モスクワの初雪で838人が救護所に
除雪ロボットのアイデアを思いついたのは、ペルミ工科大学の大学院生、オレグ・キヴォクルツェフ氏。「非公式な統計データだけど、初雪が降った日にモスクワだけでも838人が救護所に行ったと知って、ゾッとした。通りで1日2回以上除雪が行われることなんてめったにない。大雪の日にこれでは足りない」。キヴォクルツェフ氏は「OMIロボティクス(OMI-Robotics)」社を創設し、「OMIプロウ(OMI-Plow)」という名称のロボットのコンセプトを考えた。
友だちである設計士のイーゴリ・エレメエフ氏およびエンジニアのマクシム・ウテエフ氏と、3月に最初の試作機を製作した。「あれは日曜大工だった。洋服ダンスの部品を組み立て、中にパワーウィンドウのモーターを装着して、普通の黒のスプレー塗料で色をつけた」とエレメエフ氏。
5分間に約30平方メートル除雪
開発者たちは、この試作機に改善が必要だということを理解していた。クラスノカムスク修理・機械工場の幹部と話し合い、その1ラインでロボットを無料で組み立てることを許可してもらった。そしてより強力な無限軌道、5時間の充電で8時間稼働するバッテリーが装備された、改善版OMIプロウが5月に完成。
OMIプロウはバケットを使い、特別に指示された場所で5分間に約30平方メートルを除雪する。高さ60センチメートルのこのロボットが対応できる積雪量は最大10センチメートル。バッテリーの残量が少ない時、除雪が終わった時に、SNSで持ち主に連絡が入る。ジョイスティックまたはキーボード(Wi- Fi経由)を使った手動操作と、一度コースを走らせて除雪スポットを覚えさせる自動操作の2種類がある。パソコンにインストールされたソフトウェアで、作業場から送られる映像を受信し、無限軌道とバケットを操作する信号をロボットに送信することが可能。ソフトウェアは無限軌道を動かすホイールの旋回回数を 数え、コースを記憶する。
今夏までにOMIプロウにインテリジェント制御システムを内蔵して、除雪が必要か否かを自己判断できるようにし、さらに気温と積雪量を測定するための気象センサーを装着する。
OMIロボティクス社の除雪ロボット=ビデオ提供:YouTube
お値段は20数万円
小売価格は7万5000~9万ルーブル(約22万5000~27万円)。ちなみにアメリカの類似品のミニ・ブルドーザー「ロボプロウ(Roboplow)」は、32万ルーブル(約96万円)。こちらはショベル付きでコンピュータ制御可能だが、タイヤの構造によって通過性がより低 い。
OMIロボティクス社は、ロボット市場に参入しているディーラー網を通じて販売を行う予定。だが動画サイト「ユーチューブ」でこのロボットを見たチェコ人が、すでに最初の顧客となっている。購入後にキヴォクルツェフ氏に連絡を取り、ゴミを拾う遠隔操縦アームの装備を依頼。これにより、OMIロボティクスをさまざまな付属品の装備が可能な基本プラットフォームにすることが決まった。新しいオプション1種類につき3~5万ルーブル(約9~15万円)。
将来の課題は高度な自律作業
OMIロボティクス社はすでに、潜在的なディーラー30社と仮契約している。また、自社のウェブサイトでも事前注文を受けつける予定。75台の試験ロットを12月にも販売したいと考えている。公共サービスや商業施設の所有者にも提案しながら、来冬までに顧客基盤を拡大していく。
開発費用には約50万ルーブル(約150万円)かかった。一部は地方大会で優勝して獲得した補助金でまかなわれている。だが量産やインターネットでの販 売促進には、少なくとも150万ルーブル(約450万円)の投資が必要だ。OMIロボティクス社は9月、ロシア新興企業格付けで、最高の投資価値 (AAA)と評価された。
ゼレノグラード技術移転センターのオレグ・バスコフ所長はこう考える。「今のところ紹介されているのは、遠隔操作可能な大きなおもちゃ。ナビゲーションと人工視覚を備えたインテリジェント・システムがなければ、自律作業は無理。この課題の難易度は高い。これらの技術は数十年、数億ドルを要するから、この 課題の困難さを理解し、その解決法を見い出すまでの道のりは長い」