ロシア 支払いカード化へ

写真提供:StockMonkeys.com/flickr.com

写真提供:StockMonkeys.com/flickr.com

2015年よりロシアでは、30万ルーブル(約90万円)以上の現金による決済を禁止する可能性がある。これが実現すれば、銀行の運用資金額は増えるが、中流の懐に打撃を与えると予想される。

 ロシア政府はこの方法で一石二鳥を狙うつもりだ。国民のグレー所得を合法的な領域に引っ張り出し、銀行の運用資金を増やす。政府は近日中にその法案を議会へ提出する。

 現金支払の制限は2段階にわたって行われる見込みで、2014年から約180万円以上の現金支払が禁止され、2015年にはさらに90万円まで下げる。

 このほか、給料は、現金手渡しではなく、カードに振り込まれることになる。従業員数35名以下の中小企業(商業施設は20名以下)については、例外として現金での給料支給が認められる。

 

根付かないカード 

 ロシア最初のカード「Diners Club」は、社会主義時代の1969年に登場したが、外国人や、外国通貨を持って帰国したソ連国民向けの一部の店でしか使えなかった。

 社会主義体制が崩壊し、市場改革が始まると、個人向けカード(STBカード、Unionカード)を作ろうとしたが、1998年の金融危機によってカードの意義は薄れた。それにもともと、カードを使うのは裕福な市民だけだった。

 現在でさえ、ATMを通して行われる業務の85%が給料日後の現金引き出しだ。しかも、2005年から2011年の間に、現金の流通額は4倍に増加した。ロシア銀行によると、ロシアでは90%以上の決済が現金で行われている。

 

巨大な闇の広がり 

 政府は、闇経済を制限することで、国庫収入を増やそうと試みていると「インベスト・カフェ」のアナリストであるエカテリーナ・コンドラショワ氏は推測する。

 内務省と国家汚職防止委員会によれば、違法所得の合法化と現金化の市場規模は、35億ルーブルから70億ルーブルの間で変動する、もしくは、ロシア連邦予算の約60%に相当するという。ロシア統計局の公式統計では、闇経済はGDP(国内総生産)の15%以上に上る。

 しかし、これは“グレーな”資金であり、主に脱税や現金手渡しの給料、為替と貿易に関する法律違反などから成ると、「RIKOM-Trast」社のアナリスト、ウラジスラフ・ジュコフスキー氏は指摘する。

 この数字に、真っ黒な”部分、つまり明らかに犯罪的な活動や違法企業活動を加えると、グレーとブラック経済は、ロシアのGDPの50~60%以上になるとジュコフスキー氏はみる。

 

銀行の手数料の物価上乗せも 

 実際には政府の方針にはもう一つの面があり、現金レス化への移行で、いくつかの商品やサービスが高騰するのは避けられない。その際、第一に被害を受けるのは中流層だ。

 そうした商品、サービスには、不動産と自動車の購入があり、個人旅行などの「贅沢品」にもマイナス影響を与えそうだ。

 というのは、ロシアの銀行は、個人の金を法人へ送金する際に、手数料を平均して2~4%取る。自動車業界で言えば、銀行は送金手数料として1・8%を取るため、カード支払への移行は自動車卸販売価格へはねかえる。

 販売された自動車300台につき、カードで支払われるのは1台か2台にすぎないのは偶然ではない。

 不動産業界では、こうした手数料は巨額に膨れ上がり、中古物件の購入者が不動産屋に支払う手数料は、事実上倍増してしまう。

このウェブサイトはクッキーを使用している。詳細は こちらを クリックしてください。

クッキーを受け入れる