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ロシア政府は、市場で活用されるはずだった年金の積立部分を凍結する決定を行った。連邦労働省は、資金が現在の年金支払いに割り当てられると説明。人口問題によって、現在の就労者の控除分ではすべての年金生活者を補えない。
2003年から年金は新しいシステムにもとづいて計算されている。このシステムはロシア連邦市民の将来の年金額に影響を及ぼす。ロシア人には年金積立金の一部を運用できるチャンスがあらわれた。雇い主は給与の22%を年金基金として控除している。うち16%は年金の保険部分と現在の年金支払いに、6%は投資可能な積立部分に割り当てられる。(インフォグラフィック参照)
「2014年と2015年、積立部分は割り当てに向けられる。これは雇い主が年金基金向けとして徴収する額のすべてが、現在の年金生活者への支払いに割り当てられるということ」と、今回の決定を主導した連邦労働省は説明する。企業グループ「アロル」の経済学者セルゲイ・ヘスタノフ社長によると、年金基金の不足は人口減少によって起こっているという。
20~30年前には年金生活者1人を6人の就労者で支えていたが、現在は少子高齢化により、2人以下で支えている。この就労者からの控除額では、現在の必要年金額を満たすことができない。
初めて年金の積立部分が凍結されたのは昨年下半期。その結果、5500億ルーブル(約1兆6500億円)が、非国家年金基金や対外経済活動発展銀行(VEB)にまわらなかった。
ロシアの投資会社「パラダ・アセット・マネジメント」のアレクサンドル・バラノフ副社長はこう話す。「銀行部門と企業は5500億ルーブルが市場にないことをすでに実感している。金銭の”価格”が上昇し、国内リファイナンスが高くなった」。これはルーブルの通貨切り下げと外貨のレート上昇を招いた。
融資を完全に受けられなかった銀行の困難は、国民もすでに感じていた。昨年末の法人向けの最低利息は8%からだったが、今年は2%増の10%からとなった。外国人投資家の流出により、今年は状況に拍車がかかっているという。
インフォグラフィック提供:ナタリア・ミハイレンコ
年金積立金の投資の構図
年金積立金の投資の構図とは、資金が運用会社を通じてロシアの大手企業の株式、国債、企業債に投資され、また大手銀行に預け入れられるもの。
国営運用会社、非国家年金基金の役割を果たしているVEBもその一つ。
VEBには今年初め、年金積立金が1兆ルーブル(約3兆円)ほどあった。他に1兆1000億ルーブル(約3兆3000億円)が非国家年金基金にあった。この2つの主な違いは配分案である。VEBは収益率は低くとも、もっとも信頼できるところに投資しているが、非国家年金基金はそれほど信頼性の高くないところに投資している。(インフォグラフィック参照)
「非国家年金基金は国営運用会社とは異なり、大きなリスク、大きな収益を選ぶことができる」とバラノフ副最高責任者。2009年から2013年までに、非国家年金基金の年金資産運用による収入は、VEBの約2倍だった。非国家年金基金が投資している会社は、ロシアの水力発電会社「ルスギドロ」、ロシアの国営ナノテクノロジー・投資会社「ロスナノ」、携帯電話小売網「エヴロセチ」および「スヴャズノイ」。
GDPの約1%分の投資が消える
政府は現在、積立金の凍結期間を延長しようとしている。そうなれば、今年度分も凍結されることになり、金融市場には6500~7000億ルーブル(約1兆9500億~2兆1000億円)の投資が入らないことになる。これはロシアのGDPの約1%だ。
「これによって来年の銀行、企業、財務省、連邦構成主体からの借り入れやリファイナンスが高額になる。どれほどの穴埋めが必要かを現時点で試算するのは難しいが、失った額、つまり7000億ルーブルかもしくはそれ以上に匹敵する可能性がある」とバラノフ副社長。
積立金凍結は、世界の他の国でも行われている。例えば、2011年、ハンガリーが積立制度をやめた。2010~2011年にはエストニアで一部積立部分への支払いが行われなかった他、スロバキアでは積立支払いが9%から4%に減少した。任意積立プログラムは普及しており、雇用者と従業員が独自に年金を積み立てている。
連邦労働省は、ロシアNOWの取材に対し、決定の際に世界の例を参考にしたことを伝えた。また、非国家年金基金はそれほど効率的なツールではなく、投資収入は平均してインフレより低かったことが判明したという。今後は積立部分を任意にする計画だ。
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