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ロシアの歴史を通じて、粗野で卑猥な言葉を含む罵言「マート」は、ロシアの言語と文化の一部をなしてきた。古代から、異教の儀式などにも関連して、呪いの言葉や罵言は、ルールや社会規範を破り、強烈な感情を表す方法として機能してきた。
その際、とりわけタブーや「下半身」や性などに触れることが多かった。この種の冒涜的言辞を含む、ロシアの最古の文書は、2005年に発見されている。12世紀のヴェリーキー・ノヴゴロドの「白樺文書」2つだ(白樺の樹皮に書かれたことからこの名がある)。
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今日では、人前でマートを使っても大目に見られることが多い。だが場合によっては、軽犯罪とみなされ、15日以下の懲役か1000ルーブル(1650円)以下の罰金を科されることもある。また、特定の人に対してマートを使うと、侮辱とみなされることも。この場合は、より高額の罰金3000ルーブル以下(4950円)を科せられ得る。さらにそれが公衆の面前で発せられた場合は、5000ルーブル(8250円)以下を支払わねばならないかも。
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テレビ、映画、文学、マスメディア、コンサート、劇場などでのマートの使用については、規則はもっと厳しくなる。これらの場ではマートは厳禁で、重い罰金につながり得る。
個人が使った場合は、2000~2500ルーブル(3300~4125円)。公職にある人が使えば4000~5000ルーブル(6600~8250円)、会社や組織なら4万~5万ルーブル(6万6000~8万2500円)。実際にマートが使われてしまったときは、映画やテレビ番組なら、ピーという音を鳴らすなどして、その部分を聞こえなくする。メディアの記事や文学作品で、そのマートが不可欠なら、***のような記号を使用する。
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ネットのブロガーやその他のインターネットユーザーの場合は、仮想領域での下品な言葉の使用を禁止する正式の法律はなく、罰金を科されることもない。しかし、ロシアの当局者は、「インターネットは、然るべき行動が必要な公共の場所なので、マートを使わないよう勧める」と述べた。
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ロシアの作家や詩人の多くは、マートの使用を控えていない。詩人アレクサンドル・プーシキン、ノーベル賞作家イワン・ブーニン、そして文豪レフ・トルストイなども、日々の生活のなかでマートを巧みに使い、ロシア文化に不可分なものとして、事実上、この現象を支えてきた。例えば、作家マクシム・ゴーリキーは、トルストイについてこんなことを書いている。
「それからトルストイは、私の短編『二十六人の男と一人の少女』に出てくる娘について、実にあっさりと矢継ぎ早にマートを使いながら話し始めた。私は、最初はそれが冷笑的で、自分の気持ちを傷つけられたように感じた。ところが、後で分かったことだが、彼は、それがより正確に彼の言わんとする意味と感情を伝えると思って使ったにすぎなかった…」
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ソ連時代には、マートは非常にはしたない言葉とみなされた。そこで、ソ連市民は、子供たちの前でも使える一連の代替フレーズを考え出した。例えば、burzhui(ブルジョワ)やintelligentsia vshivaya(虱だらけのインテリ。強制収容所送りになった政治犯や知識層について使われた)は、自分は他の連中より上だと思い込んでいる人への罵言だ。blin(パンケーキ)は、本来の悪罵の代わりに、「ちくしょう!」という意味で使われた、「軽めの代用品」だ。これらの言葉はいまだに使われている。
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ロシアのこの手の言葉は、ネット上にたくさん出回っているが、外国人は使用しない方が無難だ。ソ連時代同様に、ロシア人との会話でこうした下品な言葉を使うのはまだリスキー。だから、あなたの話相手がそれを許容するかどうか分からない場合は、「軽めの代用品」を使った方がいい。さっき述べたblinとかchyort(悪魔、ちくしょう)とかで、もっと無難にあなたの感情を表すことができる。
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また、ё [yo] letter “ё [yo]の文字で始まる「強い感情」を表す言葉もたくさんある。例えば、yolki-palki、 yomoye、yokarnyi babay、yoprst、yoperny teatrなど。これらは、悲しみ、驚き、哀感、戸惑い、幸福、怒りなど、基本的にはあらゆる強烈な感情を表すが、マートよりずっと無難だ。
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2018年5月に、市場調査を行う「Zoom Market」社がロシア全国の各都市でアンケート調査を実施した。質問は、どれだけ頻繁に下品な言葉を使うか。その結果、いちばんよく使うのは、ペルミ、ヴォロネジ、イワノヴォの順で、これにオレンブルク、タンボフ、チェリャビンスクが続いた。大都市のモスクワとサンクトペテルブルクは、上位10位にも入らず、それぞれ18位と23位だった。(リンクはロシア語 )
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