北方民族でなければ命を落としてしまう危険な料理

ロシア・ビヨンド、Kenneth Konkle/flickr.com, Legion Media
 それは、北方民族の間では珍味とされているが、それ以外の地域の人が食べると翌日にも命を落としてしまう可能性がある。1970年代に実際にそのような事件もあった。

 北方民族の伝統料理は、他の地域の人々にとってかなり衝撃的なものである。たとえば、トナカイの熱い血や濃厚な「血の」スープ、トナカイの胃の中にある未消化の内容物などを食べてみようという勇気のある人はそういないだろう。ではデザートにはどのようなものがあるのだろうか?実はデザートも、本当に好きな人でないと食べられないものである。北方のアイスクリームは、ベリー類で「味が整えられているものの」、セイウチまたはアザラシの脂身でできているのである。

 しかし、北方のもっとも奇妙でもっとも危険な珍味といえば、コパルヒン(クィムグートとも呼ばれる)以外にない。子どもの頃から食べ慣れていないと、命を落としてしまう危険性のある代物である。

「嘔吐、意識喪失、肝臓の痛みが出る」

コパルヒンを食べているネネツ人

 1970年代、小規模な調査隊を乗せた航空機Mi8がタイムィル半島の真ん中で故障した。2人の飛行士、3人の地形学者、そして通訳を務める地元のネネツ人サヴェリー・ペレソリは、9月のツンドラ地帯の中、通信も暖かい衣類も食べ物もないまま動けなくなった。救助隊を待って、1日、2日、3日経つも、誰も助けてくれる者は現れなかった。

 食料を持たない調査隊のメンバーたちはネズミやキノコ、コケモモなどを食べるしかなかった。夜になるともう寒い時期であった。そしてあと数日、救助がこなかったら、何らかの手を打たねばならないという状況を迎えていた。そのとき、サヴェリーは沼の中に栄養のあるものを見つけるという提案をした。お腹をいっぱいに満たし、最寄りのハタンガ村まで歩いていくしかないと考えたのである。 

 サヴェリーが見つけようとしたのはコパルヒンであった。それは、ネネツ人たちが冬の間、半年ほど沼に沈めておき、あとで取り出して食べる大きくて脂肪分の多いトナカイの死骸である。この「秘密の隠し場所」は、道に迷った地元の人々の命を救った。コパルヒンを見つけたら、それを食べてもかまわない。ただし、新しいものと取り替えておく必要がある。そして、サヴェリーはコパルヒンを見つけたのである。独特のにおいを嗅ぎ取って見つけたものを、調査隊のメンバーたちは気が進まないと思いつつ食べた。

 翌朝、コパルヒンがどういうものかが明らかになる。嘔吐が始まり、意識が遠のき、肝臓が痛み出した。体調に異変がなかったのはサヴェリーだけであった。一晩もがき苦しんだあと、2人の飛行士と地形学者が1人死亡、残る2人も意識不明の重体だった。ちょうどそのとき、救助のヘリコプターが到着した。1人の地形学者の命は救われたが、もう1人は治療することができず、その夜、息を引き取った。サヴェリーはその後、「毒物による過失致死」で起訴された。

沼に隠されたお腹を空かせたトナカイ

 この事件については、軍医アンドレイ・ロマチンスキーの「検死官の話」の中に記されている。コパルヒンについては誰もが知っているわけではない。これについて知っているのは、北方の先住民族と暮らす経験をした者だけである。ネネツ人のサヴェリー・ペレソリも、自分たちの伝統的な珍味が危険なものであるとは思いもしなかったのである。彼の故郷では、小さな子どもにもコパルヒンを食べさせるのだから、当然である。

 コパルヒンは発酵させた肉である。しかも正しい方法で処理された動物の肉である。コパルヒンをトナカイから作るなら、もっとも強く、もっともよく食べ物を与えられたトナカイが選ばれる。そして数日、空腹にし、胃をすっかりきれいにする。それから屠殺場に送られ、皮に傷をつけないよう、傷跡を残さないよう、窒息させて殺す。そのトナカイを沼に沈め、上から穀物をかぶせ、あとで見つけることができるよう目印をつける。

 肉は冬の間、水の中で発酵する。この間に肉は分解し、微生物がつき始め、成分を変え、ビタミンが豊富になる。しかし、同時に死体のような毒カダベリン、プトレシン、ネイリンといった成分が発生する。ネイリンは人体に対し、有機リン化合物(有毒物質)と同じような働きをする。つまりヒトはこれにより、よだれをたらし、吐き気をもよおし、下痢、けいれんを引き起こし、そして大体の場合は死亡するのである。しかし、コパルヒンは、慣れた者だと死亡させることはない。そしてこうしたものに慣れることは可能だという。

誰が、どうやって、何のために食べるのか?

 「コパルヒンが膨大なエネルギーと人体に必要な微量元素を持っていることはまったく明らかです。そうでなければ、コパルヒンを一切れ食べただけで、海の狩猟者が北氷洋の流氷の上で丸1日、お腹も空かず、力の減退も感じず、活動できるということを説明することはできません」とチュコトカに関するエッセーの中で、ユーリー・ルィトヘウは書いている。

 コパルヒンはネネツ人、チュクチ人、エスキモー、エヴェンキ人などの伝統料理である。きわめて厳しい生活条件によって、沼や氷の中で何年も保存することができ、しかもカロリーが豊富で体に良い独特の珍味が生まれた。このコパルヒンで命を落とすことがないよう、地元では子どもの頃から、生の発酵肉に慣れ親しむという。北方の人々の体はこの毒に対する耐性ができるのである。加えて、北極沿岸に住む人々の胃はまったく異なる酸性であるという(ヨーロッパの人々の胃がこの酸性であれば、胃炎や潰瘍を起こす)。そしてこの酸性が旋毛虫を殺すのだという。この地域以外の人がコパルヒンを食べた場合、死ななかったとしても、少なくとも旋毛虫感染症にはかかるそうだ。

 コパルヒンが1つあれば、一家族が数週間、場合によっては1ヶ月食べることができる。厳しい冬の気候条件の下では非常に有利なことである。凍った肉は薄切りにして、筒状に巻き、塩をつける。最高なのは、殺したばかりのトナカイの生の肺と、発酵させたハーブ、ユネフ(ツンドラの植物イワベンケイの葉のエキス)ともに食べるというものである。

 北方の珍味は苦味のある、塩を加えない脂身のような味である。別の比較をすれば、ルィトヘウ氏曰く、「本物のよく熟したコパルヒンは、切ったときにピンク色をしていて、脂身の部分は緑色に変わっている。そして、熟成したフランスのカビチーズのような強い味がする」。

コパルヒンの種類

 エスキモー人やチュクチ人は、セイウチ、アザラシ、クジラでも同じようなものを作る(主にトナカイを使うのはネネツ、チュコトカ)。

 たとえば、セイウチは晩秋に、流氷の岸に近づいてくる前に、繁殖地で殺してしまう。そして、脂身と肉と一緒に皮をいくつかに切り分け、内側に薬草や地衣類をふりかけ、同じ皮で作ったロープで縛り、ぐるぐる巻いていく。中に肝臓や心臓、腎臓を入れることもあるという。これを特別に掘った穴に入れ、石で壁を作る。セイウチが腐らず、肉の保管庫の中でゆっくりと発酵させるため、穴は永久凍土帯に作られるという。

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