東京公演の目的
アクロバットロックンロールは、1970年に独立したスポーツ種目となった。これは、スイスのスイス人・ルネ・サガラ氏(Rene Sagarra)の貢献が大きい。同氏は、ロックンロールのダンスの特徴的な動きを一つの完成型に統一した。ロシアにこのダンスがやって来たのは1987年のことで、ソ連時代に既に5つの大きな学校が生まれている。現在ロシアでは、ロックンロールダンスの学校は54校を数える。
今年1月、ロシアアクロバットロックンロール連盟(RusFARR)の代表団は、東京公演に出発する。日本訪問の目的について、イワン・スビトネフ会長は次のように説明する。
「私達は、このスポーツがオリンピック種目に採用されることを強く願っており、2024年には実現するといいなあ、と思っています。これに関連して、現在、IOC(国際オリンピック委員会)と交渉中です。IOCの要求を満たすためには、4大陸70カ国以上で普及していることが必須ですが、現時点では40カ国にとどまっています。
日本では、主だった大学で公演を行い、アクロバットロックンロールが“将来のスポーツ”であり、やる価値が大いにあることを示したいと思います。アジアではまだこのスポーツは紹介されていないので、この辺で挽回したいのです」
5度世界チャンピオンになったイワン・ユージンさんも来日
ロシアは、アクロバットロックンロールという新たな流行の発信国の一つだ。どの世界選手権の決勝にも、ロシア選手が絡んでいる。動きは一見やさしく見えるが、その実、粘り強い長期間にわたる練習が欠かせない。
スビトネフ会長によると、ロシアの選手は、週6回、3~4時間ずつトレーニングしている。競技会の前ともなれば、1日2回ずつと、さらに頻度は高まる。
イワン・ユージンさんは、これまで5回世界選手権を制しているが、これほどの成果にも関わらず、この新種のスポーツを始めたのは遅かったという。
「子供の頃はずっとアクロバットをやっていたんですが、14歳頃にすっかり飽きてしまいました。もうスポーツはやめようかな、と思っていたら、ある友達が僕を公開レッスンに呼んでくれました。ちょっとやってみて、これは素晴らしい時間の過ごし方じゃないか、と思ったわけですね。ちょうど1年でマスターできました」
ロシア選手権大会。2013年。
イワンさんは日本行きを心待ちにしている。日本のスポーツマンには、この新種目が趣味に合うはずだと考えているのだ。
「彼らは、アクロバットロックンロールを気に入ってくれると思います。これは、サッカーみたいに、とても入りやすいスポーツですし。ただ、踊りが好きな人じゃないと向かないですけどね。必要な物は、体操着とスニーカーだけです。新しくマスターした技を演技し終えた後の気分は、言葉に言い表せません。確かに、怪我をすることはありますが――背中とか、足の指とか、肩とか…。僕は、このスポーツが五輪種目になって、そこで僕達ロシア選手が表彰台の高いところに上ることを夢見ています」
21世紀のスポーツ
アクロバットロックンロールは、リズミカルな音楽に合わせて、舞踏とアクロバットの要素を統合したもの。ペア(男女)またはグループで踊る。グループは、男性のみのもの、女性のみのもの、さらに、複数のペアからなるものがある。
ダンスの長さは、現時点でのルールでは1分半。様々なトリックや技は、ダンスとうまく組み合わされて初めて意味がある。男女のペアによるスポーティーなアクロバットは他にもあるが、それらと異なるのは、この原則だ。
もう一つの違いは、言ってみれば「バランスの欠如」。それというのも、「気をつけ」や「平衡」は、ロックンロールにそぐわないからだ。さらに、演技が、柔らかい体操用マットではなく、硬い床の上で行われるのも特徴。これは、技の質に対する意識を高めることになる。
ロシア代表チームのタチアーナ・ブイストローワ上級コーチは、アクロバットロックンロールには大きな未来が開けていると考えている。
「以前は、年間50~70人ほどが入ればいいほうで、それで大成功だと思われていました。ところが昨年は、モスクワだけで180人です。これは、クラシックダンスだけでは物足りなくなった少年少女たちで、本当のスポーツ競技をやりたくなったのですね。アクロバットロックンロールは彼らの期待に応えています。このスポーツでは、いろんなダンスが一つに融け合っています(ブギウギ、スイング、ハッスル、ディスコ、リンボーダンスなど)。ですから、思い切り想像の翼を広げられるのです。コーチたちはただ、これらの奔流を正しい方向に導き、アクロバティックな要素に磨きをかけるだけです。
日本に私達が連れて行くのは、選りすぐりの選手たちです。前回のアフリカ公演では、見事な演技を見せてくれて、南アとセネガルの子供達にロックンロールを“感染”させました。東京でもやってくれると信じています。日本人は何によらず進歩が好きですが、これは21世紀のフィギュアスケートなのですから」