シーメンスの高速鉄道提携に不安

写真提供:ロシア鉄道

写真提供:ロシア鉄道

ドイツの複合企業「シーメンス」のヨゼフ・ケザー最高経営責任者は、ウクライナ情勢を起因とした欧州連合(EU)とアメリカの対ロシア制裁すべてを、実施すると約束した。同社はロシアの高速鉄道建設の主な提携先。ヨーロッパ大手との提携が解消された場合に、中国または日本の企業が名乗りでなければ、最悪のシナリオとして、ロシアでの高速鉄道構想はとん挫する。

最高責任者の約束

 ケザー最高経営責任者の4月下旬の声明によれば、シーメンスはロシアの会社や政治家らへのすべての制裁を、厳格に実施するという。制限を徐々に実行していくことを約束したが、シーメンスが制裁の結果被る損失額については、発言を控えている。

 ケザー最高経営責任者は3月、プーチン大統領と会談していた。会談後には、政治問題にかかわらず、同社がロシアへの投資を続けていくことを宣言。シーメンスは2011年以降、ロシア経済に8億ユーロ(約1100億円)を投じた。「当社はこの投資を今後も続ける。特に投資分野での長期的協力を重視する」と述べていた。

 シーメンスは現在、「ロシア鉄道」の高速鉄道建設の主な提携先である。特に、シーメンスの車両「デジロ」をもとに新型電車「ラストチカ(つばめ)」が製造されており、2020年までにこのような電車が1200両製造される予定。2018年ロシアW杯の際、ロシア西部でサポーターの輸送役を担うのが、この電車だ。これ以外にも、モスクワ地下鉄への新型車両納入に関与している。ロシア、ベラルーシ、中央アジアの旧ソ連諸国における、シーメンスの2013年度の受注額(2013年9月30日現在)は、総額24億ユーロ(約3300億円)。

 

競合のアルストム

 ロシア市場でのシーメンスの主な競合企業は、フランスの鉄道車両・重電企業「アルストム」。アルストムも対ロシア制裁で、困難な状況に置かれる可能性がある。アメリカの複合企業「ゼネラル・エレクトリック(GE)」は現在、アルストムの買収に関する交渉を行っているが、その代替買収者となるのがシーメンスだ。アルストムは現在、ロシア最大の旅客車両・機関車製造会社「トランスマシュホールディング」の株式25%を保有しており、原子力発電所用の複合タービン・アイランドも製造している。アルストム・ロシア法人のフィリップ・ペゴリエ社長は、「ヨーロッパの経済界は密かに制裁に反対している」と、ロシアの「タス通信」に述べており、シベリア鉄道およびバイカル・アムール鉄道の改修事業への参加も計画している。だがGEやシーメンスが買収した場合は、同社の姿勢が変わる可能性がある。

 

シーメンスの慎重な反応

 シーメンスは今のところ、ロシア企業とのいかなる提携解消も行っていない。同社のロシアの提携先である複合企業「ルースキエ・マシヌィ」広報部の情報によると、モスクワ地下鉄用の最新式車両共同納入事業は続いているという。政治情勢に起因する変更は行われていないと、ロシアNOWの取材に対して説明している。

 シーメンスのロシア事務所も、ロシア関連事業の変更については否定している。「当社はロシアの発注主に対するすべての事業・契約義務を履行する。これらは今のところ、経済制裁や禁輸措置などで制限されていない」

 ロシアの投資会社「UFS」の主任アナリスト、アレクセイ・コズロフ氏は、シーメンスとロシアの提携は古く、これほどの大きな市場を失いたいとは思わないだろうと話す。「シーメンスの発表は、順法宣言ととらえるべきではないか。予告を行ったから、ロシア側との接触を維持した際に、反政府的行動として批判対象になりにくい」

 

高速鉄道事業で実績豊富な日本と中国

 ロシアにとって困難な問題が生じるとすれば、シーメンスとアルストムが結局高速鉄道整備を拒んでしまう場合。現在、モスクワ-サンクトペテルブルク間の高速鉄道はシーメンス、サンクトペテルブルク-ヘルシンキ間の鉄道はアルストムの担当だ。つまり、ヨーロッパの業者が主要な高速ルートを握っているということになる。

 このような提携関係が解消された場合、両社との提携によってすでに建設済みのルートで、サービスを行う用意のある新たな業者を、ロシア鉄道が探さなくてはいけなくなる。最初に候補としてあがるのが、中国と日本の会社だ。「シーメンスの代わりとなる、他の高速鉄道の納入業者を見つけるのに、時間はそれほどかからない。中国と日本などのアジアの国は、この分野で実績があるし、専門知識も持っている」と、ロシア連邦大統領府付属経済・行政アカデミーの講師で経済専門家のウラジスラフ・ギンコ氏は話す。ただし、シーメンスはこのような決定を行わないとギンコ氏は予測する。もっとも有望な市場のひとつを失うことを意味するからだ。