経済特区をフル活用

ロシア政府がアジア・太平洋へのゲートウエーと位置付ける極東のウラジオストク港。西側企業の誘致にも熱が入る =Photoxpress撮影

ロシア政府がアジア・太平洋へのゲートウエーと位置付ける極東のウラジオストク港。西側企業の誘致にも熱が入る =Photoxpress撮影

ロシア政府は、自国のビジネス環境のイメージ向上のため世界経済フォーラム「ダボス会議」で、ロシア直接投資基金が「ロシアに投資しよう」キャンペーンを始めると明らかにした。また、世界の主要投資銀行の支援も仰ぐ計画で、最初のコンサルタントとしてゴールドマン・サックスを選んだ。この投資銀行が向こう3年間、ロシアのイメージアップに手を貸す。コンサルタントの優先課題の一つは、経済特区の創設を加速していくことだ。ロシアでの経済特区設置は遅きに失した感があるとはいえ、経済効果は証明済みだ。

米国は10億㌦投資

  ロシアに現在のような形態の経済特区が設置されたのは2005年のことで、既に21カ国から57の外国企業が特区に参加している。

 この中でも日本は非常に積極的に進出している。「ヨコハマタイヤ」のブランドで知られる横浜ゴムは2009年に進出し、計画的に現地生産を拡大している。昨年はサマラ州の経済特区トリヤッチに豊田通商、アツミテック、三桜工業、ハイレックスが相次いで進出した。ハイレックスは13億5000万㍔投資する予定だ。米国も日本に負けず劣らず積極的だ。昨年は大企業6社が経済特区に加わった。

 ゼネラル・モーターズは1億8000万㌦、化学・電気素材メーカー「3M」社は3000億㌦、ゼネコン「アームストロング」社は7540万㌦をそれぞれ投資した。2005年以来、米国の経済特区への投資総額は約10億㌦に上っている。

インフォグラフィック

ロシアの経済特区

「現地生産をロシアで行うか、東欧のどこかで行うかは、わが社にとって難しい選択でした。結局、昨年12月から、タタールスタン共和国の経済特区アラブガに参加しました」こう語るのは、3M社のアレクセイ・ザバレフ法務部長だ。「選択の決め手になったのは優遇措置だけでなく、経済特区の幹部から得た印象も手伝っていました。ロシアの官僚の新しいタイプで、英語は堪能だし、ビジネスのやり方もよく理解しています」とはいえ、税制の優遇措置だけでも、アラブガを選ぶ十分な決め手になったにちがいない。

 なぜなら、3M社が利潤を得るようになってから、向こう5年間は法人税はたったの2%だからだ。通常は20%なので、わずか10分の1ですむのだ。
さらに、300万ユーロ投資すれば付加価値税もゼロ。ここに持ち込んだ機械、設備にも関税がかからない。

 そのおかげで、デンマークのロックウール社は、既に1260万㌦を節約できた。電気の接続料も無料だ。モスクワでは1メガワットにつき100万㌦かかる。アラブガのほか16の経済特区が運営会社「OEZ」と国家の管轄下にあるが、成長の度合いはさまざまだ。

 

「工業」など4タイプ

 経済特区の発展の速さは地元の政府がどんな条件を設定し、どんな対応をするかに左右される。この7年間でロシアの経済特区は、36億㌦の外国投資を集めることができた。現行の経済特区は四つのタイプに分かれる。①工業・生産型、②観光・レクリエーション型、③港湾型、④技術導入型の四つだ。ロシア会計検査院の統計によると、この最後のタイプでの特許の数は350にのぼる。参加企業にはボーイング社やアップル社のような世界的レベルの企業が含まれている。 

 

ハイテクに限らず

 当初は、経済特区に入れるのは一部の企業にすぎないとみられていた。投資家のビジネスプロジェクトでは「ロシア経済を新技術で豊かにし、ロシアの労働者の技能と競争力を高めるものでなければならない」とうたわれており、ロシアにとって「死活問題となる重要性をもつ」と認められたプロジェクトが優先されたからだ。つまり、当局はハイテク企業のみを優遇する意向だった。

 しかし、最も成功している経済特区アラブガでは、ガラス工場やサラダなど野菜を生産もしくは加工する工場なども活動している。それらの野菜の一部はマクドナルドに納入されている。

 

特区の登録手続き

  経済特区を運営する国営会社「OEZ」のオレグ・コスチン前社長(今年3月、同社カリーニングラード支社長であったミハイル・トゥルシコ氏が社長に就任)によると、経済特区の登録手続きは次のようになる。

 まず登録申請書類をOEZ社の監視委員会が検討し、仮採用されれば、経済発展省の専門家委員会で最終的な採否が決められる。その後で、投資家と経済発展省とOEZ社が3者協定を結ぶ。

 とはいえ、ロシアの投資環境改善のコンセプトをみれば、手続きは時とともに簡素化されていくだろう。 

 昨年5月のプーチン大統領の指示に従えば、ロシアは世界銀行と国際金融公社(IFC)が発表したビジネス環境番付で、2020年までに現在の112位からトップ20に入らなければならない。最近2年間で順位を12位上げたことからすれば、この目標をクリアすることは不可能ではないはずだ。

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