アジア向けの石油

=タス通信撮影

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ロシアの石油は、徐々にアジアの消費者に近づいている。

東シベリア太平洋原油パイプラインの第2期工事(ESPO-2)が昨年12月25日に完工し、日本はロシアから48時間で原油を調達できるようになった。ロシアはこれを機に、この原油がアジア市場の標準油種になればと、期待を高めている。

原油タンカー「ダイヤモンド・アスパイア号」は1月21日、ESPO-2の最初のロットとなる10万トンの原油を、茨城県の鹿島港に納入した。ESPO-2の終点となる原油輸出ターミナルのコズミノ港(ナホトカ市近郊)から、日本の港までの所要時間は、わずか2日だ。日本は原油の8割を中東から調達しているが、この地域からだと海賊事件が多発するアフリカ近くの海域や、マラッカ海峡を通過しなければならず、輸送時間も約3週間ととても長い。原油タンカーの用船料は、1日4万~5万ドル(約370万円~470万円)かかる。

 

シベリアの原油をアジアに 

ESPO-2は、西シベリアと東シベリアで採掘される原油をアジア市場に送ることが可能な、第1期工事(ESPO-1)の延長部分だ。ESPO-1はイルクーツク州タイシェット市からアムール州スコボロディノ市まで伸びる、全長2694キロ、年間輸送能力3000万トン(今後5800万トンに拡大する予定)のパイプラインで、2009年末に完工していた。

スコボロディノ市からは中国大慶市に向う支線が敷設されており、1500万トンがこの支線で輸送され、残りの1500万トンがコズミノ港から各国に原油タンカーで輸送される。ESPO-2完工前はこの区間を鉄道輸送で対応し、昨年は日本、アメリカ、インドネシア、韓国、シンガポール、フィリピン、台湾、マレーシアに納入していた。これからはESPO-2を活用できる。延長分を含め、ESPOの総建設費用は約100億ドル(約9000億円)になる。

 

EU諸国の不安 

完工してバルト海と太平洋がつながったことにより、西側から東側への輸出の方向転換が理論的に可能となったが、この状況がEU諸国を不安にさせた。欧州委員会エネルギー総局のフィリップ・ロウ総局長は昨年末、ロシアの国営石油パイプライン会社「トランスネフチ」のニコライ・トカレフ社長宛てに、同社の投資プログラムに関する報告を求める書簡を送った。トカレフ社長はこう話す。「新しいルートが開通したことで、ヨーロッパへの安全なエネルギー供給が維持できるかということをEUが不安に思っている」。

ロシアが東シベリアの原油に対する輸出税を下げたこともあり、ESPO-2完工後、ロシアが追加的な原油をヨーロッパ市場にまわさなくなるのではないかと懸念しているのである。

 

シェアを上げ標準油種を目指す 

ロシアの専門家は、そのようなことは起こらないと確信を持つ。まず、ヨーロッパへは西シベリアから、アジア太平洋地域へは東シベリアから、それぞれ原油が供給されるようになっているし、ヨーロッパには「ウラルス(Urals)原油」、アジアには「エスポ(ESPO)原油」と、輸出される油種も異なる(エスポの方が質が高い)。また、ESPO-2の原油輸送コストは、税優遇措置があっても、バルト海パイプラインシステム第2期工事(BPS-2)の輸送コストの3.5倍もかかるため、生産会社は西シベリアからヨーロッパに輸送した方が得なのだ。

ESPO-2稼働後のアジア市場におけるロシア原油の割合は、3.8%から5.5%、最大で8.8%まで伸びる可能性がある。エスポ原油の輸出量増加が、標準油種として認められる条件の一つであると考えるのは、アメリカの資源情報会社「プラッツ」モスクワ支社のナデジダ・ロドワ編集長だ。具体的な条件としては、1日50万バレル(年間2500万トン)以上が好ましいという。今年度は、コズミノ港経由だけでも、「トランスネフチ」は2100万トンの輸出を計画している。

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