AP通信撮影
複雑な構図
ウクライナ・エネルギー・石炭産業省の発表によると、ウクライナは今年、ロシア産ガスを150億立法メートル輸入すれば足りる。これ以外に350億立法メートルをヨーロッパから逆輸入しようという考えだ。このプロジェクトを始めたのはビクトル・ヤヌコビッチ元大統領。ウクライナは2012年、ドイツのエネルギー大手「RWE」と契約を結び、ポーランド経由でガスを逆輸入し、昨年はハンガリー経由でも逆輸入している。このガスの価格は1000立法メートルあたり平均390ドル(約3万9000円)だから、割り引きが適用されていた時のガスプロムの価格より100ドル(約1万円)高い。
ウクライナの国営ガス会社「ナフトガス」とRWEの契約は、ガスの価格と輸入量を決める月々の追加契約を定めていたが、価格は事実上、ヨーロッパのガス取引所の価格に連動していた。この契約で逆輸入されたガスは、最大で60億立法メートルの逆輸入が可能なところ、20億立法メートルだった。だが、ロシア産ガスの価格上昇によって、ガスプロムから直接購入するよりも、ヨーロッパから購入する方が安くなってしまった。現状でウクライナ政府が期待しているのはスロバキアで、年間300億立法メートルを逆輸入することができる(ウクライナ・エネルギー・石炭産業省の試算)。
技術的な問題点
技術的にこれは可能だ。ロシアのUFS投資会社の主任アナリストであるイリヤ・バラキレフ氏はこう話す。「逆輸入しようとしているウクライナには、自国の余剰ガスがあるはず。ガスプロムがテイク・オア・ペイ契約を結んでいるため、多くの国に余剰がある」この契約では、買い手がどれだけの量のガスを購入したかにかかわらず、供給の一部を必ず支払う。その結果、買い手には余剰が生じるのだ。余剰はスロバキアにもある。
しかしながらスロバキア政府には、物理的な逆輸出の手段がない。ロシアの投資会社「フィナム・マネジメント」の上級専門家であるドミトリー・バラノフ氏はこう話す。「スロバキアには逆輸出できるような追加的なガスパイプラインがない。既存のパイプラインは、ガスプロムとスロバキアのEustream社の間で数年前に結ばれた契約にもとづいて、ロシアのガスで満たされている」
つまり、逆輸入は”仮想”の話かもしれない。ロシア経済・国家行政アカデミー国家規制講座のイワン・カピトノフ助教授が、ロシアNOWに語ったところによると、ガス計測ステーションでは一定量のガスがヨーロッパに供給されているように見えても、実際はガスがそれより前にパイプを満たしているという。「このように、技術的には逆輸入ではなく、ウクライナがロシアのパイプからガスを入手するということである」ガスプロムは法律上、このガスの通過に支払いを行わなくても良いが、ウクライナはこの収入を失うことを希望しておらず、構図をあくまでも逆輸入としている。
ガスプロムの“拒否権”
スロバキアからウクライナへのガスの逆輸出は、ヤヌコビッチ大統領の意向によって2013年11月に予定されていたものの、ガスプロムは当時、この決定を阻止していた。ガスプロムの立場はこの時から変わっていない。
アレクセイ・ミレル社長は4月、ロシアのテレビ局「ロシア24」のインタビューで、ウクライナへの逆輸出の合法性に疑問を示していた。バラキレフ氏によると、ガスプロムにとってより有効な手段とは、テイク・オア・ペイの停止と、スロバキアへの割り引き適用だという。これにより、逆輸出がスロバキアにとって経済的に適切でなくなる。
Eustream社はすでに、ガスプロムの承諾なしにウクライナへ逆輸出するのは不可能だと伝えている。スロバキアのミロスラフ・ライチャク副首相兼外相も、ウクライナの新聞「ジェロ」のインタビューの中で、このように話していた。Eustream社の関係筋はロイター通信に、4本のロシア産ガス用パイプラインで逆輸出することはガスプロムとの契約条件に違反すると話し、これが欧州委員会と話し合った結果であって、逆輸出には輸送インフラ整備が必要になると説明した。逆輸出用の新たなパイプラインの建設が決まる可能性もある。Eustream社には、逆輸出用パイプラインの建設に投資を行う用意があるが、これには2000万ユーロ(約28億円)が必要で、ウクライナにはその資金がない。スロバキアが資金を支払うには、ウクライナがガスの逆輸入を保証しなければならない。
これ以外の主なリスクは、ウクライナが逆輸入されたガスに対して支払う資金を持っていないことである。ガスプロムによると、ナフトガスの天然ガスの未払い額は、4月3日の時点で22億ドル(約2200億円)である。
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