ロシア人が宗教上の祝日に特別な料理をつくる理由

Evgeny Zhigalov/Getty Images
 東方正教会の教義では信者が肉を食するのを1年のほとんどの期間禁じており、食の伝統に多大な影響を与えている。

 ロシアの農民は歴史的に自給農業を行っており、厳しい気候の中で家畜の世話や土地を耕すのに多くの時間を取られていた。女性たちは家庭や農場でとても多くやるべきことがあったので、手の込んだ料理を作ることはとても出来なかった。

 ドイツの民族誌学者ヨハン・ゲオルギは、1799年に出版した著書「ロシアに住むすべての人々について」の中で、ロシアの農婦は「家事に加えて、農場においても少しの例外を除いて男と同じだけの作業をこなす」と書いている。女性は通常夜遅くに家事を終え、毎朝4時に起きていた。そして重要な食糧であるパンでさえ1週間に1度しか焼くことが出来ないほど時間に追われていた。

パン作り、アルタイ地方、1987年。

 「時間的制約があったので、時間を節約するという意味でも料理を日常と祝宴に分けたとも考えられる。祝宴では食事の準備により時間をかけ、そのため、より『手の込んだ』さまざまな質の良い料理が用意された」とロシアの歴史家レオニード・ミロフは著書「偉大なロシアの農民とロシアの歴史的発展の特殊性」にこう記していた。

 

精進の後の祝宴

 祝日は農民の暮らしの中ではまれな出来事であった―祝日は家族のもの、もしくはキリスト教に関するものののどちらかでしかなかった。そのような日には、彼らは教会に行き、朝の祈りをする。そして、その後に家でお祝いの聖餐を食べるのである。宗教的な祝日が終わると四旬節が始まることが多い。そして長い期間、精神的な節制に加えて、肉食を断たなければならない。

 ロシア料理が四旬節の精進料理(野菜類、魚類、キノコ類で作られる)と他の食事(肉類、卵、ミルクで作られる)に分かれたのは10世紀にロシアが正教を導入したときであった。東方正教会の暦だと1年のうち200日が断食日にあたり、多くは40日間続く。善男善女たちはこの断食期が終わるのを畏れの中で待つのである。キリスト降誕祭の断食はクリスマスに先んじて行われ、大斎の断食はイースターを持って終わる。

『復活祭の挨拶』ボリス・クストーディエフ画、1916年

 1783年から1784年に出版された「トヴェリ州一覧」には、「宗教的な祝日のために、ロシア人はあらかじめ準備を整え、ビールをつくり、親族や友人を招待する。客は手作りパイを持って、通常は当日の夜にやって来る。祝宴は祭司が家の中で賛美歌を歌うことで始まる。この祝宴は2日から3日続き、飲み続け、間断なく食べ続け、歌をうたって踊る」と書かれている。

 

祝宴では何を食べたのか

 祝宴の席では、通常シチー(肉入りキャベツのスープ)や持ち寄り料理、ストゥーデン(煮凝り)や肉入りソリャンカが出される。

『復活祭のテーブル』A.マコフスキー画、1916年

 「いくつかの地方では重要な祝日に、肉入りスープに加えて、サワークリームをつけたロールパン、ハムエッグ、パンケーキ、ケーキ、パイ、ヴァトルーシュカ、フラットブレッド(平たい円形のパン)などを食べる」ロシアの科学者、アンドレイ・ボロトフが18世紀後半に自著「村の鏡、あるいは国について」の中で述べている。

 多くの手作りパイも主婦によって焼かれた。魚、粥、卵が入ったおおぶりのクレビャカや、玉ねぎ、肉か魚を入れたカリトゥキなどである。祝宴のデザートにはジンジャーブレッド、ヘーゼルナッツ、パスチラ、ベリー類が出された。

 自家製飲料が祝宴には欠かせない。よく出されたのは、自家醸造の蜂蜜クワス、ビールで、ワインはあまり飲まれない。

『復活祭』、M.モーホフ画、1842年

 また重要な祝日には特別な料理が作られた。たとえば、クリーチ、カッテージチーズで作られたパスハ、そしてイースターには色づけされた卵が食卓に載った。これらの料理は信者にとっては特別な意味を持っていた。ハリストスの復活や他の宗教的な象徴だ。

 宗教的祝日には収穫期の始まりと一致するものがある。814日に東方正教会では、3つの教会―命を与える主の十字架、救世主像、ウラジーミルの生神女に敬意を表している。これが、生神女就寝祭の断食の始まりとなっており、この日から野菜を食べ、蜂蜜を集めることが許される。この祝日は蜂蜜とポピーの救世主の日と呼ばれる。

主イエスの変容の祝日、ノヴゴロド州

 819日は、主イエスの変容の祝日で、この日からリンゴを採ることが許される。以前この日には、リンゴを教会に持っていき清めてもらっていた。家では、収穫物を使った祝宴料理―特にアップルパイが作られた。今では、このリンゴを清めてもらう伝統はとても信仰の篤い家庭にのみ残っているだけだが、蜂蜜とリンゴの救世主の日は今でも人気がある。

もっと読む:

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる