ロシア経済のこれまでの危機と比べ、今回は国民が急速に貧しくなっている。昨年度、国民が購入した商品の規模(家計最終消費支出)は10%減少した。最近の大変な危機では、1998年で5%減、リーマンショック後の2009年で4%減であった。
国民のふところが冷えている理由はこんなところにもある。企業は収益を拡大するために、給与を意図的に減らしている。2015年の名目賃金は4.6%増だったが、企業収益は49%増であった。従業員の権利を守る効果的な労働組合がロシアにないことが、問題の一要因である。
ロシアは2014年、市場がルーブルのレートを決める変動相場制に移行した。その後、ルーブルは原油価格と連動しながら、対米ドルと対ユーロで60%安になった。変動相場制は1ヶ月で20%もの急騰、急落を可能にした。可能な為替レートの変動は、ロシアのすべての契約額に影響をおよぼす。
経済学者の試算によると、不安定なレートが年間7%のインフレを招いているという。ちなみに、昨年度のロシアのインフレは15.5%であった。このような状況において、設備導入を含めた、銀行融資の金利は、15~20%以下にはならない。つまり、企業には新たな設備の導入および増産の資金がないということになる。これは別の大きな問題である。
ロシアの昨年度のGDPおよびさまざまな工業水準は、2008~2009年の危機と比較すると、それほど低減していない。例えば、GDPは当時の7.9%減に対し、3.7%減、建設規模は当時の16%減に対し、7%減である。
経済学者によると、今後の経済成長を定める指標、何よりも投資規模が大きく落ち込んでいることが問題なのだという。固定資産投資は8%減、海外からの設備輸入は実に38%減であった。その結果、欧米では設備が平均7年稼働であるのに対し、ロシアでは平均14年稼働になっている。約20%の工作機械が耐用年数を超えており、いつでも廃棄可能な状態である。
国内の裕福な発注者である石油・ガス会社でさえ、投資計画の削減を行っている。原油価格1バレルあたり35ドルで、石油会社の投資額は20%減少し得る。天然ガス独占企業「ガスプロム」は、ロシアから中国へ天然ガスを輸出するパイプライン「シベリアの力」への投資を遅らせる可能性がある。
政治宣言にもかかわらず、中国からのロシア市場への投資は行われていない。それどころか、中国の投資家の一部は、ロシアから資金を引きあげている。中国の政府系投資ファンド「中国投資有限責任公司」の子会社「成棟投資有限責任公司」は4日、モスクワ証券取引所で保有株式を売却することを決定した。
「ユーラシア開発銀行」のデータによると、ロシア経済への累積直接投資額でアジアのトップに立っているのは日本(144億ドル≒1兆6560億円)である。
ロシアの経済学者は、西側の資本市場から資金が流入する可能性の方が高いと考えている。ヨーロッパの多くの国では、マイナス金利が導入されている。これは、国内では金銭にほとんど価値がなく、投資家が海外でのプロジェクト探しを余儀なくされることを意味している。
*本記事は「フォリナーズ・ライフ」会議の出席者の資料すなわちアカデミー会員アベル・アガンベギャン氏、中央銀行の元副総裁コンスタンチン・コリシチェンコ氏、国内の主要な開発機関である「対外経済活動発展銀行」マクロ経済予測部の部長オレグ・ザソフ氏のレポートにもとづいて書かれている。
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