2019年4月15日、パリのノートルダム寺院が、突然の火災で甚大な被害を受けると、フランスの大富豪は、このユニークな大聖堂を修復するために、募金活動をさっそく始めた。
ベルナール・アルノー(LVMHおよびクリスチャン・ディオールの大株主で、両社の取締役会長兼CEO )は、2億2600万ドル、ピノー家は1億1300万ドルの寄付を約束した。他の人たちもこの動きに加わった。
フランスの大金持ちたちは、自国の文化遺産について、あるいは少なくともPRのチャンスについて気にかけているようだ。
幸いなことに、ロシアでは、火災後にクレムリンを復旧するために資金調達をしなければならない…などというケースはこれまでなかった。しかし、仮にそうした必要があったとしても、寄付の用意がある大金持ちの数に不足はあるまい。他の国と同じく、ロシアの億万長者は慈善事業には熱心だから。以下はその数例だ。
ウラジーミル・ポターニン
ウラジーミル・ポタニンは、ロシア有数の新興財閥(オリガルヒ)「インターロス・グループ」の総帥だ。同グループは、ニッケル・パラジウム生産で世界有数の「ノリリスク・ニッケル」の株式33%を保有する。
純資産:181億ドル(フォーブス誌)
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
ポターニンは自身の名前を冠した慈善団体を所有している。ロシアの大学の学生や教員を奨学金、助成金で支援し、ロシアの博物館部門の発展を目的とした博物館プログラムを運営し、さらに慈善活動を促進している。
2017年の年次報告によると、ウラジミール・ポターニンの財団は、これらのプログラムに890万ドルを費やした。
他のプロジェクトの一つとして、ポターニンは、サンクトペテルブルクの美術の殿堂「エルミタージュ美術館」を定期的に支援している。同美術館に評議会が創設されて以来、この評議会を率いており、個人的にかなりの金額を寄付している。例えば、2010年には500万ドルを寄付。
彼はまた、ビル・ゲイツとウォーレン・バフェットが始めた寄付啓蒙活動「ギビング・プレッジ」に参加しており、純資産の少なくとも半分を慈善事業に寄付することを約束した。
ゲンナジー・ティムチェンコ
ゲンナジー・ティムチェンコは、ロシアの民間投資会社「ヴォルガグループ」の創業者で所有者だ。ノヴァテク(ロシアの独立系天然ガス企業で、天然ガス生産量はガスプロムに次いでロシア2位)とシブル(大手石油化学企業) 、その他いくつかの大企業の大株主でもある。
純資産:201億ドル(ロシア版フォーブス誌)
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
2010年、ティムチェンコとその妻エレーナは、高齢者(とりわけ老人病関連のサービス)、スポーツ(とくにホッケーの振興)と文化(とくにロシア周辺の小都市と村の発展)を支援すべく、「エレーナ&ゲンナジー・ティムチェンコ慈善財団」を共同設立した。
2017年にティムチェンコ財団は、これらのプログラムに1210万ドルを投資した(年次報告)。
2014年、ティムチェンコはまた、「必要とあらば、(資産の)すべてを国または慈善団体に寄付する用意がある」と述べている。
レオニード・ミヘルソン
レオニード・ミヘルソンは、ティムチェンコのビジネスパートナー。やはりノヴァテクとシブルの大株主だ。
純資産:240億ドル(ロシア版フォーブス誌)
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
ミヘルソンは、芸術の後援に深く関わっている。 2009年に、この実業家は、V-A-C財団を設立した(財団の名は、ミヘルソンの娘ヴィクトリアの頭文字V―現代アート〈the Art of Вeing Contemporary〉のAとCからなる)。財団は、現代美術を支援し、若い芸術家やキュレーターに助成金を提供する。
2017年、V-A-C財団は、ヴェネツィアに本社「DK Zattere」を設立し、現在は多機能アートスペースとして運営されている。
ミヘルソンの財団は、イタリアのキュレーター、テレサ・イアロッチ・マヴィカが率いており、現在、別のアートスペースの創設にも取り組んでいる。これはモスクワ都心の、廃止されたソ連時代の発電所「GES-2」に位置する。
マヴィカのインタビューによると、ミヘルソンの財団は、パートナーと共にこのプロジェクトに計1億6700万ドルを費やす予定だ。
ミヘルソンはまた、孤児や家族の養育を支援する「ヴィクトリア児童基金」を共同設立した。 2017年に、この財団は、そのターゲットプログラムに53万5040ドルを支出している。
アリシェル・ウスマノフ
アリシェル・ウスマノフは2012年以来、「USMホールディングス」を率いている。これは、ロシア最大の金属・鉱業企業「メタロインヴェスト社」を含む、企業グループだ。
純資産:126億ドル(ロシア版フォーブス誌)
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
ウスマノフは、いくつかの慈善団体を率いている。そのなかにはスポーツへの財政支援(とくにフェンシング――ウスマノフ自身はかつては、フェンシングのソ連ナショナルチームの一員だった)、健康とフィットネスセンター、文化プロジェクトなどが含まれている。
ウスマノフは、美術館や公的基金にいくつかの高価な贈り物をしている。例えば、2007年に彼は、世界的チェリストだったムスティスラフ・ロストロポーヴィチとその妻である名ソプラノ、ガリーナ・ヴィシネフスカヤの美術コレクションを、1億1170万ドルを費やして買収し、それを国に譲渡している。
2019年、英サンデー・タイムズ紙は、彼の最近の芸術、科学、文化、スポーツへの寄付を1億7800万ドルと見積もった。
また、ロシア版フォーブス誌は、2017年のウスマノフの慈善財団への支出を2180万ドルと推算している。
ヴァギト・アレクペロフ
ヴァギト・アレクペロフは、ロシア石油最大手「ルクオイル」の社長で創設者の一人。この巨大企業の株式26%を保有している。
純資産:207億ドル(ロシア版フォーブス誌)。
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
2007年以来、アレクペロフは、基金「私たちの未来」を運営している。基金の目的は、「社会問題の解決に取り組む企業への支援と資金援助」。基本的には、財団は、ロシア全国の社会問題に携わる企業、団体と協力している。2018年に基金は、こうした社会的イニシアチブに910万ドルを費やした。
ミハイル・プロホロフ
ミハイル・プロホロフは、2012年のロシア大統領選で得票数3位となったことで有名。NBAのプロ・バスケットボールチーム「ブルックリン・ネッツ」のオーナーで、その株式51%を保有している。現在彼の資産は主として、さまざまな企業の資産から成り立っている。
純資産:98億ドル(ロシア版フォーブス誌)
アートおよびチャリティー関連のプロジェクト:
2004年、プロホロフがまだ「ノリリスク・ニッケル」の株式を保有していた頃、彼は自分の名を冠してファンドを立ち上げた。当初は、ノリリスク・ニッケルの本社があるノリリスク市を拠点としていたが、その後、ロシアの他の地域にも広がった。
現在、ミハイル・プロホロフ基金は、彼の姉イリーナが率いており、全国の文化施設を支援している(ブックフェア、文学賞、演劇祭など)。 現在の予算は490万ドルだ。