ロシアにはいくつかの小麦パンがある。それぞれ形や材料、目的が違う。モスクワ・カラチはもっとも特別な小麦パンの一つである。小さくてふわふわで、取っ手と分厚い「お腹」のついた錠前のような形をしている。
「カラチ」という名前はロシア文化の中でよく耳にする言葉だろう。この「カラチ」という名前の由来については、「コレソー」(車輪の意)から来ているという説もあれば、テュルク語の「コラク」(耳の意)から来ているという説もあり、またロシア語で焼く、熱するという意味を持つ動詞「カリチ」から来ているという説もある。
モスクワにカラチが登場したのは遅くとも14世紀、カラチは文学やフォークロアの中でもよく言及されている。しかしながら、わたしは20年ほどモスクワに住んでいたが、この20年の間にカラチが売られているのを見たことは一度もない。
モスクワのもっとも特徴的なパンがパン屋の棚から消えたのはなぜなのか。それはこのパンを焼くのには時間がかかるだけでなく、かなりの手作業が必要だからである。つまり商業ベースでは利益にならなかったのである。
しかし、もちろん、このパンは今もとてもおいしく、見た目もとても楽しく、家庭で作ってみる価値は絶対にある。テクスチャーは多孔質で、生地をゆっくり時間をかけて発酵させ、同じ手順を繰り返さなければならない。またもう一つ重要なのは、カラチは上質のグルテンが含まれた小麦粉を使って作られるということである。小麦粉には11〜15%のタンパク質が含まれていなければならない。
カラチを作るというのは時間のかかる作業である。朝からスタートして、夕食の頃にようやくおいしいパンが焼き上がる。もう一つ嬉しいのは、パンはかなり長期間保存できるので、翌朝の朝食にすることもできれば、置いておいて、ピクニックに持っていったり、職場にランチに持って行くこともできる。
概して、カラチはロシアの最初の一般的なストリート・フードの一つである。屋台や市で売られ、人々は取っ手を持って食べた。衛生上、取っ手は捨てるか貧しい人、犬にあげるのが普通であった。
家で作ったカラチは家族みんなで取っ手もすべて食べた。単にカリカリとした皮のついた穴の開いたしっとりとしたもちもち香ばしいパンを食べるのをやめることなどできなかったのである。モスクワ・カラチのこの作り方に従って作れば、家で焼くのも簡単である。
1. イーストを水に溶かす。
2. 深いボウルに小麦粉と塩を入れ、水に溶かしたイーストを入れる。
3. 手で生地をこねる。小麦粉が水に吸収されれば十分で、長い時間こねる必要はない。
4. ボウルにラップをして、暖かい場所に60分置く。
5. 手を濡らし、生地を端から持ち上げ、生地を中に折りたたむようにする。
6. 左と右の端も同じように持ち上げ、折りたたむようにし、もう一度ボウルにラップをして、暖かい場所に60分置く。
7. 1時間後、生地を広げ、ラップをし、暖かい場所でもう1時間発酵させる。再び生地を広げ、今度は寒い場所で同じ工程を2度繰り返す。寒い場所での発酵を60分おこなった後、もう1度、生地を広げ、最後となる5回目の発酵を行う。
8. 最後の60分の発酵が終わったら、生地をひっくり返して、4等分する。これは、巻いたパンが均等に焼けるようにし、同じ時間に焼きあがるようにするため。打粉をした作業台で行う。
9. それぞれの生地を平らにして、四隅を真ん中に寄せ、丸める。
10. 丸めた生地すべてをラップで包み、30分ほど置く。
11. 薄く丸く伸ばし、優しく押す。生地の1/3を巻く。
12. 反対側も巻く。
13. 両端を重ね合わせ、継ぎ目が下になるようひっくり返す。
14. 端を持ち、真ん中の部分が少し太くなるようにする。
15. オーブンを最大温度で予熱する。ここではベーキングストーンで焼く。ストーンは予熱する前のオーブンに入れておく。端と端を合わせる部分はしっかり留めること。40分から45分膨らませる。
16. リブ付きのスライスナイフで縦に切り目を入れる。
17. 小麦粉をはたいてオーブンに戻す。パン全体に少量の小麦粉をはたく。
18. 天板またはベーキングストーンにそっとパーチメント紙を置く。オーブンの下段に氷を置く(300gほど)。10〜15分ほど焼く(温度による)。ここでは260℃で17分強焼いた。
19. 焼き上がったら冷ます。
20. 冷めたらホームメイドバターを塗って召し上がれ!
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