イリーナ・ヴィネル・コーチは、「私の仕事の70%は精神面に関わるものです」と言った。=
ルスラン・シャムコフ撮影/タス通信新体操のロシア代表チームには常に強力な“代打”がいた。スターに万一のことがあれば、いつでも取って代われる。その一番顕著な例は、たぶん、2000年のシドニー五輪で起きたものだ(これは同時に健全な競争でもあった)。
この時、個人総合の優勝候補の筆頭は、アリーナ・カバエワだったが、フープ(輪)を場外に出すミスを犯して、銅メダルにとどまった。が、金メダルを獲得したのはやはりロシアのユリア・バルスコワだった。
ロシア・チームを指導するのは、ヘッドコーチで、2008年から全ロシア連邦新体操総裁を務めるイリーナ・ヴィネル氏。選手達は、氏の指導を受け始めるや、ある原則を身につけねばならないという。
アリーナ・カバエワ=ロイター通信
「選手が自分の“偉大さ”に酔って独りよがりになるのは、チーム全員にとって、そして何より本人にとって有害です」。こうヴィネル氏はロシースカヤ・ガゼータ(ロシア新聞)に語った。「そうなると、進歩は止ってしまいます。表彰台に立っているときは、スターであり、“伝説”になるのは結構ですが、いったんそこから下りたら、勝利のことは忘れ、以前に倍する努力をしなければなりません」
ロシアの選手達は、他国のライバルに尊敬の念を抱いているが、いったん競技に入ると、他の誰でもなく、自分自身に克とうとする。
今年8月に開催された新体操W杯ロシア大会(カザン)で、マルガリータ・マムーンは、個人総合およびすべての種目別(フープ、ボール、クラブ〈こん棒〉、リボン)を制した。これについて彼女のコーチで元世界チャンピオンのアミナ・ザリポワ氏は語る。
マルガリータ・マムーン=ロイター通信
「カザンW杯でのマムーンの演技は気に入りました。精神面も良かったと思います」。通信社「スポーツのすべて」は、ザリポワ氏のコメントを伝えている。「彼女の主なライバルは、彼女自身です。自分の恐怖、自信の無さなどと戦うことを学ばなければなりません。それは、ヤナ・クドリャフツェワに勝つためでも他の誰に勝つためでもなく、自分に克つためです」
新体操ではいつもロシアの選手が“バーの高さを決めてきた”。世界をリードする者として、団体でも個人でも全体の“トーン”を決めてきたのである。これは、新旧のメンバーがほとんどすっかり入れ替わるような場合でさえそうだった。シュトゥットガルト大会の団体演技に出るのは、アナスタシア・マクシモワ、ディアナ・ボリソワ、ダリア・クレショワ、マリア・トルカチョワ、ソフィア・スコモロフ、アナスタシア・タタレワの6人。このうち檜舞台の経験があるのは、3度世界チャンピオンになっているマクシモワだけだ。
だが、こういうフレッシュな陣容でさえ、ブルガリアの振付師、リュシ・ディミトロワ氏は、シーズンの最初から、「クレイジーなくらいの離れ業とテンポ」の超難度のプログラムを課した。
チームのコーチ、タチアーナ・セルガエワ氏がその理由を説明してくれた。「私達は安易な道は決して歩みません。ロシア・チームは、世界をリードしなければならず、頭三つ分、抜きん出ていなければなりません。『ロシアは宇宙だ、我々には手が届かない』と、すべてのライバルから言われるように、トレーニングし、競技しなければ」
アゼルバイジャンのバクーで行われた欧州選手権では、外国のジャーナリスト達はまたもやこう質問する羽目になった。「ロシアの選手達はどうやってシーズン初めのあらゆる大規模な国際大会で圧勝し、金メダルをほぼ独占することができたのか」
これに対して、ヤナ・クドリャフツェワはこう答えた。「ロシアには最良の新体操のシステム、伝統があります。勝利し、最高のレベルで成長していくための、あらゆる条件が整えられているのです――ロシアでは、住まい、食事、練習場などすべてが保障されています」。これにマルガリータ・マムーンは付け加えて、すべては、ヴィネル・コーチのおかげだ、コーチは、個々の選手達にどう接し指導すべきか、そのアプローチを知っている、と述べた。
これに対しヴィネル・コーチは、「私の仕事の70%は精神面に関わるものです」と言った。「精神面は、どんなトレーニングでも振付でも代替できないものです。私は最高の演技とはどんなものか説明し、実例で見せるように努めていますが、それは、自分の仕事に対する正しい態度であり、愛情をもってなされる練習であり、いわゆる『流れに入る』ということなのです。こういうトランス状態になると、時間を超えてしまい、どんな技術も問題ではなくなります」
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