エフゲニー・カフェルニコフ=ロイター通信
今年のクレムリン・カップ(10月11日~19日)は男子ATP250シリーズ25周年。コートで式典が行われた。女子WTAプレミアトーナメントは1996年の開始以来、さまざまな一流選手を惹きつけてきた。セリーナ・ウィリアムズ、アンディ・マレー、マルチナ・ヒンギスなどが、モスクワのオリンピック・スタジアムの室内ハードコートでプレー。そしてロシア人選手は特別なオファーを受けてきた。「毎年出場しようと努めていた」と、元世界第3位プレーヤーのニコライ・ダヴィデンコ選手は話す。クレムリン・カップでは3度優勝している。
クレムリン・カップはすべてがバラ色というわけではない。それはスケジュールの問題である。ほとんどのトップ選手が10月までにシーズン最後のツアーファイナル出場を決めているため、モスクワに旅行するよりも、休息をとることを選ぶ。
それでもクレムリン・カップのステータスを維持できるのは、ロシアがテニス国であるためだ。世界有数の強豪国として、選手は活躍している。4大大会を2度制覇しているスベトラーナ・クズネツォワ、元スターのエレーナ・デメンチエワ、そしてダヴィデンコ。
負傷に悩まされ、引退発表を控えているダヴィデンコは、もう少し早く引退したかったが、テニス中毒とも言える衝動がそれを許さなかったと話す。「我々テニス選手というのは、走らなきゃ、練習しなきゃ、と目を覚ますような人間ばかり。(引退して)悪夢から解放されればいいけど」
ソ連のイデオロギーとは合わず
今から30年前、この国にほとんどテニスの伝統がなかったことを考えると、現在テニス国になっていることは驚きである。個人の選手が好きな試合を選びながら世界ツアーをするような、テニスのゆるい構造は、亡命を防ぐためにスター選手を厳しい管理下に置いていたソ連政府にとって、受け入れ難いものであった。ソ連のプロのテニス選手が優勝賞金を稼ぐというのは、間違いなくマルクス主義的イデオロギーに反する。
その結果、ソ連は他の東欧諸国よりも遅れていた。ルーマニアがイリ・ナスターゼの活躍に沸き、チェコスロバキアがマルチナ・ナブラチロワやイワン・レンドルなどの伝説的な選手を多数輩出する一方で、ソ連の観客は1974年夏の全仏オープンおよびウィンブルドンでオリガ・モロゾワが決勝戦で敗退した時のように、自らをなぐさめ続けた。
テニスのステータス
ボリス・エリツィン=ドミートリイ・ ドンスコイ撮影/ロシア通信 |
賃金急減や厳しいインフレにあえいだソ連崩壊後の混乱期、ロシアのテニスには興味深い事象が発生。数少ない成長分野になった。ロシアの多くのスポーツがソ連型の組織的管理の下で新しい時代に順応しようと苦闘していた中、テニス選手は世界ツアーをまわるプロの独立した生活を自由に始めていた。
若くて才能のあるロシアの選手は、アメリカやヨーロッパの一流アカデミーで自分の才能を磨いた。マラト・サフィンは1994年、14歳の時、モスクワのクラブでは教えられていなかった先進のテニス技術を学ぶため、スペインに移住。6年後に世界のナンバー1になった。
ロシアが貧窮していたこの時代、裕福な中流階級のゲームという世界のテニスのイメージが役に立った。ロシアの新しい実業家や政治家には影響力も豊富な資金もあったが、多くがステータスを望んでいた。テニスのレッスンほどこれにぴったりなものはない。新たに生まれたリッチなテニス愛好家のグループのリーダーで、ロシアのテニス選手のスポンサーとなり、その高額なコーチ費用をまかなったのは、他でもない、ボリス・エリツィン・ロシア初代大統領である。
エリツィン大統領がテニスを楽しむ映像が広く報道されてから14年経過した今でも、ナイーナ未亡人はエリツィンの名で、ソ連崩壊後の中流階級出身の若い選手に多額の奨学金を与えている。
新しい才能が必要
ロシアは困難な1990年代を乗り越えた後、安定的にトップ・プレーヤーを輩出し続けてきた。全仏オープンの覇者であるアナスタシヤ・ムィスキナや、2008年北京五輪の金メダリスト、エレーナ・デメンチエワなど。両者ともモスクワで練習を続けてきた選手だ。ちなみにシャラポワは8歳の時にアメリカに移住しているため、例外である。
現在の懸念は、その安定的輩出のスピードが鈍りつつあるところ。男子では、ロシアはエリート組から脱落している。ミハイル・ユジュヌイの世界ランキング30位が最高だ。ロシア・テニス連盟のシャミル・タルピスチェフ理事(エリツィンの元コーチ)は、連盟の資金不足を訴えている。資金の主な供給元は、国と関係しているスポンサー。
それでも夢は続く。ダヴィデンコは自身の甥のフィリップの才能について語りながら、正しい支援が必要であることを訴えた。「可能性のある選手がいて、支援できる人がいれば、その選手は順調に成長できる」
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