧派もスラヴ派も、黙って共産党に従わなければならなかった) 。

 今日も、ロシア社会の一部はいまだに自分たちがヨーロッパ人であり、彼らに従うべきだと信じているが、社会の他の部分はまだ、ヨーロッパの偽善を疑い、そのために彼らを軽蔑し、非難している。

 こうした議論はさておき、「ヨーロッパ」自体が、非常に曖昧な概念で、議論で詰める必要があるだろう。結局のところ、ヨーロッパとは何なのか?

 

ヨーロッパという概念

 この問題は、見かけよりも複雑だ。地理的にヨーロッパを定義することさえ、けっこう難しい。地理学の観点からすれば、この大陸はユーラシアと呼ばれていて、西ヨーロッパは、大陸の西部にでっかく突き出た奇妙な半島にすぎず(こう言っちゃ悪いけど)、ヨーロッパとアジアの境界は、依然として論争の的となっている。

 そして、文化について言えば、ヨーロッパの内部でさえ、その差異は明らかだ。グローバル化がピークに達しても、ノルウェー、エストニア、ポルトガルは、別個の文化のままであり、ウェールズ人はスロベニア人とは異なる問題と願望をもっている。果たして、それらすべてに共通点があるのだろうか?

 しかし、筆者の考えでは、ヨーロッパの文化的コアを明確に説明できる3つの側面がある。

 

1. 地理的側面。これが一番分かりやすい。微妙な点は別として、ほとんどの学者は次の点で同意している。ウラル山脈の西側は、そのほとんどすべてがヨーロッパであるということだ。少なくともこの点では論争しないことにしよう。

2. 歴史と文化。かなりの程度まで、私たちが知っているヨーロッパは、2つの歴史的・文化的現象によって形作られた。その第一はローマ帝国。ローマ人が征服した諸民族にラテン文化を広げ、それがヨーロッパ全体に影響を及ぼしたからだ。

 第二にキリスト教。これは中東で生まれたが、ヨーロッパで開花し、当地の文明を形成する宗教となった。

 もちろん、ヨーロッパのすべての国がキリスト教国であるわけではないし、すべての国がローマ人に支配されたわけでもない。しかし、古代(ローマの伝統)とキリスト教が混ざり合って、ヨーロッパ文化を現在の姿にした。

3. 政治。ヨーロッパで始まった2つの世界大戦の後、ヨーロッパ人は、この地域内には内部紛争の火種がありすぎたという理解に達した。そして彼らは、包括的な、国境のない「傘」のような上部組織を創り始めた。それは潜在的に、すべてのヨーロッパ諸国を統合すべきものだった。

 現在、この組織は欧州連合(EU)に発展しており、大なり小なり機能している(もちろん、例えばイギリスを見れば、最良の形とは言い難いが)。そしてEUは、ほとんどの欧州諸国が共有する、共通の価値観を集約している。

 公式には、その価値観とは、「人間の尊厳と人権、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重」。もちろん、これらすべてが実際に存在するわけではないが、少なくともガイドラインにはなっている。EU諸国は、外交政策についても多かれ少なかれ接点を見出そうとしている。

 

ロシアはどうか?  

 さて、筆者が勇気を振るって上に箇条書きにした3つの要素を、ロシアに当てはめて、その「ヨーロッパ度」を確かめてみようか(ほかにも要素があれば、コメント欄で自由に提案してほしい)。

 まず地理的には、文句ないだろう。なにしろ、ロシアの人口の77%はウラル山脈の西にある「ヨーロッパの一部」に住んでいるのだから。好むと好まざるとにかかわらず、モスクワはヨーロッパ的な首都ということになる(ちなみにヨーロッパで最大の首都でもある)。

 歴史的および文化的にも、ノーよりはイエスの面が多い。ロシアは、ビザンツ帝国からキリスト教(東方正教会の)を受容したが、ビザンツは東ローマ帝国、つまりローマ帝国の一部だった。

 もちろん、「この世の果ての極東」に住むロシア人は、しばらくの間、無教育なヨーロッパ人から、ケンタウロスもどきの、エキゾチックな半ば神話的な生き物と見なされていた。

 しかし、18世紀以来、ロシアは、ヨーロッパの誇らしい一部となった。そして、終わりのない戦争に参加したり、ラディカルな新しいイデオロギーを採り入れたりする特権を享受した(ありがとう、カール・マルクス!)。

 「東洋と西洋のいずれもが、ロシアを西洋文化の一部と見なしている。なるほど、ロシア文化と西洋文化の違いは大きい。西洋の統合された価値観からの乖離も大きい。しかし、その差異は、フィンランドとポルトガル、ハンガリーとアイルランド、キプロスとポーランドの違いより大きいわけではない」。ジャーナリストのアレクサンドル・バウノフは2014年にこう書いている

 筆者はこれに賛成だ。イスラム、中国、インドの文明などを考えれば、ロシアはそれらの文明とは、ヨーロッパとの半分も共通点をもたないだろう。

 さて、政治的には…ここで筆者は強い「ノー」を加えざるを得ない。なるほど、ロシアの政治家たちは「人間の尊厳と人権、自由、民主主義、平等、法の支配」に反対するとは言わない(やっぱり体裁が悪いからね)。だが、ロシアとEUは、これらの美しい言葉に対して異なるアプローチをとっている。そして今日では、ロシアがEUに加盟するなんて言ったら、ヒステリックに笑われるのが関の山だろう。

 もっとも、ウラジミール・プーチン大統領は明らかに、「リスボンからウラジオストクまで統合されたヨーロッパ」というイメージを好んでいるようだ。でも、そんなヨーロッパの創造は、現時点からはるか彼方の遠大な目標だろう。我々のうちの誰も、その実現を見るほど長生きすることはできないだろう。

 

要するに結論は?

 筆者は、ロシアはヨーロッパ文明の一部だと思うが、かなり特殊な部分だ。ここでひとつ、自分を大家族の一員だと想像してみてほしい。両親、兄弟姉妹…みんながすごく大きなアパートに住んでいる。あと、あなたがよく知らない叔父さんがいて、隣の部屋に住んでいる。彼は確かに家族の一員なのだが、それほど親密ではない。彼の言動は非常に予測困難だ。あなたの両親は常々、あの叔父さんといっしょに遊びすぎるとまずいかも、と言う。

 お分かりかな?このシナリオでは、あなたはヨーロッパのどこかの国であり、あなたの両親はEUで、あなたの叔父さんはちょっとばかり飲酒癖があると噂されている…。はい、その通り!その叔父さんはロシアでした。

 

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