ロシアの酪農のジレンマ:制裁後に高級チーズを作れるようになった?

ビジネス
クセニア・ズバチェワ
 ヨーロッパ産のチーズは数年前にクレムリンの食糧制裁の対象となったので、ロシアの生産者は市場の「隙間」を埋めるために尽力してきた。 しかし、その「尽力」は、結局のところどれだけの成果を上げたのだろうか?

 ロシアの食料品店に入ると、一見、ロシア政府の制裁の影響はないかのようだ。あらゆる種類のチーズが――パルメザン、ティルジットからカマンベール、ドールにいたるまで――棚に置かれている。

 2014年にロシアは、対ロシア制裁への報復措置として、欧州の食品に制裁を発動したのだが、それ以前との唯一の違いは、現在、これらのチーズの大半がロシアで生産されていることだ。

 最近、ロシアの一社は、さらにその上を行こうとし、フランス風シェーブルチーズ(山羊乳チーズ)のロシア最大の生産者になることを目指して、フランスから1,000頭の山羊を購入した。野心的な試みではある!

 それでも、ロシア国民は、ロシア産の欧州風チーズには懐疑的だ。世論調査機関「Romir」が行った8月のアンケートでは、ロシア人の約27%がロシア産食品に批判的だった。もっとも、2015年は33%だったから、それよりはマシだが。

 こうした消費者の不信の大本の原因は何だろうか?実際に、ロシア製チーズの品質を疑うには正当な理由があるのか?ロシア・ビヨンドは、こういう疑念の根拠を調べることにした。

 

ロシア産欧州風チーズの品質はどうなのか?

 公式統計によると、今年最初の11カ月間の国内チーズ生産量は、2016年の同時期と比較して5.2%増加し、424,000トンに達した。だが、生産量こそ増加したものの、品質は低めのままであると、リペツク州マスロフカ村にある、フランスチーズの手作りメーカーのオーナー、ウラジーミル・ボレフ氏は指摘する。

 「多くのチーズ生産者は、天然の牛乳をほとんど使用せず、そのかわりに、ベラルーシ産の粉ミルクやベトナム産のパーム油に水を大量に混ぜている。今日、市場に出ているもののほとんどは冗談レベルだ」。ボレフ氏はロシア・ビヨンドにこう語った。

 ロシア政府農業委員会の分析グループを率いるイワン・ルバノフ氏も、これに同意する。氏によれば、進歩したのは、プレミアムクラスの手作り生産者が現れた点だけだという。しかも、そのような製品は非常に高価で、1㎏当たり2000~3000ルーブル(約4000~6000円)はする。

 ロシアではヤギの乳は、1リットルあたり約60ルーブル(約120円)する。そして、ヤギチーズ1㎏作るには、乳が12~15リットル必要だ。このことを覚えておけば、偽物を見つけやすくなる。ナチュラルチーズは1㎏あたり900ルーブル以上はするからだ。しかもこれは、輸送やマーケティングの費用を考慮しないでの話だ。

 

問題の根源は何か?

 問題の鍵は、加工技術ではなく、むしろ質の高い牛乳が不足していること、そして生産者が長い間スポイルされてきたことだと、ルバノフ氏は語る。「どんな代物を生産しても市場に出すことができる」と彼は説明する。「制裁は、まともに競争する機会を著しく狭めてしまった。かつて市場は欧州製品でいっぱいだったから」

 「カブシュ・チーズ」社のドミトリー・マトヴェーエフ社長も、ロシア版「フォーブス」誌のコラムで、農家には高品質の製品を生産する意欲がないため、ミルクも不足していると指摘している。だから、例えば、優良チーズの品質証明書を責任ある企業に与えるなど、生産者を動機づけする必要があるという。

 「今日、農家は、高品質の製品を市場に投入しようとチャレンジしてはいない。国も、より良い品質に向けての刺激を与えていない」と、マトヴェーエフ氏は言い切る。

 もっとも一定数の手作りメーカーは、自前の牛乳や近隣の農場のそれを使ってナチュラルチーズを生産してはいるが、その数は全国で約70にすぎない。

 「私たちのチーズは手作りで、生産量は限られているから、市場全体の需要を満たすことはできない。だが、フランスの例に倣えば、小規模農場を発展させ、その数を増やし、国の需要を満たすこともできるだろう」。ボレフ氏はこう述べる。

 また、高価な商品を買う余裕のない人に、いかに優良品を提供するかという問題もあると、氏は付け加える。

 「高品質の製品が需要を十分に満たすことができないため、品不足の問題はニセモノでしか解決できないことになる。また当局も、低品質の製品を作っている大手酪農企業を管理するほうが簡単だと認識している。小規模農場は、監督して税金を徴収するのがもっと難しいから」


ロシアで高級チーズを見つけるには?

 こういった数々の問題にもかかわらず、ロシア産の最高級ヨーロピアン・チーズは、欧州の標準と技術にすべて準拠している。そうしたチーズは、モスクワその他の都市の農家市場で見つけることができる。 

 「ラフカ・ラフカ」(LavkaLavka)、「ポリャンカ農場」(Ferma na Polyanke)、「二人姉妹」は、最近現れた有機栽培食料品店のほんの数例にすぎない。そこでは、チーズだけでなく、他の自然食品も売っている。なるほど、地元のショッピングセンターなんかよりは高いが、でも、もっとナチュラルでヘルシーだ!