F1デビューを果たしたソチ

ウラジーミル・アノソフ / ロシア新聞撮影

ウラジーミル・アノソフ / ロシア新聞撮影

先週末、黒海の保養地で冬季五輪開催地でもあるソチで、ロシア初のF1グランプリが行われた。その華麗なデビューに対し、有名レーサーもジャーナリストも観客も、ロシアの主催者への惜しまなかった。

 記念すべき初のロシアグランプリで優勝したのは、イギリス人のルイス・ハミルトンで、彼の所属チーム「メルセデス」は、ソチでの大会で初めてコンストラクターズチャンピオンとなったが、黒海沿岸での新しいF1レースの成果は、他にも挙げることができる。

 レース後、喜色満面のルイス・ハミルトンはこう語った。「ロシアでF1がこんなに愛されて人気を博しているとは思っても見ませんでした。観客席に鈴なりの人々の姿に感動しました。みんな私たちがここへ来たことを心から喜んでくれているようでした」。ハミルトンは、予選後にロシアへの愛を告白しはじめ、休日をソチで過ごそうと考えたほど…。

 ハミルトンばかりでなくほとんどのF1関係者にとって、ロシアにおけるF1人気はまさにサプライズとなった。ソチのサーキットの主任設計者ヘルマン・ティリケ氏は、自分が設計したサーキットに55000人もの観客が足を運ぶと思っていたかとの記者の質問に、一旦は首を横に振ったものの、やはり成功は期待していたと言い添えた。

 ソチのサーキットのパドックは、高揚感に満ちており、F1の最長コースの一つとなったユニークなサーキット(5853メートル)も組織の水準も眼前の眺望も、称賛の的となっていた。オリンピックパークでレースを開催することは、たしかに異例のことで、F1のチーフプロモーターであるバーニー・エクレストン氏は、スタジアムの照明も見られるように夜かせめて晩にロシアグランプリを開催すべきではないかといった質問を逃れるのに必死で、「それはできないことはない」と短く答えたきり、それ以上は語らなかった。

 

オリンピックを組織した経験 

ウラジーミル・アノソフ / ロシア新聞撮影

 ソチでのグランプリを組織面で成功させるのは、そう難しいことではなかった。ロシアグランプリのプロモーターであるセルゲイ・ヴォロヴィヨーフ氏はこう語る。「私たちのチームのメンバーの多くは、オリンピックやパラリンピックで仕事をしてきました。輸送面でも、五輪の経験が活かされました」

 F1は、その規模や観客数の点でオリンピックの開閉会式に匹敵するので、輸送や安全や外食などのシステムは、実験に走ることなくそのままの形で用いられ、変わった点と言えば、オリンピックパーク内を走るゴルフカーや電気モーターで動く小型の列車がかなり増えたことくらい。観客は富裕層が多いので、それなりのサーヴィスが必要だった。

 

「お金に糸目はつけない」

 外国のファンは、ロシアグランプリへ事実上やってこなかったが、もしも来ていたなら、ハミルトンと同じような印象を持ち帰ることができたろう。喜んで彼らの席を占めたのは、全国からソチへやってきたロシア人で、彼らは、5000ルーブル(125ドル)の立見席から220000ルーブル(5500ドル)のVIP用ボックス席に至るまでのチケットにお金を惜しまなかった。

 マグニトゴルスク(モスクワから南東へ1694キロの南ウラルの都市 ― 編集部)からソチへ来たというアンドレイさんとマリアさんは、こう語る。「こんなイベント、見逃せません。最初のグランプリは一度きりですから、いくらでもお金は払います。私たちは、20年もF1をテレビで観戦してフェラーリを応援してきましたが、ロシアでこの目で見られるとは思ってもみませんでした。100000ルーブル(2500ドル)を費やしましたが、フェルナンド・アロンソやキミ・ライコネンの直筆のサインが入ったTシャツを着てこうしてオリンピックパークを闊歩できるのです」

 観客は、こういった人がほとんどで、根っからのF1好きは、家族とともに観戦し、そこいらの専門家よりあらゆる機微に通じている。なかには、モンツァ、モナコ、ハンガロリンクといった欧州のグランプリへ足を運ぶ人もいるが、彼らは、「組織はロシアのほうが上ですね。すべてが斬新で現代的で…」と胸を張る。

 

二年目のジンクス

 テレビ解説者のアレクセイ・ポポフ氏もファンと同様の見方だ。同氏は、20年以上もF1の実況を担当しており、ロシアにおけるF1人気は、ある意味で氏のおかげとも言える。ポポフ氏は、例外なくすべてのグランプリを一度ならず観戦してきたが、ソチでのグランプリについては迷わずに「最高です」と述べた。

ウラジーミル・アノソフ / ロシア新聞撮影

 「私がF1の放送にたずさわってきた23年間で最も感銘深いデビューですね。自画自賛と思われるかもしれませんが、本当にそうなのです。組織の面でソチと肩を並べられるのは、アブダビやバーレーンくらいでしょう。違っているのは、あちらはそうした水準へ達するために三、四回レースを開催して修正を加えていったという点で、こちらは初回からすべてがあまりにも上首尾で、私も仰天しています。この週末、たくさんの外国人が、私の肩を叩いては、成功だねと言いました。あとは、この成功が維持されることを願うばかりです。観客が来なくなったり組織者がちょっと気を抜いたりする二年目が、何より難しいのですから」

 しかし、次回のF1ロシアグランプリについては、まだ考える時間がある。2015年のグランプリの成功は、多くの点で組織者にのみかかっているわけではない。一週間前、「トロ・ロッソ」のロシア人レーサーであるダニイル・クヴャートが「レッドブル」における四度の世界チャンピオンであるセバスチャン・ベッテルのシートへ移るとの発表があった。つまり、ファンには、自国のレーサーや自国のチーム(「マルーシャ」はロシアのライセンスを備えている)や自国での開催に続いて、たとえ世界チャンピオンでなくともどんなグランプリでも優勝できるレーサーを手に入れる現実的な希望が現れたわけであり、これは、どんな広告よりも観客を惹きつけるだろう。ロシアとF1のロマンスは、今まさに始まったばかり…。