同胞(はらから)よ、信ぜよ:心ときめかす幸福の星が
かならずや輝きのぼり、
そしてロシアは眠りから覚め、
打ち砕かれた専制政治の瓦礫の上に
ぼくらの名前が刻まれることを。
(御子柴道夫訳)
大詩人アレクサンドル・プーシキンの詩「チャアダーエフへ」(1818年)の一節だ。これは、おそらく「tovarisch」(同志)という単語がロシア詩において、「友人、同胞」の意味で使われた最初のケースだろう。しかし、19世紀初頭、つまりこの詩が書かれた当時は、「tovarisch」という言葉は別の意味をもっていた。
ロシアでは1802年以来、「タヴァーリッシ」は政府の役職の名称であり、基本的に「代理」、「副○○」を意味していた。だから、「大臣のタヴァーリッシ」は「副大臣」になるわけだ。19世紀以前のロシア語では、「tovarisch」は「tovar」(製品、品物)という言葉から派生していたため、同じ商品を販売するビジネス・パートナーをも意味して用いられた。
「フレンドリーな」意味のほうの「tovarisch」(つまり、ビジネス・パートナーの意味ではないほう)は、「comrade」の訳語になった。これは、1790年代以降、フランスの革命家の間で広く使用された。
19世紀末には、ロシア語の「tovarisch」は、社会主義者の間での主な呼びかけの言葉となった。
しかし、ロシア語で「tovarisch」という言葉に「革命的な」雰囲気が漂っているのは、プーシキンがその詩に用いたからだ。この詩人がデカブリストたちに非常に同情したことを我々は知っている。デカブリストは、1820年代に専制に抗して反乱を起こした青年将校らだ。また、詩が捧げられたピョートル・チャアダーエフもまた、専制をとくに「第一哲学書簡」で徹底的に批判した。だから、「tovarisch」は、19世紀初めから革命の空気と密接に関係していた。
ソ連時代には、「tovarisch」は、「grazhdanin」(市民)とともに、ソ連市民の間で、未知の人物への通常の丁寧な呼びかけになった。しかし、ソ連崩壊の後、この呼びかけは、ソ連時代を連想させるというので、とくに若い世代の間ではあまり使われなくなった。
最近のロシア語の口語では、「tovarisch」は、かなり皮肉な使い方をされる。とはいえ、ロシア軍ではまだ公式に使用されており、正式な場面ではこれを用いて呼びかけねばならない。
つまり、軍の上官あるいは年長者は、部下あるいは年少者に対して、階級+姓で呼びかけるか(たとえば、少尉スミルノフ!)、または、「tovarisch」+階級で呼ぶ(Товарищ младший лейтенант 〈tovarisch sub-lieutenant〉」。
一方、部下あるいは年少者は、上官あるいは年長者に対し、「tovarisch」+階級で呼びかける(姓で呼びかけることはできない)。
だから、結局、軍隊に所属する相当数のロシア人は、依然として公式に「tovarisch」を日常的に使っている。
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