世界のチェスで上位を守るために

タス通信

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7月20日は「国際チェスの日」。世界中がこの日を祝う。チェスはソ連崩壊後にロシアが上位を維持している、ほぼ唯一のスポーツであるが、近年、ロシア人のチェスに対する関心は著しく落ちてきている。そんな中、チェスの棋士たちは、状況を変えようと努力している。

世界チェス五輪にロシア女子代表は出場できず

 チェス女子ロシア代表は、ノルウェー・トロムス県で81日から15日まで開催される世界チェス五輪に出場できない。大会組織委員会の公式サイトが伝えた。大会規定によると、代表を送る国は61日までに申し込みを行わなければならないが、それがなされなかったためだという。

 ロシア・チェス連盟はこれを否定していないが、遅れの原因を正式に公表していない。「ロシースカヤ・ガゼータ(ロシア新聞)」によると、グランドマスターのエカチェリーナ・ラグノが国籍をウクライナからロシアに変えるのを、連盟が待っていたという。変更手続きは711日までかかった。

過去100年の  統一チャンピオン16人のうち10人がソ連・ロシア

 チェスの統一チャンピオンは、100年間で16人しかいない。うち7人はソ連人、3人は現代ロシア人。さまざまな種類のスポーツの中で、ソ連崩壊後もロシアが上位の座を維持しているのはチェスだけである。

 7月の世界棋士上位100位で、アレクサンドル・グリシチュクは3位の座を獲得した。僅差で6位につけたのはセルゲイ・カリャキン(1990年生)。12歳の時、史上最年少グランドマスターとして、ギネス世界記録に認定された。8位はウラジーミル・クラムニク。ソ連時代から有名な世界チャンピオンで、20年のキャリアを持つ。

 ロシア・チェス連盟のキリル・ザンガリス広報部長は、ロシアNOWの取材に対し、ロシアは上位から陥落していないと話した。「世界ランキングの上位100位には、旧ソ連諸国の出身者が多数いる。インド人のヴィスワナタン・アナンドや、ノルウェー人のマグヌス・カールセン(現在の世界チャンピオン)など、西側派の勢力も強まっているが、20人の世界グランドマスターのうち7人はロシア人」

 

ロシアでの人気はなぜか低下 

 ウラジーミル・レーニンの発言「チェスは頭の運動」は、ソ連の社会主義プロパガンダのスローガン。チェスはおしゃれでステータスが高いと考えられ、ソ連の優れた棋士は良く知られ、尊敬されていた。ミハイル・タリなどの有名な棋士は、世界初の宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンとともに、若者のあこがれであった。またソ連の棋士の成功は、西側の資本主義システムに対する社会主義システムの勝利ととらえられていた。

 しかしながら現在は、国際大会に出場し、入賞しているロシア人棋士でも、自国での認知度は低い。「世論」基金が20137月に行った調査によると、チェスに関心があると答えたロシア人はわずか2%。人気棋士の名前をあげることのできた人はいなかった。この調査はカザン・ユニバーシアードに合わせて行われたものであるが、ロシアの棋士は皮肉にも、チェス種目で2位を獲得した。

 

才能ある棋士はリスクを冒さなければならない

 ザンガリス部長によると、マスコミがあまり注目していないことが、関心の低さの理由なのだという。19501980年代のソ連では、世界的に有名な雑誌「64」、「ソ連のチェス」、「リガのチェス」などが刊行されていた。現在は連盟がマスコミを呼び込んでいる。例えば「ロシースカヤ・ガゼータ(ロシア新聞)」は専門家としてセルゲイ・カリャキンと提携しており、また「コメルサント」、「モスコフスキー・コムソモレツ」、「スポルト・エクスプレス」なども動いている。

 しかしながら、これもここ2年の話である。問題はテレビで、関連番組は1番組しかなく、それも衛星チャンネル「NTV+」での放送。連盟の新たな幹部会は、状況をすぐにでも変えたいと考えている。

 「ずっとチェスを見てきた観客が年齢的に離れたことが問題だと思う。現在の観客は市場経済の条件のもとで暮らしていおり、テレビがすべてを決める」と、女子代表のコーチであるセルゲイ・ルブリョフスキー氏は述べた。かつてのような関心を取り戻そうとしている間に、何年も経過してしまうという。

 これらすべてによってスポンサーが離れ、主な支援はメセナからもたらされている。そのため、ロシアの棋士には選択が迫られることになる。代表入りと資金調達の厳しい闘いを強いられるリスクの高いスポーツ界に入るか、または勉強を続けて就職し、安定した収入を得るかだ。 

 「スポーツには常に犠牲があることを理解しなければならない。チェスでも、サッカーでも同じ。棋士が自分に自信があり、才能があるなら、リスクを冒さなければならない。安定収入は有名でランキング上位に位置しているスポーツ選手のみが得られる」と、カリャキン氏はロシアNOWに話した。

 ロシア政府は児童チェスに資金を提供しながら、状況を変えようとしている。連盟とスポーツ省は毎年、才能豊かな若き棋士のために補助金を配分しており、棋士は資金的な問題を抱えていない。連盟のマルク・グルホフスキー理事は、スポンサーも子どもに投資することを好むと話す。チェスはお金のかからないスポーツであるため、コーチ料、開始資金、棋士の奨学金になることは明らかだ。 

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