タス通信撮影
運行停止
「欧州のカウンターパートからの前代未聞の圧力を受け、ドブロリョート社は航空機の運行と航空券の販売を停止することを余儀なくされた」。親会社「アエロフロート」のプレスリリースにはこのように述べられている。同社の説明によると、欧州のカウンターパートらは、航空機のリースを中断し、技術的サポートと保険の面での協力も停止した。
事の発端は、ドブロリョートが、「ロシアのクリミア併合を容易にした」かどで、EUの制裁リストに加えられたこと。同社は今年6月に、クリミア自治共和国の首都シンフェロポリへの運行を開始している。ドブロリョートが制裁の対象になったことで、欧州の企業は、同社とのビジネスを禁止され、保有する株式は凍結された。
ロシアの経済紙「コメルサント」のもつ情報によれば、主な「躓きの石」になったのは、アイルランドの「SMBCアビエーション・キャピタル」社がボーイング737-800NG機のリース契約履行を拒否したこと。現時点でドブロリョートは、航空機2機を入手しているが、年末までに8機まで増やすはずで、来年にはさらに8機を買い足す予定だった。
このほか、ドイツの航空機メンテナンス会社「ルフトハンザ・テクニック」は、技術的サポートを断ってきた。
LCC「ドブロリョート」とは
ロシアの航空大手「アエロフロート」は昨年10月に、LCC「ドブロリョート」の創設を発表。今年6月に運行を開始した。クリミア行きの航空券は、国家の補助金を支出したこともあり、特に格安に設定され、最低約3千円から1万円まで。
以前、ドブロリョート広報部がロシアNOWに語ったところでは、8月中に、同社は二つの路線を追加する予定だった。モスクワ―ボルゴグラード(970km)とモスクワ―ペルミ(1442km)だ。同社は8月初めまでに約6万5千人の乗客を運んでいる。
ドブロリョートの営業中止による親会社アエロフロートの損失は今のところ不明だが、ロシアの銀行最大手「ズベルバンク(ロシア貯蓄銀行)」のアナリストのデータによると、アエロフロートは今年3月までに、投資予定総額1億ドルのうち、2千万ドルを支出している。しかし、航空機はアエロフロートに登録されているので、それを自分の保有とすることができるという。
主な影響は
現在のところ、クリミアに飛んでいるのは、ドブロリョートだけではなく、アエロフロート、トランスアエロ、S7、ウラル航空、レッド・ウィングス航空などの大手を含む、他の航空会社も定期便を運行している。
ロシアNOWの筋によると、ロシア政府は、ドブロリョート以外の航空会社も制裁リストに加えられることを懸念している。また、経済紙「ベドモスチ」によると、欧州の航空会社が欧州発、アジア行きの便をロシア領内でトランジットさせることを、一部制限するか全面禁止にすることも、あり得るという。もっとも、露政府は、公式にはこれを打ち消している。
ロシアの航空市場としては、ドブロリョートは3件目のLCC創設の試みだった。最初に「スカイ・エクスプレス」(6年営業)、次に「アヴィアノヴァ」(3年営業)が立ち上げられたが、いずれも2011年に倒産している。しかし前二者の失敗は、専ら経済的要因によるものだった。
投資会社「ルス・インベスト」のドミトリー・ベデンコフ分析部長によると、ロシアに競争力をもつLCCを創れる見通しは、一概には言えないという。一方から見れば、ロシア市場は非常な「集中度」で際立っており、アエロフロート、トランスアエロ、S7のビッグ3が、市場の約70パーセントを占めている。だがその一方で、国際線の3割は、外国の航空会社が担っている。
「国際線のチャーター便の割合は、2007年に30%だったのが、昨年には25%まで落ちてきている。これは、大手航空会社の柔軟な価格設定が反映されたものだ」。こうベデンコフ氏は指摘する。言い換えれば、航空会社が値引きしたということだ。
ちなみに、「フィナム・マネジメント」社の主任研究員ドミトリー・バラノフ氏によれば、ドブロリョートの営業停止の原因は、経済的なものではなく、政治的なものにすぎない。「ここにはいかなる経済もない…。ということは、ロシアにおけるLCCへの影響はないということだ。ドブロリョートも、しばしの中断をはさんで、営業を再開できる可能性が十分ある」。こうバラノフ氏は語った。
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