伝説的ケーキ「タタールスタン」の歴史は1970年代に始まる。その当時、若きパティシエの巨匠、ズラプ・フブラヴァはタタール共和国の首都、カザン(モスクワの東方700キロ)にあるザリャー菓子工場に派遣された。そこはかなり旧式の工場であったので、そこを任されたフブラヴァは工場を近代的に改革することを決心した。設備を更新し、規模の拡大して従業員を増やした。これによって、ザリャーはソ連の当時の菓子工場の中でもトップクラスになった。
彼のもうひとつの挑戦は、地元の伝統的なもの(もっとも有名なのはチャクチャク)とは違う、新しいデザートを開発することであった。しかもこのケーキは、タタール地方の特色や文化を映し出すものでなくてはならなかった。それには、まず第一に、甘くて日持ちするものでなくてはならない。そのため、このケーキにはスポンジケーキは使われず、乾燥卵白だけだ(ここでは生の材料も使っている)。同僚であるニーナ・チャグノワとハシバ・ザリポワとともに、フブゥラワは新しいメレンゲベースのケーキを開発し、製造を始めたのだ。
一夜にしてこの新作ケーキは大評判になった。人々はこれを買うのに、長い列について、夜から並ぶ状態になった。それからウェイティングリストに名前を書き込み、その予約表にもとづいて、しばらくしてからケーキをピックアップできた。カザンを訪れる人は、このケーキを食べるのを楽しみにし、また、このタタールの特別な味を持ち帰って友人たちを驚かそうとしたものだ。この地方の名を冠したケーキはなにより一番のお土産だったのだ。
タンパク質を含むメレンゲの層に加えて、このケーキには卵白のクリームとクランベリージャムが含まれている。そしてメレンゲとチョコレートで飾られている。今では、このケーキは50年前ほど人気があるわけではないが、カザンでは置いてあるお菓子屋がまだある。
メレンゲ・デザートの専門家たちはこれを国家標準のレシピに対応させ、家庭でも作れるようになった。バリエーションもいくつかあり、たとえば、層にナッツを入れたり、クランベリージャムを入れないものもある。材料の構成としては、若干、「パヴロワ」菓子に似ている。
標準的なレシピのひとつを基本として、ここでは、このタタールのケーキに季節感を持たせることにした。すなわちクランベリーの代わりに、新鮮なスグリを使った。これの酸味のおかげで、メレンゲとクリームの甘さがいいバランスになるのである。
実をいうと、このケーキをつくるにはかなりの忍耐力がいる。しかし、甘いものが好きで、メレンゲが大好きだという人には出来上がりは最高の美味しさになるだろう。柔らかく、ふわふわで、カリッとしたメレンゲが口のなかで溶ける。やわらかいクリームが繊細で、カリッとしたナッツと、酸味のあるベリーがこのケーキに口当たりと風味の良さをもたらしている。
1. まずメレンゲを作る。クラシカルなやり方では砂糖を使うが、ここでは細かい粉にする。
注:卵白の中に脂が入ると形成がうまくいかなくなるため、容器や泡立て器、手をきれいにして作業すること。
卵を洗い、卵白と卵黄に分ける。
2. 少し固くなるまで卵白を泡立てる。
3. 少しずつ砂糖を加える(粉砂糖がよい)。
4. ボウルをひっくり返しても落ちなくなるほど固く泡立てる。
5. 卵白を絞り袋に入れる。
6. 天板を裏返して型取り、その大きさのベーキングペーパーを底に敷く。こうすることでメレンゲを均等に焼ける。
7. メレンゲを貝殻の形にする。ここでは2センチほどのサイズにしているが、一般的には3〜4センチくらいにすることが多い。
8. 小さければ120℃で30分焼く。オーブンの中に入れたまま40分ほど冷ます。大きければ少し長めに時間をかける。白くて、底が平らになっていればよい。
9. 砂糖を粉砂糖にする。
10. 生地を作るのに、卵を卵黄と卵白に分ける。バニラシュガーと少量の粉砂糖を卵白に加える。
11. 泡立て、少しずつ砂糖を加える。卵白の角が立ってきたら、出来上がり。
12. 同じ紙を天板に敷く。卵白を絞り袋に入れて、直径15センチの円型のメレンゲを3枚作る。
13. カシューナッツは砕いて、フライパンで焼き色がつくまで炒める。
14. ナッツをケーキの上にふりかける。
15. 120℃で60〜80分焼く。ケーキを冷ます。
16. ケーキを焼いている間にクリームを作る。バターは冷蔵庫から出して、室温に戻しておく。卵を卵白と卵黄に分ける。粉砂糖全量を卵白に加える。
17. ボウルを、水の入った大きめの鍋に入れ湯煎にかけ、50〜70℃に温める。混ぜ続けること。
18. 卵白を泡立てる。クリームの温度は70℃以上にしないこと。
19. 白くて滑らかで伸びのあるクリームができあがる。
20. 火から下し、氷水の入ったボウルに入れて冷やす。卵白をミキサーに入れ、泡立てる。温度は25℃以上にしないこと。5分ほど泡立てる。
21. バターを加える。1度に小さじ2ずつ。バターとクリームがよく混ざるよう、バターは柔らかくしておくこと。
22. フワッとした柔らかいクリームができる。
23. ここでクランベリージャムを加えてもよい。量は大さじ1で十分。加えたら、やさしく混ぜる。ここではこの工程は省く。
24. ケーキを合わせる。クリームを塗る。
25. 端にもクリームを塗る。
26. 端をメレンゲで飾る。
27. 表面はフレッシュなベリーを飾る。
28. 冷蔵庫で一晩寝かせる。
29. 紅茶またはベリーと一緒にいただく。
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