モスクワに住んでいると、常に夏が来るのを待ちわびているような特別な感じがする。太陽が顔を出す、学校が夏休みになる、バケーションの季節になる・・・。人それぞれではあるが、何れにしても夏は1年でもっともわくわくする季節だ。
子供のころ、さくらんぼが出回り始めると夏がやってきたと思ったものだ。その時期が来ると、テーブルの上にはいつもさくらんぼが用意されていていつでもつまむことができた。でも食べ過ぎると、舌が赤くなって、それ以上は見るのも嫌になったものだ。大人になったなら、食べすぎたなんてことはないよう抑制しながら食べて、シーズンを通して楽しみたいものだ。そうするための最高の食べ方がヴァレニキである。驚くべきことにさくらんぼを冬まで保存できるので、冬の夜に夏の日を思い出すことができるのだ。
ヴァレニキはロシアのダンプリングまたはラビオリであるが、その違いは、甘くて栄養価が高く、しかしさくらんぼが入っているため軽くてジューシーである。メインディッシュとして何か甘いものが欲しいときにはうってつけだ。
ヴァレニキの起源はいつも議論になるのであるが、一般的な説は、ダンプリングに似た料理はすべて中国が起源であるというものだ。一方、トルコのドゥシュ・バラというさまざまな具を生地で包んで茹で上げる料理が起源だという説もある。それでドゥシュ・バラ(dush-VARA)という単語が2つに分かれて、ヴァレニキ(VAReniki) なったというのだ。しかし、ロシア語で「ワレニキ」という語は単に、水(湯)で調理するという意味でもある。しかし、何が起源だとしても、ヴァレニキがロシア人のお気に入りの料理になったことには変わりがない。
20世紀のロシアでもっとも知られた料理作家であるウィリアム・ポフリョプキンによると、ヴァレニキを作るのは決して難しいことではないが、いくつかの秘訣がある。そのうちの一つはとても簡単であるがこれで大きな違いがでるという。ヴァレニキが茹で上がったときに、お湯をしっかり切ることである。あるいはヴァレニキをまだ熱い鍋に戻してもいい。鍋の熱が余分な水分を蒸発させてくれるからである。この簡単な手順のおかげでサワークリームやシロップがヴァレニキにうまく絡まり、もちろん味に大きな違いが出る。
有名な作家であるニコライ・ゴーゴリは、食を愛する人で、「降誕祭の前夜」という作品の中でヴァレニキについて記している。ゴーゴリは神秘を好み、作品の中でもヴァレニキが命を得て、サワークリームの中に潜り込んで、主人公の口の中に飛んで行く。ゴーゴリもまた、ヴァレニキの水気をちゃんと取るのが秘訣であることを知っていたのではないかと思う。というのも、彼はヴァレニキがあたかもサワークリームの風呂に入るような表現の仕方をしているからである。
さてヴァレニキをつくる簡単な秘訣をお教えしたわけだが、これでヴァレニキが口の中に真っ直ぐに飛んで行くことを約束するこはできない。でも、ヴァレニキを楽しんでいただけることは間違いない。
材料:
生地:
- 小麦粉 2カップ
- 水 1カップ
- 塩 小さじ1/2
- バター 大さじ3
具:
- さくらんぼ 500g
- 砂糖 100g
作り方:
1. まずはさくらんぼの種を取り除く。種を取ったさくらんぼをボウルに入れ、砂糖を加える。軽く混ぜ、1時間ほど置いておく。出てきた水分は後で使う。
2.生地を作る。水とバターを温め、小麦粉と塩を加えて混ぜる。小麦粉を料理板またはテーブルに置く。
小麦粉の真ん中にくぼみを作り、水とバターを混ぜたものを注ぎ込んでいく。
小麦粉を少しずつ加えるようにして、ざっくりした生地になるまでゆっくりと手で混ぜていく。5分ほどこね、生地をやわらかく、なめらかにする。ラップで覆い、テーブルの上で1時間ほど寝かせる。
3.1時間経過するころにはさくらんぼから水分が出ているので、しぼって、果汁を取っておく。
4. 寝かせた生地を取り出したら、めん棒を用意し、料理板に小麦粉で打ち粉をして、生地を伸ばしていく。
伸ばす前に2等分しておくとやりやすい。3ミリほどの厚さに伸ばし、丸い抜き型かコップを使って、丸くくり抜く。
5. 具を詰める。丸く抜いた生地を手のひらに置き、水分を取り除いたさくらんぼ小さじ1ほどを置いていく。端を少量の水で濡らして、半月形になるよう折る。
6.具が外に出ていないか確かめる。フォークを使って押さえながら端を閉じていく。端を重ねるようにして折りたたんで編み目を作ってもよい。この閉じかたは練習が必要だが、マスターしてしまえば、ロシアの職人と呼ばれるようになること請け合い。
7.料理板に打ち粉をし、ヴァレニキがくっつかないようにする。出来上がったら、そのまますぐに調理するか、そのまま冷凍庫で保管する。
8.すぐ食べる場合、鍋で水を沸騰させる。沸騰したら塩ひとつまみを加え、ヴァレニキをそっと鍋に入れていく。鍋底にくっつかないよう気をつける。
9.ヴァレニキが浮かんできたら、そこからさらにもう1〜2分茹で、水を切る。温かい鍋に数分入れたままにし、少し水気を蒸発させる。
10.取って置いたさくらんぼの果汁を小鍋で温め、シロップにする。
11.スプーンたっぷりのサワークリームを上に乗せるのを忘れずに。その上からさくらんぼのシロップをかける。