典型的な極東人の素顔
これらの人々に出会うことは滅多にない。したがって極東人はどこか地球の片隅の受難者のように思われるかもしれない。ロシアの中央連邦管区およびヨーロッパロシアの住人がもし極東に行くとすれば、それはたいてい“大儲け”を狙ってのことだ。厳しい気候と引き換えに、かなり割り増し(50~60パーセント)の高収入が期待できる。ウラジオストク(モスクワから9000キロメートル東)では彼らについてこんなジョークがある。「ウラジオストクへ車で向かおうとする人の大半は、途中で早々にくじけて引き返してしまう。」
実際のところ、典型的な極東人は“大陸”(極東ではロシア中部のことをこう呼ぶ)が遠いということをさほど苦にしていない。極東人の間で“孤島症候群”と表現されるのは、ある一点だけだ。「何が可笑しいって、あなたは明日チェコかどこかへ行きたいと思えば、すぐに行けるだろう。でも私はアエロフロートの定価表を見て悲しくなるんだ。」電子掲示板で極東人はこう悲嘆する。これ以外の“大陸”の出来事に関して彼らが困ることはあまりない。
もし極東人が依然モスクワやサンクトペテルブルクに行くことがあれば、彼らはがっかりする。そこの住民は没個性的な大衆に見え、したがって彼らには似ていない。
また、ここの人々はロシアの残りの地域の住人よりも著しく早口である。
典型的な極東人の行き先
居住地、とりわけ辺鄙なところでは、娯楽はさほど多くない。住人が楽しめることと言えば、山々をスノーボードで滑り降り、“ピット”(悪くない夕食がとれる軽食店のことを、地元の人々はそう呼ぶ)でオーロラを観察することだ。
夏には極東人はリゾート地のメッカ、日本海沿岸の沿海地方へ向かう。これは全極東的な“聖地巡礼”(ただし持ち物はテント)といったところだ。これは6月末から10月まで続く。もちろん沿海地方の住人は、日光浴に最も良い場所を占領する“バイキング”の襲来を歓迎しないが、他方では、彼らに他に行き先がないことも理解している。
典型的な極東人の乗り物
第一に、ロシアのどの地域も自動車の台数で極東を抜くことはできない。第二に、ここでロシア製の車を見つけることは、街中で虎を見つけるのと同じくらい難しい。
例えばカムチャッカでは、住人1000人当たり472台の車がある。一方ロシア全体の平均値は285台*だ。加えて、少なくとも車の4分の3が、隣国の日本などから押し寄せてくる人気の右ハンドル車だ。
ここでは右ハンドルに歌が捧げられ、小説が書かれ、「ハンドルは右、心は左」といった一節を含む詩まで詠まれている。 “右ハンドル”という銘柄のビールまで現れた。
典型的な極東人の諸事
ほとんど皆が少なくとも人生に一度はアジアへ行ったことがあり、またここでは隣国から来た人々は好意的に迎えられる。友好的で親切だと考えられているからだ。買い物はAliExpressなどのインターネットサイトで済ます(ちなみにそこで稼ぐこともよくある)。
極東人とお金の関係は特別だ。住民のほとんど全員が預金を持っている。いや、ここに住んでいる人々が格別に理性的というわけではない。ただ単に、より暖かい別の場所に引っ越すという宿願を抱いて典型的な極東人は生きているのである。
しかし住民は故郷を離れると、すぐさま故郷を恋しがる。「私たちはモスクワへ引っ越したのですが、私は湖の岸辺にやって来ては、視界に水だけが残るように顔を手のひらで覆い、これは海なんだと空想したものです。」アンナ・シッツ=ブラヴィナさんはそう話した。
遥かに頻繁に見られるのが、もう一つのシナリオだ。人々は長期休暇を取って遠出し(法律上、極東人は平均的なロシア人より多くの休暇を取れる)、帰って来てしばらくの間は生活のすべてが軌道に乗る。典型的な住人は、たまには極東を離れ、そしてしばしば本当に冷蔵庫の中に眠っているバケツ一杯のイクラからも逃れて、息抜きする必要があると知っているのだ。
ところでクマの噂は本当だ。現地住民は、真の極東人になるためには15メートルの距離でクマを見て、生きて帰って来なければならない、と冗談を言う。
*調査機関アヴトスタートのデータによる。