ロシアの「ウラルカリー」社のカリウム鉱山の一つ=ロイター通信撮影
これまでの流れ
ロシアの肥料用炭酸カリウム生産会社「ウラルカリー」は、ソ連の国営企業で、1992年に民営化。ベラルーシの肥料用炭酸カリウム生産会社「ベラルーシカリー」は、同じくソ連の国営企業で、1990年代の民営化を拒み、ベラルーシ政府の支援を選択。両社とも世界最大級のカリウム生産会社である。両社は2005年までほぼ同量のカリウムを採掘、販売していたが、同年に合弁会社「ベラルーシ・カリー会社」(BKK)を設立し、ここを通じて肥料を海外に販売 するようになった。これにより、世界市場の45%弱を支配し、カナダの競合「カンポテックス」と効率的に競うことができた。
「ウラルカリー」の大口株主は、ロシアの億万長者であるスレイマン・ケリモフ氏。最高経営責任者はウラジスラフ・バウムゲルテル氏。「ベラルーシカリー」の株式は、100%ベラルーシ政府が保有。
ケリモフ氏を代表とするロシア側は2011年、「ベラルーシカリー」の株式を取得し、経営権を握ろうとしたが、価格面で折り合わず、交渉は決裂した。ベラルーシにとって、「ベラルーシカリー」は最高額の資産である。肥料の原料(シルビナイト)以外、ベラルーシには自国の有用鉱物がない。
昨年末、内部の意見の相違は対立に発展。まず、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の指示で、「ベラルーシカリー」はBKKを通さずに、独自にカリウムを輸出し始めた。「ウラルカリー」は今夏、対抗措置として同じことを実施。「ベラルーシカリー」との合弁を解消し、BKKを通じた共同輸出を 拒否した。
この対立は、バウムゲルテル最高経営責任者の逮捕を招いた。ミンスクに交渉に訪れたバウムゲルテル氏は8月26日、職権乱用ならびにベラルーシのパートナーに1億ドル(約100億円)の損害を与えたとして、拘束された。大口株主のケリモフ氏にも同様の容疑がかけられた。
市場が混乱
この騒動によって、炭酸カリウム市場では価格下落が起こり、1トンあたりの価格が7月に400ドル(約4万円)だったのが、11月には305~310ドル(約3万500~3万1000円)まで下がった。ロシアの外国為替取引会社「アリパリ」分析部のダリヤ・ジェランノワ副部長によると、バウムゲルテル氏の拘束が200億ドル(約2兆円)の市場を混乱させたという。
バウムゲルテル氏には、モスクワに戻る代わりに「ウラルカリー」の所有者を変えるという交換条件が、ベラルーシからつきつけられた。ケリモフ氏の出資比率(21.75%)に興味を示したのは、ロシアでもっとも大きな投資基金の一つ「統合輸出入(ONEKSIM)」。オリガルヒで政治家のミハイル・プロホロフ氏の基金だ。取引額は不明だが、ジェランノワ副部長の推測では、時価総額200億ドルから計算されるという。
ルカシェンコの誤算?
ロシアの投資会社「ツェリフ・キャピタル・マネージメント」の上級アナリスト、オレグ・ドゥシン氏は、バウムゲルテル氏が戻って来たことで状況は改善し、ベラルーシからの直接的な脅しは止むという。しかしながら、これはベラルーシが勝利して、ロシアが負けたということではない。ロシアは「ベラルーシカリー」をほしがっているため、手に入らないうちはこの問題が終わらない、と考えるのは、全国エネルギー安全基金のコンスタンチン・シモノフ理事。「バウムゲルテル氏は拘置所に入れられるようだ。そして後に解放される。だがこの問題は始まったばかり」とロシアNOWに話した。
シモノフ理事によると、ルカシェンコには誤算があったという。ケリモフ氏には借金があったが、代わりのプロホロフ氏にあるのは自己資金。プロホロフ氏には自由に使える多額の資金があるため、ベラルーシにとっては非常に扱いにくい株主になる。「プロホロフはダンピング政策を続け、ルカシェンコに会社を売却させるだろう」
「ベラルーシカリー」は非常に魅力的な資産だ。「ウラルカリー」とあわせれば、世界市場の40%を握れる。新しい株主が2社を統合した場合、世界の価格を独自に設定できる、世界的かつ強力な独占企業が生まれる。
ルカシェンコは最近、2社の合弁復活を支持すると強調した。「価格が1トンあたり900ドル(約9万円)まで上昇することを夢見ているが、時すでに遅し。以前のような価格にはならない」と、ロシアの金融会社「フィボ・グループ」のアナリスト、ワシリー・ヤキムキン氏は話す。ロシアがベラルーシの主な資産をコントロールできるようになると、ルカシェンコのような人物との政治的問題の解決もよりスムーズになると、シモノフ理事は考える。
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