「アヴィアノヴァ」格安航空会社の飛行機 =タス通信撮影
失脚した大富豪ボリス・ベレゾフスキー氏が「スカイ・エクスプレス」を設立した2006年、そしてロシアの投資会社「A1」とアメリカの財団「インディゴ・パートナーズ(Indigo Partners)」が「アヴィアノヴァ」を設立した2008年の時点ですでに、ロシアでは格安航空会社がうまくいかないと言われていた。
なぜロシアでは格安航空会社がうまくいかないか
その理由はいくつかある。
第一に、ロシアには安い空港がないからだ。アメリカの空港コンサルティング会社「リー・フィッシャー(Leigh Fisher)」のデータによれば、シェレメチェボ空港は徴集額別で、世界で12番目に高い空港になっている。これはマレーシア・クアラルンプールや香港の空港の4倍だ。結局グランド・ハンドリングの費用は航空券に上乗せされ、「アエロフロート」のデータによれば約17%になる。
第二に、航空機一式の維持とそのメンテナンスが高いからだ。これは原価の22%になる。格安航空会社の間でもっとも人気のある航空機は、燃費の良い全席180席のエアバスA320だが、ロシアではこのような航空機入れ替えを行うとなると、付加価値税を含めて42%もの税金がかかってくる。その結果、航空機1機につき1000万ドル(約9億3000万円)も余計にコストがかかると、「アヴィアノヴァ」の元最高責任者、アンドリュー・パイン氏が明らかにしていた。
第三に、航空会社が機内食などの一連のサービスを、乗客に無料で提供することが法律で義務づけられているからだ。専門家の評価によると、手荷物の課金によって5~7%の節約が可能になり、払い戻し不可航空券の販売によって飛行料金を10%下げることができるという。
飛ばないロシア人
「アエロフロート」はロシアの格安航空会社の新時代を築こうとしていると、同社のヴィタリー・サヴェリエフ社長が10月末に伝えていた。「プロジェクトの規模だけが、その有効性を証明できる。民間航空市場で15%の占有率を見込んでいる」。
サヴェリエフ社長によると、政府が必要な措置を講ずれば、それぞれの目的地の航空券代金が30%ほど安くなるという。特に必要な措置は、払い戻し不可航空券の販売、手荷物への課金、外国人操縦士の採用の許可だ。
「スカイ・エクスプレス」の元社長、マリーナ・ブカロワ氏は、同社の失敗の原因が、限定的な国内需要だと話していた。ロシア人には、都市間を飛行機で行き来する理由がないのだ。同社が存続している間、搭乗率が75%以上になったことはなかったという。
「11月の月曜日は、ソチ行きの航空券を1000ルーブル(約3000円)にしたが、40~50人の乗客しか乗らなかった。わざわざ飛行したがる人がいなかった」とブカロワ氏。航空券代を500ルーブル(約1500円)まで下げても、さほど売り上げは伸びなかったという。
ロシアの投資会社「レギオン(地域)」のアナトリー・ホドロフスキー氏も、必要なレベルの旅客流動がないことが、格安航空ビジネスが発展しない主な理由だと考える。「ロシアでは年間600~800万人しか飛行機を使わない。とはいってもこれは旅客流動の話ではない。利用者数であれば2011年は約6400万人だった。ひんぱんに飛行機を利用する人が600~800万人おり、その人たちが利用者数をあげているのだ」。
問題はコストパフォーマンス
一方で、「アエロフロート」はこれについて楽観的な反応を示している。「当社は現在、珍しい状況におかれている。自社の傘下に市場をつくれる可能性があり、自ら分野を築いていると言える。『アエロフロート』グループの格安航空会社のターゲットは、スポーツ選手、ファン、社交的な人々、進んだ若者など、色んな街に行き来する人々だ」と関係者。
アメリカ系コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」モスクワ事務所のドミトリー・サヴィツキー氏は、ロシアに格安航空会社を設立する意味はあると考える。
「重要な課題のひとつは、いかに魅力的な商品をつくり、乗客を従来の航空会社から、新しい航空会社の飛行機に乗り換えさせられるかにある。新規格安航空会社の座席は通常、従来のものより狭く、熱々の食事も提供されない。それを我慢できるのは、よほど航空券代が安いか、航空路線網が優れているか、巧みなマーケティングが行われているかだ」。
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